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アルカディア学報

No.750

「内部質保証」とその高度化に向けて
―福岡工業大学における第3期認証評価受審を素材に

研究協力者  鶴﨑新一郎(福岡工業大学総務人事部担当部長)

序―背景・課題認識・趣旨

(本稿の背景)
 大学における「質」の保証に関しては、「我が国の高等教育の将来像(答申)」(中央教育審議会、2005年)において、高等教育の質の保証が重要課題として取り上げられて以来、18年が経過する。それ以降、「学士課程教育の構築に向けて(答申)」(中教審、2008年)を始めとして、中教審の答申あるいは同大学分科会の報告書や審議まとめなどにおいて、分野別の質保証、質保証システム、学士課程教育の質的転換、大学教育の質的転換などのキーワードによって方向性が提示されてきた。近時の「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(中教審、2018年)では、現在の内部質保証の中核となる項目として、教育の質の保証と情報公表が定められ、全学的な教学マネジメントの確立、学修成果の可視化と情報公表の促進が重要な課題として取り上げられた。その具体化は、「教学マネジメント指針」(中教審大学分科会、2020年)を通して、各大学に落とし込まれた。
 さらに、「新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について(審議まとめ)」(中教審大学分科会質保証システム部会、2022年)では、大学設置基準改正、認証評価制度等の改善・充実の方向性が示された。 ところで、このような内部質保証を各大学が如何に理解し、自大学の運営に取り込んでいったかは、各種調査によっても明らかではない。本学を含む多くの大学では、中教審答申などに基づき、自大学の運営に取り込むと言うよりも、認証評価のための点検・評価活動、すなわち各認証評価機関が定める大学基準、点検・評価項目などで設定された実施事項を如何にクリアするかに焦点が当たっていた(ⅰ)。大学の対応としては、前述の趣旨を踏まえて積極的に対応する大学あるいは受け身で対応する大学があったと推察される(ⅱ)。
(課題認識)
 そのような状況下、2018年度から開始された第3期認証評価も5年経過するが、同評価を受審した大学においては、内部質保証の推進に責任を負う組織をどのように設計し、運用するか、具体的には、全学的組織(大学執行部)が全学的観点から各部門の点検・評価活動のPDCAサイクルのマネジメントを行い、その取組みの有効性を検証する体制を整備できているか否かが重要な取組課題であった。この点、第3期を大学基準協会で受審したいくつかの大学の認証評価結果を読む限り、全学的組織が各部門に改善・向上を指示し、改善に繋げる仕組みが十分ではないといった内部質保証システムの有効性が課題の一つとして指摘されている。
(本稿の趣旨)
 そこで、本稿では、2019年度に大学基準協会で受審した認証評価(大学評価)の先行事例の一つである福岡工業大学における内部質保証システムの当時の取組みをレビューした上で、内部質保証の高度化について若干考察してみたい(ⅲ)。

1 福岡工業大学における「内部質保証」の仕組み

 本学では、全学的観点からの教学マネジメントをより明確にするため、2017年10月に、「全学内部質保証推進会議」を設置した。同推進会議の下で、2018年度以降は、内部質保証システムの構築から実質化への取組みを加速し、部門毎の点検・評価活動に全学的観点の評価を入れ、機能強化に向けた取組みを実践した。具体的には、「内部質保証に関する方針の明確化(P)」「各部門で自己点検・評価を行う際の様式の整備および活動の支援(D)」「客観的評価の導入/各部門の自己点検・評価結果に対する個別検証(C)」「評価結果を改善に結びつける支援(A)」である。
 また、内部質保証システムの客観性・適切性を確保する観点から、外部評価委員会を設置し、同委員会から毎年受け取る提言に対しては「内部質保証の課題」として真摯に受け止め、改革・改善活動に組込んでいる。

2 福岡工業大学における「教育の質保証」

 本学では、内部質保証の中核となる「教育の質保証」に重点を置いた取組みを実践している。その観点から、教育の質を測定するための方針である「アセスメントプラン」(ⅳ)を策定し、教育活動の有効性検証の一手法である「カリキュラムアセスメント」に着手した。
 (1)アセスメントプラン策定の経緯
 2019年4月に策定したアセスメントプランの基本的な考え方は、3つのポリシーに基づいて、大学教育の質保証に向けたPDCAサイクルをより適切に機能させることにあった。そのためには、個々の学生の学修成果および教育プログラム全体の教育成果を可視化し、全学共通の考え方や尺度によって評価し、その結果を改善につなげることが求められた。
 一方、全学内部質保証推進会議においては、教育の質保証の観点から同プラン策定の重要性を全学に示し、導入を推進するため、同時期に策定した「内部質保証の方針」にアセスメントプランの内容を踏まえた教学の行動指針を盛り込み、本学の教育の質保証システムの構築にあたった。
 (2)カリキュラムアセスメントの仕組み
 2019年度の試行を経て、2020年度からアセスメントプランに基づいて実施するカリキュラムアセスメントについては、「大学」「プログラム」「教員(各授業科目)」の三層構造において、①大学レベルの方針の具体的展開、②プログラムレベルの方針に基づく科目概要の提示、③教員レベルのシラバスに基づく各授業科目の具体化が行われようになった。そのプロセスを経て、当年度の各学部学科でのカリキュラムレベルのレビューが実施され、FD推進機構運営委員会(2023年4月から教育開発推進会議に改編。以下同)において、全学的観点での3つのポリシーとの整合性などの有効性検証および各教員の改善に向けた支援が行われている。さらに、自己点検・評価委員会および全学内部質保証推進会議へと報告されるとともに、改善点があれば、FD推進機構運営委員会を通じて、各学部学科へ実施を要請するようにしている。

3 課題と改善策

 (1)2019年度当初の内部質保証システムの課題と改善策
 2018年度の自己点検・評価活動から明らかになった2019年度に取組む課題として、①自己点検・評価委員会と全学内部質保証推進会議の役割や権限が混在している状況があり、全学的課題の解決に向けた動きが弱いこと、②部門別の自己点検・評価活動について、目標の設定と活動のレビューにばらつきがあり、PDCAの主体が明確でない部局があるため、抽出した部門別の課題を改善・向上につなげる仕組みが弱いこと、③自己点検・評価体制と教育の質保証に向けた活動の区分、およびPDCAサイクルの関連が明確でないことなどが挙げられた。
 前記の①および②の課題については、全学内部質保証推進会議および自己点検・評価委員会で、全学および部門別の改善課題に対する対応方針および対応部局の明確化と当該部局への対応を学長から要請することとした(マネジメント機能を強化)。併せて、中期経営計画(マスタープラン。以下「MP」)との整合を図りながら、課題対応を迅速化した。前記③の課題については、各部門の点検範囲と評価基準を再確認し、報告様式に明示することとした。その視点から、教育の質保証の範囲を明確にした上で、改善ツールとして新たに活動報告の様式を作成し、点検・評価活動のPDCAサイクルをその様式に落とし込み、活動の実質化を図った。 
 (2)内部質保証システムを機能させるにあたっての課題と改善策
 機能化に向けた課題については、①「内部質保証の課題」の改善に向けた機能強化、②アセスメントプランに基づくカリキュラムアセスメントの実質化を挙げることができる。この課題①の改善策については、全学および部門別の課題対応状況に応じて、全学内部質保証推進会議において、方針の変更や課題の集約を実施すること、また、課題対応部局に対し、内部質保証の重要性の認識とその解決の支援を行うことなど、課題②の実質化の改善策については、FD推進機構(2023年4月から教育開発推進機構に改編)で取りまとめられたアセスメント結果に対して、全学内部質保証推進会議で検証を行い、全学的観点から改善要請を実施すること、また、学修成果の把握・評価に向けた体制整備(教学IRなど)を検討することなどが挙げられる。

4 「内部質保証」の高度化に向けて

 今後の内部質保証の取組みとしては、経営的視点を反映させるとともに、教育の質保証の促進を図るために、まず、2022年4月にキックオフした第9次中期経営計画(MP)の経営戦略として、「学修者本位の教育による付加価値向上」を定めており、MPと連動した自己点検・評価活動を継続すること、次に、MPの下で、「教学マネジメント指針」に沿った自己調整学習の充実と学修成果の可視化による教育の質保証を充実させ、その取組み情報を積極的に公表することにある。その推進体制については、2023年度以降、教育開発推進機構に設置する教育イノベーション部門と教育マネジメント部門の機能別組織を基盤として、全学横断的な議論を促進すること、加えて、新たに置いた副学長体制の下、教職協働の実施体制を組むことで、本稿の課題である「内部質保証」の高度化が図れるものと期待している。

 (ⅰ)同旨の見解として、山咲博昭「学生のための内部質保証への転換~そのゴールは認証評価か学生の成長か?」Between305号(2022年)4頁参照。
 (ⅱ)文科省「2020年度大学教育改革に関する調査」結果に対する中教審大学分科会大学振興部会の「審議経過メモ」では、「改善の取り組みが単に認証評価への対応等のための形式的・表層的なものにとどまっており、学修者本位の教育の実現や授業科目レベルでの教育の改善にはつながっていないとの指摘もある。」と説明される。Between情報サイト(2022年12月14日発行)3頁参照。
 (ⅲ)本稿は、第3期認証評価受審時の自己点検・評価委員会副委員長(教務部長)であった藤岡寛之教授(情報工学部長)、また当時経営企画室で実地調査の対応に尽力した川口薫教育開発推進室課長の協力を得て取りまとめたものである。なお、本稿筆者は、第1期から第3期まで認証評価の事務局(2023年3月まで経営企画室)を担当したものであり、一切の文責は筆者が負うものである。
 (ⅳ)2019年4月に策定した際は「アセスメントポリシー」の名称を使用していたが、2019年度の試行実施を経て、2020年度から本運用となった際は、「アセスメントプラン」に変更している。本稿では、便宜上、すべて「アセスメントプラン」に統一する。