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アルカディア学報

No.762

私立学校法改正と
学校法人制度の変更要点 (下)

西井泰彦(私学高等教育研究所主幹)

四.理事及び理事会

 学校法人には、機関として、理事及び理事会を置く必要がある(同法18条1項)。理事の人数は5人以上である(同条2項)。
 第一に、理事の選任に関して、従前の私学法では、1号理事(学校長)、2号理事(学校法人の評議員から選出)、3号理事(その他の寄附行為による選任)に区分されていたが、2023(令和5)年の改正により、寄附行為をもって定めるところにより、理事選任機関が選任することになった。理事選任機関は、理事を選任するときは、あらかじめ評議員会の意見を聴かなければならない。理事の基本的資格として、私立学校を経営するために必要な知識又は経験及び学校法人の適正な運営に必要な識見並びに社会的信望を有する者のうちから選任することとされている(同法30条)。
 第二に、理事の欠格要件が規定されるとともに、従前までは可能であった評議員と理事の兼務が禁止されている(同法31条1項~3項)。理事に含まれなければならない者として、学校法人が設置する学校の学校長、外部役員(就任の際に当該法人又は子法人等の役員等でない者)が示されている(同条4項1号・2号)。これらの者は理事に充て職として自動的に就任するのではなく、理事選任機関による選任が必要となる。理事の構成に関しては、理事と特別利害関係(配偶者又は三親等以内の親族その他特別の利害関係として省令で定める)にある理事又は評議員は2人を越えていないこと、また、理事総数の3分の1を越えていないことなどが定められている(同条6項・7項)。
 これらの理事の資格要件は私立学校の公益性や公共性を確保するためのものである。私学法制定時の資料では「私立学校の公共性を高めるために、独裁の弊に陥るようなことがあってはならない」と記載されていた。(日本私学団体総連合会編『私立学校法解説』自由教育図書協会、1950年、170頁)。そのほか、理事の任期及び解任等について細かく法定されている(同法32条~35条)。
 第三に、理事会の職務として、学校法人の業務の決定、業務執行理事等の業務の執行の監督、法定及び寄附行為により定められた決議又は職務があげられている(同法36条2項各号)。また、個別の理事に委任できない理事会の決定事項として、校長の選解任、学校法人の業務の執行の適正を確保するための内部統制体制の整備、予算及び事業計画の作成・変更、その他の学校法人の業務に関する重要事項が規定されている(同法36条3項)。これらのうち重要事項の決定に際しては評議員会の事前の意見聴取が必要となっている(同法36条4項)。
 第四に、理事会と評議員会との関係では、2004(平成16)年の私学法改正では、理事会は学校法人の業務の最終的な意思決定機関として位置づけられ、評議員会で理事会と異なる決議があったとしても、理事会で再議決をすれば法人としての決定となった。しかし、2023(令和5)年の改正では、監督と執行の分離の考え方から、理事会は学校法人の業務の執行機関として位置付けられ、評議員会は、諮問機関であるとともに監督機関としての役割を持つことになり、理事会が重要事項の決定を行う際には、評議員会の決議又は意見聴取が必要となっている。両者の決定が分かれた場合には、学校法人の意思決定としては否決されたことになり、理事会決議を優先することはできない。この場合には、①理事・評議員協議会を設置して、ここで協議、決定したのちに理事会・評議員会で再決議する方法、又は②理事長及び全理事が評議員会に出席、説明して、評議員会で再決議する方法を各学校法人の寄附行為に記載して、いずれかの方法によって適切に対応することとなる(寄附行為作成例で示される予定)。これらにより両機関の建設的な協働と相互けん制が期待されている。
 第五に、改正私学法では理事長・代表業務執行理事等の選定、業務執行と代表権限、理事の忠実義務、理事の理事会及び評議員会への報告・説明の義務が規定されている。一般社団・財団法人法が準用されて理事長等による第三者への損害賠償責任、競業及び利益相反取引の制限、理事の監事への報告義務なども定められている(同法36条~40条)。
 第六に、理事会の運営方法に関して、理事会の招集、決議、議事録の作成、署名、保存、債権者の閲覧の手続き等が詳細に法定されている(同法41条~44条)。

五.監事

 監事は2人以上で、学校運営その他の学校法人の業務又は財務管理について識見を有する者のうちから、寄附行為をもって定めるところにより、評議員会の決議によって選任される(同法45条)。選定方式が、評議員会の意見を聴いて理事長が任命する従前の形から評議員会による選任の形に変更になった。監事の基本的資格の規定も新たに加えられた。
 監事は、理事のほか評議員若しくは職員又は子法人役員等を兼ねることができず、他の監事又は2人以上の評議員と特別利害関係を有するものであってはならない(同法46条)。監事の任期、解任方法等についても理事と区分されて規定されている(私学法47条~51条)。
 監事の職務は、学校法人の業務及び財産の状況並びに理事の職務の執行の状況を監査し、その状況を理事会及び評議員会等に報告することとなっている(同法52条)。監事職務は、当初の規定では、①学校法人の財産の状況、②理事の業務執行の状況となっていたが、監事の役割の重要性に鑑み、2014(平成16)年改正では、①学校法人の業務、②学校法人の財産の状況と変更され、2019(令和元)年改正で、従前の①②に加えて、③理事の業務執行の状況の監査が追加され、現在に至っている。監事による子会社を含む調査権限(同法53条)、評議員会への提出議案の調査(同法54条)、理事会及び評議員会への出席義務(同法55条)、監査報告の理事会及び評議員会への報告と不正行為等に係る理事会及び評議員会並びに所轄庁への報告(同法56条)、評議員会の招集(同法57条)、理事の行為の差止め請求(同法58条)、学校法人と理事との間の訴えにおける法人の代表(同法59条)など、監事監査の実効性を強化するため広範な権限が認められてきている。

六.評議員及び評議員会

 2023(令和5)年の改正では、理事会が意思決定機関であり業務執行の役割を担い、評議員会は諮問機関であるという基本的な枠組みを維持しつつも、その上で評議員会等による理事会等に対するチェック機能を高めるため、理事会等と評議員会等との権限分配が整理され、評議員会の権能が大幅に強化された。理事会の業務執行に対する監督権と役員の選解任に係る人事権が付加されている。
 評議員の資格に関しては、まず、評議員と理事との兼務が禁止されている(同法31条3項)。評議員の定数は6人以上で、理事の定数を上回る数を寄附行為で定めることとなっている(同法18条3項)。評議員の選任に当たっては、その基本的な資格として、当該学校法人の設置する私立学校の教育又は研究の特性を理解し、学校法人の適正な運営に必要な識見を有する者のうちから、年齢、性別、職業等に著しい偏りが生じないように配慮して、寄附行為をもって定めるところにより選任することとなった(同法61条)。理事の場合と同様に欠格要件が定められている(同法62条1項~2項)。
 評議員会の構成に関しては、第一に、評議員に含まれなければならない者として、評議員総数の3分の1以内の当該学校法人の職員、及び卒業生で25才以上の者が示されている(同法同条3項)。また、2人以上の評議員と特別利害関係を有するものであってはならないこと(同法同条3項)、理事会等が選任する評議員の数は総数の2分の1以内であること(同法同条四項)、役員又は評議員と特別利害関係にある者並びに子法人の役員及びその使用人である評議員の合計数が総数の6分の1以内であることが求められている(同法同条五項)。このほか、評議員の任期、解任等の規定が新たに追加されている(同法63条~65条)。
 評議員の職務に関しては、学校法人の業務若しくは財産の状況又は役員の職務の執行の状況について、役員に対して意見を述べ、又はその諮問に答えることなどが規定されている(同法66条2項)。評議員会の意見聴取又は決議を要するとされている事項については寄附行為でそれに反する旨を定めることはできない(同法66条3項)。評議員会は、選任機関が機能しない場合に理事の解任を選任機関に求めたり(同法33条)、監事が機能しない場合に理事の行為の差止請求(同法67条)又は責任追及(同法140条)を理事又は監事に求めることができる。評議員による寄附行為の閲覧等の請求も可能である(同法68条)。
 評議員会の運営方法に関しては、評議員会の招集の時期・手続き・請求等、評議員の総数の3分の1以上による議案の提出、決議の方法・議決の範囲等、議事録の作成と債権者に対する閲覧の請求等の手続きなどが規定されている(同法69条~79条)。
 以上のように、評議員と評議員会の役割と権限を見直し、役員や理事会に対する監督機能を強化することによって、私立学校の不祥事を抑制し、その適正なガバナンスを確立することが望まれている。

七.会計監査人

 学校法人に対する公認会計士又は監査法人の監査は、助成法により、経常費補助金の交付を受ける学校法人に対して、補助金の額が寡少であって所轄庁の許可を受けた場合を除いて実施されていた(助成法14条3項)。
 2023(令和5)年の改正によって、助成法監査から私学法監査に移行することになる。大学・高等専門学校を設置する大臣所轄学校法人等では会計監査人による会計監査制度が2025(令和7)年度の計算書類の監査から義務化される(同法144条)。新制度では、監査人の選解任の資格が法定され、その責任が明確となり、帳簿等の閲覧等の請求、理事・職員からの報告、子法人の会計などの調査、定時評議員会での陳述など、所要の監査権限が定められている(同法80条~87条)。
 これによって、監査目的が補助金の適正な配分と効果を担保することから、学校法人が公表する計算書類に第三者保証を付与することで学校法人の説明責任の履行を支援・強化して、監事が行う財産監査の専門性と計算書類の信頼性を向上させるとともに、業務監査・教学監査に監事が一層注力しやすくなり、結果として、学校法人のガバナンス機能を向上させることが期待されている。
(おわり)