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アルカディア学報

No.738

桜美林大学における
留学派遣再開への対応

秋元崇利(桜美林大学国際交流センター)

はじめに

 2020年2月以降新型コロナウイルスの蔓延に伴い、本学では約2年に渡り留学プログラムを停止していた。国際性を強みとしている本学として、留学への参加を期待して入学した学生の期待に応えるためにも、一日も早く海外派遣を再開させることは急務であった。「留学機会の提供」「海外での安全確保」という2つの重要な命題の間に立って、慎重に留学派遣プログラムの再開時期について検討してきた。本稿ではカリキュラム上、留学が学群(学部に相当)の学びと密接に位置付けられている1学期間型の留学プログラムについて、本学がコロナ禍でどのように留学再開に向け取り組んできたのかについて述べていく。

留学再開の課題

 留学再開に伴う課題は数多くあった。まず、1つ目の課題は適切な再開タイミングの見極めである。留学ビザの発給状況や航空便の運航状況、入国時の水際対策などが日々目まぐるしく変わる状況の中、各国の規制や状況を適切に把握して判断する必要があった。2つ目に、新型コロナウイルス罹患時の対応検討である。一時期は日本国内でも医療機関がひっ迫している状況が続き、果たして渡航先国で罹患した際に通院できる病院があるのか、各大学や滞在先の対応フローの確認も徹底した。そして、最後に何より重要なのが、学生本人の留学への意思と保護者の同意が得られるのかということであった。

留学再開のタイミングの見極め

 留学再開に向けた準備では学内関係者、協定校、旅行代理店など多くの関係者と交渉をし、留学再開に備えた。協定校には本学独自で作成した調査項目への回答を依頼し、その中で要件に見合う学校を派遣先として選定した。調査項目の1つである緊急時の対応フローやその担当者との確認をした際、協定校担当者との信頼関係の重要性を改めて痛感した。調査を進めていくなかで、2021年6月15日に文部科学省より大学間交流協定等に基づく1年間(実際の派遣期間9か月以上)の留学プログラムの再開についての周知があり、本学でもカリキュラム上重要な1学期間型の留学についても、現地の状況やワクチン接種の普及状況を考慮のうえで留学再開への契機となった。

緊急時への備えと新型コロナウイルス罹患時の対応

 コロナ禍での留学再開に備え、改めて大学全体で緊急時対応の検証を行った。2021年12月に大学執行部及び関係する教職員を対象に、危機管理助言会社による危機管理セミナー及びシミュレーションを実施、各々の役割分担の理解と緊急時対応を経験した。その経験を踏まえ、留学参加を希望する学生・保護者に対して本学の危機管理体制を周知した。具体的には以下の図を使用し、緊急時の対応ラインについての説明を行った。コロナ前は留学派遣先国が複数あったプログラムでも、今回は派遣先をアメリカ1か国とした。さらにその中でも、関係の深い協定校に限定することで円滑に準備を進められるようにした。アメリカに限定した理由は、関係性の深い協定校の多さに加え、現地オフィス(桜美林学園アメリカ財団事務所)の存在が大きかった。ここでは2人の専任スタッフを中心に学生サポートを行っている。日本語と英語で学生相談を行えるソフト面の強みと、緊急時に日本より少ない時差で迅速に対応できる強みがある。加えて、本学への理解があるため協定校とのやり取りもスムーズに行えるメリットがあった。最後に、複数利用していた旅行会社を1社にすることでコミュニケーションラインを密にした。このように関係者を減らすことで、スマートな体制になるよう工夫をし、緊急時の対応も速やかに行えるようにした。
 実際に学生が渡航し、留学中や帰国直前に新型コロナウイルスに罹患する学生もいたが、幸いにも症状は軽症もしくは無症状のためこの緊急体制を取るには至らなかった。

学生・保護者への説明責任と同意

 本学ではコロナ以前、1学期型留学プログラム参加の保護者向け説明会を渡航の約3か月前に対面で実施していた。今回はそれに加えて募集前の段階で、参加を検討する学生とその保護者を対象に説明会を実施。オンライン実施に切り替えたことで、遠方の保護者も参加しやすくなりかつ録画しアーカイブすることで欠席者へのスムーズな案内、繰り返し視聴できるメリットもあった。説明会では学生・保護者が安心して留学参加できるように、本学の支援体制に関する案内を丁寧に説明するよう心掛けた。学内の留学前カウンセリング、危機管理助言会社との連携など平時(コロナ前)より行っている内容も改めて伝えた。その他にも、留学中止や早期帰国の可能性があること及び早期帰国を勧告した際は速やかに本学の指示に従うよう案内。特に、留学中止や早期帰国、隔離による費用負担の可能性があることの説明とその理解を求めた。新型コロナウイルスに関連する情報提供(ワクチンやPCR検査、水際対策など)を積極的に配信し、学生が正しい情報を得られるよう努めた。ワクチン接種については重症化リスクを低減する効果が認められるため強く推奨した。ただしアメリカ入国にあたっては接種が必須であったため、健康上の理由でワクチン接種できない学生には個別対応を行い、別途必要書類の準備にかかる支援をした。感染時の対応として、保険代理店より複数回に渡り保険の説明を行ってもらい、新型コロナウイルスも補償対象であるということ、いざという時の保険の存在を伝えた。
 本学よりリスクの把握とその備えを説明、新規に作成した新型コロナウイルスの影響下における海外渡航の誓約書に同意をした学生に限っての参加を認めた。参加希望する学生・保護者には危機管理を共有し、参加者自身も一定程度のリスクを負うことに同意してもらった。これまで学生向けに対面実施していた出発前の危機管理セミナーをオンラインにし、保護者にも参加してもらうことで危機管理意識の醸成を図った。
 一方でコロナ禍での留学に不安を覚える学生・保護者も多くいたため、無条件に留学参加を勧めるものではないこと、カリキュラム上全員留学となっていても留学を必須とせず、留学不参加による卒業への影響を与えないよう配慮した。

おわりに

 以上、留学再開にあたっては安全・安心を最優先に万全を期して臨んだ。その後ワクチンの更なる普及もあり、学生・保護者の新型コロナウイルスに対する意識に変化がみられる。
 しかし新たな感染症や一部地域での紛争、急激な円安による為替変動など様々なリスクと常に留学は直面している。これらの危機は不可避なものであるが、その中でも新たな留学先の開拓や常にプログラムの見直しを行い留学機会の提供を続けることが重要であると考える。日頃より万が一に備え、今後また未曾有の危機に直面した際も、継続して留学機会を提供できるように努めていきたい。