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アルカディア学報

No.730

20歳から18歳へ
民法の成年年齢改正対応が急務

研究員 大河原遼平(TMI総合法律事務所弁護士)

1 はじめに

 今年(令和4年)の4月1日より、民法で定める成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことはご存じだろうか。全く知らない、または、選挙権の年齢が18歳に引き下げられたことと混同しているということはないだろうか。
 あるいは、民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことは知っているが、それが大学・高校の運営に影響があることまでは具体的に認識していない方も少なくないかもしれない。確かに、今回の改正は、直接的には学生生徒個人の社会的地位や法的な権利義務を画するものにすぎず、大学や学校法人の運営に関するものではない。しかしながら、実際には大学や高校、学校法人の運営にも影響する改正であることから、大学・短大や高校を設置している学校法人ではその改正内容と学校運営への影響を理解しておく必要がある。

2 民法(成年年齢)改正の概要

 平成30年6月13日、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立した(平成30年法律第59号)。わが国で成年年齢が20歳と定められたのは明治9年の太政官布告とされており、その後約140年間、20歳をもって成年とされてきた。その意味で、今回の改正は長年にわたって続いてきた社会の基本的な制度を変更するインパクトの大きい改正といえる。
 このような制度改正がされた趣旨は、若者の自己決定権を尊重し、積極的な社会参加を促すことにあるとされている。近年、憲法改正国民投票の投票権年齢や公職選挙法の選挙権年齢など国政上の重要な事項の判断に関する年齢要件を18歳以上とするなどの政策が進められてきたことや、成年年齢を18歳以上とするのが世界的な主流となっていることもその背景にある。
 このような社会的意義の大きい改正ではあるものの、今回の改正の核心的な内容は至ってシンプルであり、基本的には民法4条の「年齢二十歳をもって、成年とする」との規定が「年齢十八歳をもって、成年とする」と変更されたのみである。しかしながら、その規定だけを見ていては、今回の改正の影響を把握することはできない。すなわち、民法には大人として十分に成熟しきっていない未成年者を保護するいくつかの制度がある。今回の改正の重要な点は、これらの制度の保護の対象とされている「未成年者」が、改正前は20歳未満の者であったのが、改正後には、18歳未満の者となる、ということである。
 つまり、18歳・19歳の若者を大人として扱うことで、自己決定権の尊重や積極的な社会参加の促進が期待される一方で、従来未成年者であった18歳・19歳が成人となり保護されなくなるということである。このことからすると、従来保護されていた18歳・19歳が様々な被害に遭うことのないよう、代替的な各種対策を講じておくことが重要といえよう。

3 民法上の未成年者保護制度

 それでは、民法における未成年者保護の制度はどのようなものがあるのか。主な制度は以下の2つである。
 (1)未成年者取消権
 民法では、未成年者が契約などの法律行為をするには、原則としてその親権者の同意を得なければならず、同意のない法律行為は親権者が取り消すことができる(すなわち、無効にすることができる)とされている。この親権者の権利を未成年者取消権という。未成年者が勝手に大きな買い物をした場合でも、その取引を親権者がなかったことにすることができるということである。
 (2)親権
 民法では、未成年者は父母の親権に服することが定められており、その親権の内容として、身上監護権、居所指定権、懲戒権、職業許可権及び財産管理権が定められている。
 親権者は、未成年者の居住地を決めたり、就業を許可したり、財産を管理する権限を有するということである。

4 対応すべきポイント

 ここまで見てきたように、今回の改正で具体的に影響があるのは、主に18歳・19歳の若者である。そして18歳・19歳が就学している学校としては、短期大学を含む大学、高校が典型的である。基本的には今まで標準的には大学2年生の途中まで未成年者として保護されていたが、今後は高校3年生の途中までしか保護されないこととなる。また、未成年者の範囲が変わることによって、「親権者」や「保護者」の定義も変わってくることとなる。以下、これらの点への対応ポイントを述べる。
 (1)消費者教育と相談窓口の充実
 上述したように、今回の改正は18歳・19歳を成人として扱い、民法による保護が弱まる、具体的には、親権者が未成年者取消権を行使できなくなるものである。実際、国民生活センターの調べによれば、改正前の18歳・19歳の消費者トラブル件数の平均値は20~24歳の同平均値に比べて半分近くにとどまっている。ということは、18歳・19歳の若者に対して、今まで以上に大人としての消費者教育を施すことが重要ということである。
 具体的には、消費者トラブルが発生しやすい身近な事例やその際に被った被害の甚大さの紹介、民法や消費者契約法、特定商取引法など、成人も利用できる消費者保護の手段、消費者トラブルを防ぐために普段心がけるべきことの説明などが考えられる。
 大学においては、トラブルのない学生生活を送ることができるよう、こういった消費者教育を入学した際のガイダンス等で行っておくことが望ましい。また、その後も学生に対し定期的に注意喚起を促していくことが重要となろう。可能であれば、消費者法に関する授業を設置して、法学部か否かにかかわらず必修とするのが理想であろう。
 高校でも、3年生の途中から成人となるため、その年次の生徒への消費者教育はぜひ行うべきである。
 併せて、大学においても高校においても、トラブルが発生した場合に学生生徒が駆け込めるような相談窓口が存在することも重要である。所属する相談員としても、基礎的な法律の知識は身につけておくとともに、学校だけでは解決が難しいトラブルについては、消費生活センターや弁護士、警察に相談するよう誘導するといったことも心得ておく必要があろう。
 (2)学内諸規程の見直し
 学内の諸規程において、「親権者」という用語を用いている場合、今回の改正に連動して、20歳未満の父母等から18歳未満の父母等に、その範囲が狭まることとなる。また、学校教育法上、「保護者」とは子に対して親権を行う者とされており、親権者と同様に今回の改正に連動してその範囲が狭まることとなる。
 学内の諸規程においても、「親権者」、「保護者」といった用語を用いた規程、マニュアル等がないか一度点検すべきである。その上で、当該用語が使用されている場合、改正民法に連動してその範囲を狭めてよいのであればそのままでもよいが、改正民法と異なり、改正後も旧来の用語の意味で用いたい場合には、当該規程等にそういった意味であるとの定義規定を設けるか、「父母等」、「保護者等」といった用語に変更する規程改正を行うか、いずれかの対応を行うことになる。

5 関連する法令の動き

 民法改正に連動して変更となる年齢要件とそうでないものがあるので、注意が必要である。例えば、医師免許や公認会計士資格などは民法に連動して18歳に変更となった。他方、喫煙年齢や飲酒年齢など、20歳のまま維持されたものもある。今回の民法改正が誤ったメッセージとして伝わらないよう、注意喚起しておくべきである。
 なお、少年法上保護されている「少年」の範囲も変更はないが、18歳・19歳の少年をさす「特定少年」という概念が新たに設けられ、一部の事項につき成人に近い取扱いがされることになった点に留意が必要である。

6 おわりに

 以上のとおり、今回の改正は学校法人の運営に関する制度を直接変更するものではないが、学生生徒や保護者、ひいては学校に影響する重要な法改正である。既に施行済みではあるが、改めて改正対応に遺漏がないか点検し、仮に未対応事項があれば、速やかに対応を進めていくべきである。