アルカディア学報
地方創生と大学の役割
若者流出を止める最後の砦
大学の削減の議論が喧しいが、規模が小さく、入学定員が埋まっていない大学を100~200減らしたところで、規模も補助金の額にもさほどの効果はない。それよりも、各地方で大学が100校なくなることの方が衝撃が大きいと考える。たとえ、入学定員が埋まらなくても、地方に高等教育機関を存置し、機能する方法を考える方が地方創生には有効であり、大学の役割を考え、大学がどう地域に存在し、その入口・出口、社会とのかかわり、学問分野、国際的、地政学的な位置づけも含めて述べる。
地方における大学の役割
そもそも、地域における大学の役割といえば、規模・陣容、歴史にもよるが、高等教育機関として、①教育の場。高度な人材育成と地元定着を図るとともに、他の地域からの流入・還流で、就職後も学び直しで地域の労働力をアップデートする機能。②若者を集め、地域経済の活性化と雇用創出。人口流出抑制への効果。かつては、経済効果○○億円という説明の仕方もあった。③地元自治体や企業と共に地域課題の解決。学生も参加してのまちづくり、観光振興、ボランティア活動などにより、地域のリアルな課題解決につながるケースもある。各大学の淵源で言えば、絹織物の町の繊維専門学校、畜産が盛んであれば獣医学校と、当該地域の産業界との関係は深い。
また、④若者が多いということで、文化・スポーツのメッカになる。最高学府の教員による質の高い講義を住民向けに開放し、地域の知的・文化的な水準を高めるのは魅力的で、歴史・考古学などの人気は特に高い。⑤国際化と多様性(ダイバーシティ)の導入ということに関して、特に地方にあっては、外国人の受け入れだけでなく、英語以外の外国語・文化も含めて多様な国・地域との交流するために欠かせない存在である。これらを考えると、大学の持っている機能は、社会に組み込まれて「見えないインフラ」と化している。少子化一直線の状況にあっても特に地方で希求されている理由に納得させられる。
中教審では
中教審では、大学を地方創生の「核」と位置づけ、地域課題の解決や産業創出を牽引する中核的役割を果たすべきだと明記。具体的には、地域のポテンシャルを引き出す専門人材の育成や、産学官連携によるイノベーション創出の推進が提言されているなど、地方創設と大学の役割を明確に整理している。その中では、地域の産業界と連携し、地域社会の持続的な発展を支える実践的な学びや、若者の地元定着・就職を促進する機能強化が求められている。
大学は地域のリノベーション力も待っている。だからこそ中教審は、大学だけに流出防止を丸投げするのをやめ、「地域連携プラットフォーム」を構築し、行政・産業界・大学が一体となって地域の『知の総和』を上げる構造改革を求めている。
何故、大学が地方創生の「核」か
大学が地方創生の「核」と言えるのは、地域の「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を引き寄せて循環させる唯一無二の拠点で、次の3つの役割を同時に果たせる組織が他にないからである。
①人材の「ダム」と「供給源」機能を有し、若者の流出を食い止める役割
②知の拠点」として新しい産業と雇用を創出
③持続可能な地域コミュニティの維持
特に、地域の行政や企業が求める、専門知識を持つリーダーや技術者を育成して地元に供給するというのは、エッセンシャルワーカーなど、社会機能を維持するためには不可欠である。2021年4月開学の「三条市立大学」は、まさにその目的で開設され、地元のものづくり企業群と緊密に連携した長期インターンシップなどをカリキュラムに導入するなど教育上の成功のみならず、期待した人材還流も、流出抑制にも効果が出始めている。時間はかかっているものの注目に値する取り組みである。
それでも、果たして若者の流出を食い止める機能は地方大学にあるか?
地方大学が持つ「流出抑制」の確かな効果としては「実家から通える範囲にとどまる」若者を一定数確実に確保できるし、地元出身者は、より高い地元就職率との調査データもあり、これはUターン就職よりも定着率が良いとの報告もある。(リクルートの調査データなど)。しかも、私学高等教育研究所の「私立大学ファクトブック2026」によるとその機能は、国公立大学より私立大学の方が高いということである。
それでも、なぜ流出を食い止めきれないのか?
現実には、「進学時」と「就職時」という2つの大きな壁に阻まれ、十分な効果を発揮しきれていない。大学卒業時(就職時)の問題を考えてみると、地元の大学に進学したものの、希望する職種(例えばIT、エンタメ、クリエイティブ、大手企業など)が地元になければ当然、就職時に留まることができない。大学単体でいくら魅力的な教育を行っても、受け皿となる「魅力的な雇用」が地域になければ、卒業時に結局流出してしまうという限界がある。
「だからこそ」
大学単体では流出を止められないからこそ、「大学、自治体、地元産業界が組むこと」が必要なのである。考えられることはいろいろ。
サテライト方式、「コミュニティカレッジ」スタイルの大学として、地元が求める特定の分野を設置し、進学、就職することを条件に、行政と企業等で給付型奨学金や奨学金返還を肩代わりする基金を設ける取り組みもできる。入学前から「お金を心配せず大学進学できる」「地元で自分に求められている仕事に就ける」と気づいてもらう。
くり返すと、大学という供給側だけでなく、地域を含め、受け手側も一緒に考えるということであり、その際は所謂「関係人口」も含めるもので、「地域」自体の範囲も柔軟にとらえて、ということになる。
それでも地方から人材の流出は止まらない。大学は無力なのか?
現状の数字だけを見れば「流出は止まっていない」ため、大学は無力に見えるかもしれない。しかし、現在の地方創生の議論において、大学は「無力」なのではなく、まだまだ「大学という器を、地域が使いこなせていない」、あるいは「大学だけに重荷を背負わせている」ということではないだろうか。
「流出が止まらなければ、転職増加という現実」を逆に使っていくこともあり、ここにも大学のシーズは活用可能である。困ったこと、わからないこと、答えのないことに挑戦し、二の矢、三の矢を次々に撃ち続けることが知識集団たる大学の役割だ。
自治体と協働できるのか
それでも、大学はこれまでは国の専管で、自治体も「何をいまさら」ということかと思いきや、これが意外に積極的(朝日新聞調査)。であれば、大学と、持ちつ持たれつの関係が築けそうである。
あくまでも、双方がその希望する高みに達するためのシーズとニーズを有し、存続の意思が醸成されていることが前提であるが、筆者が勤務している、国際医療福祉大学には全国5つのキャンパスがあり、交流は密で、毎年各キャンパスの所在している自治体の首長さんとも意見交換している。それぞれの状況に応じた期待は当然のように大きく、可能な限りの支援もいただけている。
例えば政府側では
新しい評価は、経営でなく、教育の内容で勝負でき、最高評価(3つ星)を獲得した極めて優れた学部・大学に対しては、国の補助金配分などで優遇するなどの財政的支援(インセンティブ)が検討されているが、評価と支援を関連付けるのには異論もある。さらに、これまで一度減らした定員を再び増やすには厳しい審査を伴う「認可申請」が必要だったが、規模縮小後の7年間で一定の要件を満たせば「文部科学大臣への届出」のみで元の規模に戻せるように制度改正された。
そして、質の向上と連動して定員規模の縮小を実施する大学に対して支援を行うことが中教審答申でも提言されている。
最後の砦
このまま手をこまねいて、自然体に任せていたら、経営的、社会的に存続は無理で、大学そのものがなくなり、流出は「壊滅的」になることは確実だ。高校卒業と同時に100%の若者が大都市圏へ流出し、その多くは二度と戻らない。
大学として大学や地元産業界との「連携をより深めていく努力を重ねる」ことや、「社会に出た後に評価される人材の育成に努める」ことによって、大学があるからこそ、「一定の地元定着層」の創出や「地域を支える医療・教育・行政の専門職」の人材育成が維持されていることを力説したい。
