加盟大学専用サイト

特集・連載

改革の現場 ミドルのリーダーシップ

<57>道徳教育(モラロジー)を学内の隅々に浸透
 麗澤大学

 麗澤大学は、1959年、廣池千九郎博士が拓いた道徳科学(モラロジー)に基づく「知徳一体」を建学の理念として開学した。モラロジーは、人類の師と言われる世界の諸聖人による質の高い道徳の実践とその効果を学問的に明らかにしようとする学問体系。今風に言えば、マイケル・サンデル教授の公共哲学に一脈通じると言えるだろうか。廣池博士は、このモラロジーをもとに、まずは実業界からアプローチし、その後、現在の場所を取得し、1935年に道徳科学専攻塾を開塾、その後、1950年に短期大学、そして麗澤大学を開学し、外国語学部・経済学部の2学部を設置した。大学改革について、長井孝介常務理事、井上貞廣常務理事・事務局長、今村 稔学事部長に話を聞いた。
 同大学は建学の理念が至る所に浸透している。実例を五つ紹介する。
 一つ目に、道徳の実践機会として学生のピアサポートを重視している点である。創立時に全寮制、男女共学を必須としたのはそのためであり、寮では伝統的に上級生が下級生の面倒を見る。「昭和63年から通学制も導入しましたが、これを補うように、オープンキャンパス、オリエンテーションキャンプ、就職支援には、上級生がプログラムをサポートする制度が導入され、伝統が引き継がれています」と長井常務理事は語る。
 二つ目に、モラロジーから解き起こして三つのポリシーが作成され、道徳科学A・Bは、学部共通科目で必修になっているなど、カリキュラム全体にモラロジーが織り込まれている点である。経済学部基礎専門科目「現代社会と道徳科学」では、教員がそれぞれ自分の専門分野と道徳科学を結び付けて語る。こうした道徳科学教育を推進する司令塔として道徳科学教育センターが置かれ、月に1度、道徳科学教育会議が開催される。
 三つ目に、外国語教育である。「日本は島国なので、心を開き、視野を広め、実学に通じるように」と、廣池博士は外国語教育を重視した。昭和40年代、海外技術協力事業団(現国際協力機構)の依頼でアルジェリアからの留学生を受け入れたのをきっかけに留学生受け入れが始まり、現在では世界から400名近くが在籍する。送り出しについては、「クロス留学」というユニークな制度もある。「例えば、ドイツに留学をするが、当地の大学では英語で授業を受け、ドイツ語で生活をすることで、結果的に2言語を修得できる仕組みです。英語圏の大学は学費も高いのですが、特にヨーロッパは学費無料の国も多く、経済的に留学が可能になる学生も多いのです」と今村部長は説明する。
 四つ目に、附属研究機関として、企業倫理研究センターを設置している点である。国際規格であるISO26000(社会的責任)のガイドライン作成に貢献したサシ 巖経済学部教授らが企業倫理について研究し、また、2010年からは、大学自体も同規格を活用した経営を展開している。(大学としての活用宣言は世界初)。「麗澤大学社会的責任への挑戦―ISO26000活用報告書」も発行している。
 五つ目に、自然の恵みに感謝する心の体現として、敷地内の植生や大木の生長に邪魔にならないように配慮されて建物が建設される点である。キャンパスは、西洋の幾何学的なデザインではなく、東洋的な自然を生かしたものとなっている。
 大学経営については、元よりガバナンスに工夫がされている。例えば、毎月1度、全体朝礼があり、廣池理事長は年に3回講話をし、そこで方針等が全法人で共有される。中期計画は現在作成中だが、事業計画は1980年頃から作成されている。自己点検評価は1994年から行われ、学内の様々なデータが集められ、麗澤大学年報としてまとめられ公表されている。教学ガバナンスは、大学の最高意思決定機関である「協議会」、その意見交換の場として「研究科長・学部長会議」が置かれている。各会議体は、「麗澤大学教員マニュアル」に細かく定義されている。職員の処遇連動型の人事考課制度がスタートしたのは1989年と古い。
 大々的に改革が行われたのは、中山 理教授が学長に就任した2007年前後から。中山学長の情熱と強いリーダーシップのもと、法人と大学事務局を統合し各部のトップを職員とする事務局組織の改編、理事定員を大幅に削減し、常務理事会を廃して理事会で意思決定をする身軽な経営体制とする改組、前述の道徳科学教育センターの設置等が行われ、建学の理念をいかに教育の中に取り込んでいくかを中心に据えた。こうした一連の改革は、当時の総務担当理事の指揮の下、総合企画部が担った。「教職協働は昔から自然とできていました。寮制度の関係で、教員が職員のような役割を担った時期もあります」と井上事務局長は振り返る。
 建学の理念を、組織の隅々まで徹底して浸透させる。簡単なようで難しいこの取組について、麗澤大学は果敢に挑んでいる。

建学理念の徹底、組織運営改革、職員参加で改革推進
桜美林大学教授/日本福祉大学学園参事 篠田道夫

 麗澤大学は建学の理念を徹底して教育に具体化する。創立以来、知徳一体を掲げ、品性・人格教育と実学・専門技能教育の二つの柱を掲げる。専門知識の教授だけでは真に社会に役立つ人材は育てられず、学歴・財産・地位だけでは幸せになれないという強い信念がある。モラロジーは創立者の造語だが、優れているのは、この理念を実際の政策の中核に掲げ、研修等で徹底して教職員に浸透させ、教育の内容や業務遂行に具体化し、その推進を図る運営システムを作り上げている点だ。
 道徳科学教育センターが中心となり、この理念をカリキュラムに具体化、1年次全員必修の道徳科学A、Bを学部共通科目として開講、一五のクラスの担当者を集めた道徳科学教育会議を毎月開催し、授業内容の交流・充実に取り組む。専用の教科書『大学生のための道徳教科書―君はどう生きるか』『同(実践編)』は2~300ページある本格的なもの。実例が豊富で理解しやすく、最近は高校生向けの教科書も作成した。
 自校教育「麗澤スタディーズ」で建学の理念を学ぶ。ここでは上級生の自校史スタッフが大学の歴史をかみ砕いて解説する。キャリア教育科目「麗澤スピリットとキャリア」では、就職に当たりまずは胸を張って麗澤生だといえる確信・自信を身に付けさせる。伝統的に学生寮教育を重視するのも特徴だ。
 経済学部にも企業倫理研究センターを置き、CSRや企業倫理、情報倫理の教育・研究を重視、新設科目「現代社会と道徳科学」は、学長を始め多くの教員が道徳の意義を多面的な視点から教える。
 新任教員研修は1泊2日の泊り込みで、建学の理念の理解を深め教育の充実を議論、理事長講話も年3回、毎月の教職員の全体朝礼では誓いの言葉を全員で唱和するなど徹底している。
 ここまで理念の実質化にこだわるのは、これが麗澤教育の核となる特色をなすとともに、創立理念の浸透で、目標実現に向かって教職員全員で一致して取り組む伝統的なマネジメントがある。2010年には大学開学50周年、学園創立75周年を迎え、中山学長のもと更なる教育の特色化を進めている。
 少人数教育を支える教員は設置基準の1.5倍おり、1年次から続く担任制度、「語学の麗澤」と呼ばれる通りの徹底的に語学力を磨くシステムでTOEIC点数の大幅な伸びを図る。2か国語の同時習得を目指し、第2外国語の言語の母国に留学し第1外国語も併せて学ぶクロス留学も評価が高い。23の国から全学生の1割を大きく超える360人の留学生が在籍、海外留学する学生の比率は全国トップ10に入る。経済学部でも国際ビジネスを強味とし、英語で経営を学ぶ。
 また、麗澤大学は学生同士のピアサポートを重視する。オリエンテーションキャンプは上級生リーダーと共同して企画・運営、キャリアセンターの在学生アドバイザー、オープンキャンパスでの広報スタッフ、自校教育スタッフ等、あらゆる場面で上級生が下級生を支援することで互いの成長と自立性を培う。
 2006年の管理運営組織の再編で法人管理部門と大学事務組織を統合、13部を6部にするなど大くくり化、その後、課を廃止しグループ制とした。縦割りの改善、学生サービスの強化、教学組織との連携、広い分野に精通することで全学視点で判断できる職員の育成や意識改革を進める。 
 2007年には理事会体制も改編し26人いた理事を半減、教学と事務のバランスの取れた構成にした。大学の意思決定機関である協議会、大学院委員会の構成メンバーには事務局長、学事部長等が入り、また各専門委員会にも職員が構成員として参画する。教員と共に職員が責任を持つ体制に移行、教学、事務、法人間の連携を強化した。日本高等教育評価機構と大学基準協会の評価を連続して受け、評価を踏まえた将来構想、中期計画を策定、今年はその実行計画づくりに取り組んでいる。
 職員は大学院入学支援制度などで専門力量の育成を重視、1989年から導入された人事考課制度は2005年より成果主義的な要素を取り入れ業務目標の達成を重視、考課配分率の引き上げなどを進める。
 建学の理念を実際の教育や業務に徹底し、それを担う組織運営改革や職員参画により教職一体での目標実現に取り組んでいる。