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アルカディア学報

No.768

総合学園としての学園運営

鶴健太郎(学校法人鶴学園理事)

はじめに

 学校法人鶴学園は、1956(昭和31)年に広島市西蟹屋町に広島高等電波学校を創立したのが始まりである。建学の精神「教育は愛なり」、教育方針「常に神と共に歩み社会に奉仕する」という2つの教育理念のもと学園運営を行っている。建学の精神「教育は愛なり」とは、校祖である鶴虎太郎の教育精神を表した言葉である。児童、生徒、学生を心から愛し、愛にもとづく教育をし、愛を教育の本質とされた校祖の教育の精神を永遠の目標としている。教育方針は鶴虎太郎の四男で鶴学園の創立者である鶴襄が定めたものである。人格の完成を目指し、心身ともに健康にして己を制御し、「常に神と共に歩み社会に奉仕する」人間の育成が、鶴学園の教育方針である。この教育方針のもと、社会に貢献できる教育を展開している。
 この2つの教育理念のもと、なぎさ公園小学校、広島なぎさ中学校・高等学校、広島工業大学高等学校、広島工業大学専門学校、広島工業大学・大学院を運営している総合学園である。

総合学園としての学園運営

 現在、日本において社会問題となっていることの一つに少子化がある。特に我々のような教育業界にとって大きな問題となっており、新聞などにおいて定員割れの私立大学が半数を超えたなど厳しい状況が報じられている。しかし、私学は日本の教育において、非常に重要な役割を担ってきた。私学には創立者の想いがつまっており、各学校法人では独自の建学の精神のもとに人材育成を行い、日本の発展に大きく貢献してきた。今後の私学は、いままで培ってきたものを活かし、厳しい時代を乗り越えていかなければならない。そのひとつの方策として、総合学園というスケールメリットを活かした学園運営があると考えられる。

鶴学園の特色

 本学園は、設置校の名前を見るとわかるように、「なぎさ」という名前を冠する学校と「工大」という名前を冠する学校という大きく2つのグループ・ブランドを有する学校法人である。
 なぎさブランドにおいては、小学校から高校までの12年間一貫した「なぎさ」らしい独自の教育プログラムを実施している。なぎさ公園小学校の教育の特徴に、自然体験など「ほんもの」を五感で感じることがある。国語教育を大切にしており、そのひとつの成果として「ルポ 誰が国語力を殺すのか」(石井光太著、文藝春秋)において、なぎさ公園小学校のことが紹介されている。広島なぎさ中学校、高等学校では「知性と感性」を身につける教育を行っている。もちろん、中学校からの6年間、高校からの3年間の生徒も受け入れを行っている。
 工大ブランドにおいては、工業大学という名前があるように、「ものづくり」を意識した連携を行っている。広島工業大学高等学校では、学園内の大学や専門学校への進学ということが以前から行われてきた。しかし、少子化などにより、理工系を志願する生徒が減少してきたことから、K―STEAM類型CLコースを設置した。名前のとおりSTEAM教育を実施している。そこではファブリケーションラボを設置し、3Dプリンター等を使用して自由にものづくりができる。さらに、この連携の特徴は、広島工業大学の教員が高校の授業に入り、教育を行っているところである。大学は高校で教えることにより、現実の高校生を知る良い機会となっている。高校と大学の連携が深まり、学びが濃くなっていく。そうすることにより、大学とのつながりが強くなっていくことが期待される。今後は、大学の受け入れ体制や授業以外の課外活動などでの連携を行うことにより、さらなる関係性の強化を行っていくことが必要である。また、専門学校と大学の連携もあり、専門学校から大学への編入学や大学施設を利用した実習も行っている。
 もちろん、その他の連携も学園内で行っている。例えば、広島工業大学専門学校が、なぎさ公園小学校の施設を活用し、実習を行うことや、自然豊かな広島工業大学沼田校舎(沼田キャンパス)で各設置校の自然体験学習などが行われている。
 このように、本学園の中では各設置校同士の連携が行われている。しかしながら、本学園では連携が一部で終わってしまうことや、途中で事業が終了してしまうことがあった。設置校が物理的に離れていることや学園内の各組織が縦割りになっていたことによる情報共有不足などが原因であると考えられる。今後は限られたリソースの中、学園内の経営資源を最大限に活かす運営が求められる。そのような運営を行っていくためにも、法人が学園全体を統括していくことが必要になってくるであろう。そのためには、法人機能の強化やガバナンス改革が必須となる。組織体制の整備や仕組みづくり、業務の改善、組織風土の変革、学園教職員相互の理解力向上、コミュニケーションの活性化、必要なツールの選定・導入など様々な改革を行っていかなければならない。それらを通じて、学園内で教育、研究、スポーツ、文化芸術活動のさらなる向上が期待される。

おわりに

 学園内の連携強化の一つの方策として、ブランディングを行ってきた。学園らしさやストーリーをもとに、「この社会に、自分たちは何のために存在するのか」について規定したパーパスや統一感のあるロゴを策定した。学園のパーパス「人を想う、どこまでも。」には、学びや児童、生徒、学生に対する教職員の向き合い方などが込められており、建学の精神を携え行動したその先の目指すべき姿であると同時に、鶴学園として一体的に運営していく際の共通の起点となる言葉である。
 学園内の連携を深めること、そして各設置校が優れた教育を行い、それぞれの学校の魅力を高めることにより、学園としての魅力も向上する。逆もしかりである。そのような良いサイクルを学園の教職員が教職協働し、確立していくことが厳しい時代を乗り越えていくために必要になるであろう。そのためには一人ひとりの事務職員も重要な役割を担っている。特に本学園創立者の鶴襄は事務職員の大切さを以前から説いており、「職員は教員とともに車の両輪の如く教学に係わっていかなければならない」と述べている。各人が自覚して学園のこと、将来のことを考えてもらいたいという思いなども込め、平成8年度から本学園では事務職員を「経営事務職員」と呼称している。
 また、本学園はいわゆるオーナー系の学校法人であるが、オーナー系だからこそ、創立者の想いや建学の精神を継承していくことができる。さらに、本学園には、小学校から大学まで多くの卒業生がいる。卒業生やその保護者に会った際に気付かされることだが、建学の精神である「教育は愛なり」をほとんどの人が覚えている。このように、卒業生や地域の人などあらゆるステークホルダーと密接な関係を持っていることもオーナー系の特色であろう。
 地方の私学は非常に厳しい状況にある。地方の私学だからこそ地域をはじめとした様々なステークホルダーとの連携をさらに進め、地元に必要とされる学園として存在感を高めていくことが不可欠である。そのためには、私学ならではの独自の建学の精神に基づく教育によって、優れた人材育成を行っていくことが地方の私学には求められており、責務ではないだろうか。