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アルカディア学報

No.755

「登録日本語教員」の制度
―施行に関わることを受けて―

中川仁(明海大学外国語学部教授)

 この度、国会において、日本語教師の身分を明確化するための法案が決議された。その名称は「登録日本語教員」というもので、資格的な位置づけの明確化であると筆者は理解している。分かり易くいうならば、日本における中等教育機関の一種教員免許状の資格に値する考え方であると想定するものである。この法案の施行により、日本語教師の身分的なものが、ようやく世の中から認知されるということになるわけである。
 しかし今までの制度的なことや資格的なこと、或いは、これからの教師の資質と専門性に関わる知識的なことなどを含め、今後、どのように考えていくのかという視点において、更なる試行錯誤を繰り返す必要性があると思われる。それはまず1つ目として挙げられることは、民間における日本語学校のあり方として、現状の日本語教師の資質と資格などを含めどのように対応していくのかという課題が浮上するからである。また2つ目として挙げられることは、大学における別科日本語研修課程においての教育のあり方として、現状の日本語教師の資質と資格、クラス運営などのあり方も含めどのように遂行に関わっていくのかということがらを整理し、対応していかなければないことである。そして3つ目として挙げられることは、大学における日本語教員養成課程をもっている大学が、日本語教師の養成と輩出に力点をおき、現状のカリキュラムの専門性を整えていくことと日本語教育に必要な教育実習の環境を整え、教育実習を通して、現場における状況の把握を理解していくことである。
 ここでは紙幅の関係もあることから、先に挙げた3つの観点から筆者なりの考え方をもとに、見解を述べる。

●民間における日本語学校のあり方と日本語教師の資格

 民間の日本語学校における一例として日本語教師の養成がある。それはその学校が独自の養成講座をもち、420時間の講座を受講し、尚且つ教育実習を行うことにより、その講座を修了したことで、日本語教師としての資格は十分に認められていた。また日本語教育能力検定試験に合格し、日本語教師として採用されることもあり、民間に限っては、その教師の今までの社会的な経験をも考慮し、教壇に立たせ、外国人留学生の指導を行ってきた経緯がある。資格的には、安定しているものとはいえないが、今まではこれらのことを踏まえて、うまく進められてきた。しかしこの「登録日本語教員」の資格により、今までのことが一変してしまうことになり、実習は教員の経験年数により免除はされても、その試験は受けなければならないことになる。試験は、筆記試験①及び筆記試験②であるが、こちらについても教歴年数により免除になる場合もあるが、現職の日本語教師である以上、これらのことがらは知識として知っておかなければならないことである。しかしこの筆記試験①及び筆記試験②の試験については、きわめて専門性の高いものであると認識されているため、改めて学修しなければならないこともあり、現職の日本語教師は、これらのことが足かせになる傾向へと進むものと思われる。つまり現場は、大学受験、大学院受験、専門学校への受験準備ということを目的としているため、知識の再確認を掲げるよりも日本語能力試験に関わる準備や入学試験に関わる実践的な問題への解説や解答などが授業の主流とされる。したがってここでは、現職の日本語教師については、それに伴う研修や講習を受けていくことで十分に対応できるというところに力点をおくべきであると考える。

●別科日本語研修課程においての教育

 別科日本語研修課程においては、大学における付属機関であり、大学進学予備部門としての課程である。外国人留学生の受け入れも12年の海外での教育を受けていることが条件である。この時点において、受け入れに関わることは、民間の日本語学校と同等という考え方にはなるが、認定日本語教育機関として同等に扱うべきであるのかという意見については、別に考えなければならないことである。大学別科は付属機関ということから、1年もしくは2年の課程を学修し、その大学に進学していく外国人留学生が多くいることが実情であり、民間の日本語学校と同様に考えていくことは困難であるといえる。そして大学別科における現職の教師の資格についても、登録日本語教員という資格のくくりで、民間の日本語教育機関の教員と同様に扱う考え方があるようだが、大学別科の教員は大学教員の資格的な審査を受けていることが多くある。つまり大学においての専攻分野が、言語学や言語教育に関わることを学修していることや更に大学院において、修士以上の学歴を有し、高い専門性をもっていることが望まれるため、この資格を一概に一緒にすることは望めないところといえるだろう。そして大学別科の教員は、教育と研究に従事していることから、いわゆる民間の日本語教育機関の教師という立場と同等の扱いをすることは考えにくいところである。別科は大学の付属機関であり、機関の認定、教師の資格などについては、大学の枠組みに委ねる必要性があることを、ここでは提言しておきたい。

●大学における日本語教員養成課程

 大学においての日本語教員養成課程については、日本語教育がより専門的な分野へと進化し、言語学や言語教育に関わる分野のみに限らず、その周辺にある関連的な学術分野をも網羅する形がとられるようになったことから、現状では日本語教員養成段階における5区分(社会・文化・地域、言語と社会、言語と心理、言語と教育、言語)と更にその項目を細分化した50項目にわたる関連分野が基本的な必須の教育内容となっている。これらの5区分50項目の分野は、日本語教員養成課程のカリキュラムのなかに取り入れられ、専門性のある科目として配置している。そしてこれらの必須の教育内容に準じて、大学も新たな科目の設置やその科目の選定と単位数(45単位もしくは26単位)の設定に対応しているということになる。大学では、これらの科目を履修し、単位を取得することで、筆記試験①は免除になるが、筆記試験②については、免除になりにくいということになっている。また教育実習についても、認定日本語教育機関で受けることになることが条件となっているため、教育実習の場もかなり困難なところもある。今後、民間の日本語学校との連携や付属機関の大学別科で行わなければならないということになり、受け入れ機関として適切であるか、またそれらは認定機関であるのか、そしてそれを指導する担当教員の資質も問われるようであり、かなり細やかなことからが関わってくると想定される。こうしたなかで、大学も認定を受けるための方策を考えていかなければならない。しかし現状では、経過措置により、あまりはっきりとしたことはいっていない。大学にはカリキュラムポリシーがあり、それに伴って授業の運営がなされているところもあるため、大学の裁量に任せるべき点もあるということを提言しておきたい。
 これらの三つに挙げたことがらを述べてきたが、やはりそれぞれの機関にそって、より良い進め方を再構築するべきである。今後のパブリック・コメントなどを含め、意見聴取をし、より良い方向性へと導けることを期待している。