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アルカディア学報

No.86

大学学長の世界―IAUP第13回年次大会に参加して(下)

大阪商業大学教授   鋤柄 光明

 多様化する大学の国際的な質的保証という議題は、今回の会議でも重要なテーマのひとつで、IAUP(世界大学総長協会)前事務局長であるベルギー・フレミッシュ系大学協会のバンデン・ペレ氏(ベルギーの大学はフレミッシュ系:フランス語圏とオランダ語圏の大学群からなっている)が中心になって、INQAAHE(世界大学基準ネットワーク)とユネスコとの共同作業を行っており、Worldwide  Quality Registerという新組織を立ち上げようとしている。そこでは、各国の基準認定団体に認定された大学が再登録され、その大学間での単位互換、学生と教師の移動をスムーズに行うことが期待されている。基準認定の方式は、アメリカでの事例に準拠し、自己点検とピアレビュー(大学関係者による相互査察)を柱とする原案が作成されていた。
 国を超えた大学連携には、旧英国連邦諸国における大学連合、スペインを中心とするイブロアメリカン大学連合、カトリック大学連合等が活発な活動を行っているが、更に前ユネスコ事務局長マイヨール氏が中心となってAcademy  of Latinityというラテン語系大学連合が構想され、フランス・イタリア・ブラジル間で準備活動が進められるとのことである。
 日本で開催されたIAUP第10回大会では、当時IAUP会長が日本の宮地貫一氏、また同時期のIAU(国際大学協会)会長も日本の森 亘氏であったので、初めて両組織の積極的協力体制が確立し、その後の年次大会には相互に代表を派遣し合うまでになった。さらに既存の地域大学連合であるアフリカ大学協会やアラブ大学協会等からも正式代表が参加し、今回は北朝鮮からも初めて代表が参加(ビザの関係で大会期間中には到着できなかったが)、まさに世界の全ての大学が相互に交流できる体制が可能になったと言える。
 しかし、大学を取り巻く環境はもの凄い勢いで変化し、21世紀の大学連合や相互交流は新局面を迎えることになると予測されている。E-learning大学の出現、IMF勧告に見られる国境を越えた教育事業の展開などに加え、世界的な統計によれば大学はまだエリート機関であるのに、大学教育を受けた人間が必ずしもその国の人材育成に繋がらなくなってくれば大学の使命と国家の関係はどうなるのか、受益者負担を導入すれば益々豊かな国や個人だけが大学教育の成果を独占することになるのではないか。経済的混迷を続ける南米の大学学長からは、このままではアメリカのドル支配とアメリカ的大学運営方式が南米諸国の文化的価値まで崩壊させてしまうという危機感が表明された。大学の文化がユニバーサルなものだとすれば、大学教育が普及すればするほどモノカルチャーな世界の出現を目指すことになりはしないのか。アメリカのボストンカレッジのフィリップ・アルトバック氏が「比較高等教育論」で検証したように、世界の大学は基本的に西欧の大学をモデルとして発展し、それ以外のモデルが未だ生まれていない現状からすれば、基本設計は共通で内装やボディーカラーとハンドルの位置だけが異なる世界戦略車型大学が隆盛を極めることになるのだろうか。
 21世紀の大学学長はacademicianかadministratorかという議論もテーブルを賑わしたテーマで、事実上多くの学長が就任以来教壇に立つことが出来ないほど忙しく、求められる資質も組織の長としての人事管理と経営手腕が優先される傾向にあり、それだけ重い権限と裁量が学長に委ねられることになっている。それゆえ、学長の人選は大学理事会・評議会での最優先事項となり、前号(2070号、7月24日付)で述べたような国を超えたリクルート合戦が進行中というわけである。そうはいっても、個々の大学が持つ伝統や慣習に無関係に改革を進めることはできないので、大学の文化とその大学が置かれた国状に精通していることが当然要求される。そのような人材を大学の外に求めるのか、大学の内部で養成して行くことが出来るのかも学長達の懸案事項だった。
 以上、全ての議論をカバーできなかったが、これらの課題全てを総括する大会テーマとして "Academic Value, National Dreams, Global Realities"(世界状勢下における大学の価値と国家の目標)が掲げられていた。
〈おわり〉