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アルカディア学報

No.722

私立学校法改正法案骨子案に対する意見と要望

主幹 西井泰彦/坂下景子

 私立学校法は2018(令和元)年に改正されて翌年度から施行された。改正した私立学校法の見直しは、その附則にあるように、施行後5年を目途として施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずるものとされていた。一方で、公益法人としての学校法人制度について、社会福祉法人等の公益法人改革を踏まえて、同等のガバナンス機能が発揮できる制度改正のため速やかに検討を行うとの政府の骨太方針が2019年6月に決定された。文部科学省はこの閣議決定に従わざるをえず、引き続いて学校法人のガバナンスの検討と私立学校法の再改正の方向に進むこととなった。2021年3月には学校法人のガバナンスに関する有識者会議の報告書がまとめられた。2021年6月の骨太方針2021では、公益法人としての学校法人に相応しいガバナンスの抜本改革につき年内に結論を得て法制化を行うとされ、2021年7月には学校法人ガバナンス改革会議が設置された。ここでは、一部の私立大学で発生した不祥事を根拠に私立大学のガバナンスの欠如が強調され、社会福祉法人や企業の統治システムを模した改革案が12月に取りまとめられた。
 しかし、この改革案に対して、私立学校固有の歴史やガバナンス構造に反するものとして私学団体からの強い反対が出されたことにより、文部科学省としては、関係者の合意形成を丁寧に図るため、学校法人制度改革特別委員会(以下、「特別委員会」という。)を設置し、2022年3月末にその報告書が急いでまとめられ、私立学校法改正法案骨子案(以下、「改正法案骨子案」という。)が4月に公示された。これらの経緯をたどって私立学校法の慌ただしい再改正が喫緊の課題となってきたが、私立学校のガバナンスに関する実状調査と十分な検討を踏まえた体系的な文教政策とは見なし難く、朝令暮改的な政策の有効性を今後検証することが必要であると考えられる。
 公表された改正法案骨子案については、理事会・評議員会・監事の権限の相互関係、理事・評議員・監事の選解任の権限、評議員会の構成と議案提出権、監事の選解任、私立学校法改正の適用範囲における所轄と規模の区分、会計監査制度、内部統制システムの整備義務、子法人の範囲と監査、刑事罰の新設などに関して、内容的な定義や具体的な取扱方向が不明確なところが少なくない。改革会議の提言と私学団体の意見との折衷的な部分も見られる。改正に伴って私立学校のガバナンスの混乱や紛争が生じないように、改正法案骨子案の中で特に留意すべき論点について、以下に、意見と要望を示したい。
 今後の私立学校法の改正案の策定、関係する政省令の準備、改正に伴う文部科学省通知及び寄附行為作成例等の行政措置が適確に措置されることを期待するとともに、私学関係者が新たな学校法人制度について、理解を深め、適切に準備し、対応することを希望している。

1.理事会と評議員会の権限分配と問題点

 現行の私立学校法では、理事の執行を監督する機関として理事会、理事を監督する役割として監事、理事会の諮問機関として評議員会が、学校法人の統治の機関として位置づけられてきた。今回の特別委員会の報告書及び改正法案骨子案では、理事会と評議員会の権限を分配することが明記されており、理事会を業務執行の機関とし、評議員会を理事会の監督・監視の機関とし、両者の役割と権限を分離することになっている。評議員会を理事会の諮問機関ではなく監督機関として位置付けることは、当然、評議員会が理事会よりも上位の機関となることが基本的に含意されている。
 一方で、特別委員会の報告書では、理事会と評議員会の決議が異なる場合には、決議の優劣を定めず、両者の決議をもって学校法人の意思決定とし、この場合、両者の建設的な協働を促進する手続きを寄附行為で定めることなどが指摘されている。しかし、このような曖昧な表現や対応では学校法人の経営は混迷を招かざるを得ない。改正法の新たな制度下では、両者が相反する場合には理事会は監督機関である評議員会の決議に従わざるを得ない。理事会の反対が続けば理事の職を解任されることも生じる。この場合を想定して、理事会がなお優位であると寄附行為に定めようとしても、その寄附行為の変更認可を文部科学省は果たして受け付けるであろうか。
 評議員会に監督権限を付与するとなるとそれに伴う責務を整備する必要がある。個々の評議員の役割も重大となる。評議員会の議長は単なる司会役から理事会の執行監督の職責を負うことになる。評議員の善管注意義務は当然のことであるが、評議員会の議長の役割と責任が問われる。学校法人の最終的な意思決定に関与しつつ、決定権を持つ評議員会の議長は理事長に替わって学校法人の代表権を持つことになるのであろうか。両者間の争いも生じかねない。
 私学経営の現実的な運営を考えると、評議員会が重大な経営判断の最終責任をとることは困難である。私立学校の業務執行の責務を理事会が果たすためには、重大な不正行為等が明白でない限り理事会の経営判断と決定権限が評議員会に優先されなければ学校法人の経営管理は成り立たない。
 また、理事会の決定及び評議員会の決議(承認)が必要な事項は、学校法人の基礎的変更に係る任意解散・合併にとどめ、中期計画等の策定、寄附行為の変更などの学校法人の経営管理に係る重要な決定や変更は学校法人の業務執行の責任を持つ理事会の権限とすべきである。評議員会の決議事項、承認・同意事項についての際限のない拡張を抑制することが必要である。

2.理事の選解任の権限

 組織の中枢メンバーの選任と解任を行う権限、いわゆる「人事権」は組織の最高の監督権限とみなすことができる。改正法案骨子案では、理事の選任機関として評議員会その他の機関を寄附行為で定めることとし、その機関が選任を行う場合にはあらかじめ評議員会の意見を聴くこととされている。つまり、理事の選任及び解任の権限は評議員会の権限又は評議員会の同意が必要な委員会の権限となるため、評議員会が人事権を持つこととなる。評議員会以外の機関が理事を任命又は推薦する場合でも評議員会の意向を配慮(忖度)せざるを得ない。評議員会が重要事項の議決権だけでなく理事に対する人事権という2つの強力な権限を持つことは、評議員会は理事会を支援する諮問機関から理事会を支配する統制機関となることを意味する。
 この場合、評議員会及び評議員会が決める選任委員会において、教学と経営にまたがる重層的な業務を統括する適切な理事を選任する判断能力を備えることが可能であるのか。改正法案骨子案に示されているように全ての理事を評議員会の任命や同意を求めて選考することとなると、選考区分による形式的、表面的な承認となるか、評議員会の意思に沿う理事しか選任されない結果となる恐れが大きい。
 従前の私立学校法では、学校長(一号理事)、評議員会推薦の教職員(二号理事)、学識経験者(三号理事)などの選出区分に応じて理事を選任することとされていた。業務執行に携わる理事長及び理事が理事の選考に一定程度関わり、各区分の候補者の資質能力を慎重に判断して選任していた。今後は、真に有為な人材を選考する実質的な仕組みを作ることが必要である。評議員会の人事権の過度な干渉や支配を排することも必要である。理事の選考の公正性と有効性を確保し、学校法人の業務執行を担う理事会の経営責任と主体性を担うことができる理事の選任に向けて、法人ごとに多様な選任方法を寄附行為で定めることも認めてほしいと希望する。

3.評議員の選任等

 評議員の選任は、理事会を中心とした選任方法から評議員会が行うことを基本とすることに変更となり、理事・理事会の選任による評議員の割合については上限が設けられることになった。評議員の解任については理事会の関与は大きく制約される。
 評議員会は、従前の諮問会議の役割とは異なり、理事の選解任や学校の基礎的事項に関する同意や決議に深く関わる重要な役割を果たす機関となる。その評議員の任免に当たっては、一部を除いて理事会の意向を聴かないで任免できることになった。評議員会は自らのメンバーの大半を自ら選任する独任的な機関となる。
 しかしながら、評議員がその重大な職責を果たし、役員や教職員から信頼される評議員となるためには、私立学校の教育研究や学校法人の経営管理に識見を持つことが不可欠となる。理事と同様に透明で公正な選任方法を採ることが望ましい。学校法人の役員や教職員の意見や期待を十分に把握して、適材を内外から選定しなければならない。そうした手続きが取られないで一部の評議員のみで新旧評議員の改選が行われる場合には、理事会で起きるとされている専横や抗争が評議員会でも発生する可能性がある。このため、評議員の選解任においては、理事の意見をあらかじめ聴取し、理事会の同意を求めるなど、理事の選任と同様に、相互の連携による選任方法が取られるように寄附行為で学校法人ごとに適切に定めることを認めるべきである。

4.評議員会の構成

 評議員会の構成割合やその人数は、学校法人の設立の経緯と歴史によって異なっている。法令で細かな割合や上限を一律に定めることは私立学校の多様なガバナンスに相応しくない。法人ごとに適切と考えられる割合を寄附行為で定めることが望まれる。
 私学高等教育研究所が昨年実施したガバナンスに関する現況調査によると、調査法人446大学の評議員総数は12069人であるが、そのうち、教員が3592人で29.8%、役員又は職員が2645人で21.9%、同窓生が2018人で16.7%、その他の外部者等が3814人で31.6%となっている。創設者親族は436大学中166大学の355人で2.9%であった。学校法人ごとに教職員、卒業生、親族、外部有識者などの異なる比重のメンバーで構成され、内外の意見や要望を取り入れて学校法人の経営改善と活性化に貢献している。
 理事と評議員との兼務は解消するとしても、その構成割合は各学校法人にあった形で寄附行為の中で定めることを認めてほしい。その中で、理事会からの一定の推選枠などを定めることがあっても良いであろう。特定のグループの過大な影響や利害関係を排除するために、例えば、学内者は半数程度以下とするなどの上限を設けることも検討すべきである。
 なお、大学の設立に係る特定団体の関係者や創設者の親族については、私立大学の沿革によって状況が異なっている。親族関係者が存在する法人においても人数規模に差異が見られる。人数で規制するのではなく、評議員総数の一定割合(例えば、財団医療法人では3分の1未満は可など)を寄附行為で定めることを認めることが望まれる。

5.評議員会の議題提案権

 評議員会での議題の評議員の提案権は、監事が機能しない場合の理事の解任請求等に限定すべきである。評議員会の議題は、理事長が理事会の議を経て提案することを基本とすべきであり、個々の評議員に任意の議案提案権を認めると、正常な評議員会の運営に支障が生じるだけでなく、法人運営の混乱と対立を助長し、外部からの批判や所轄庁の介入を招く恐れがある。
 学校法人の適正で円滑な経営管理を今後とも迅速に進めるためには、学内状況を把握した学校長以下の学校運営の責任者と学内外の経営環境を認識している理事会メンバーが評議員会に必ず同席し、提案説明を行うとともに相互によく協議することが必要である。陪席では弱い。評議員会の議決には参画することはないとしても、評議員会での審議を実質化することが重要である。理事会と評議員会を監督・非監督の対立構造で見るのではなく、文字通り、連携し協働する新たな関係を作ることが期待される。
 なお、理事の解任の議題提案は、明確な法令や学校法人の規程違反、法人に損害を与える行為、社会的に不適切と非難される行為に限定すべきである。軽微な内部告発や善管注意義務等の違反等の案件については、評議員会の議題とする前に法人又は学校単位で設置する内部の調査委員会等で適切に対応することが望ましい。評議員会が学校法人の基礎的で重要な方策等の有効な審議・決定機関として機能し、学校法人の安定した運営管理を図るためには、学内外の子細な衝突を持ち込まないように措置すべきである。
 今回の改正法案骨子案では、評議員数は理事の人数を超える数を下限とすることになっている。理事会と同様の活発な審議を確保するために評議員会は理事数プラス1人のコンパクトな構成でも可能となる。社会福祉法人と医療法人は理事の人数を超える数、公益財団法人は3人以上となっている。学校法人においても理事数及び評議員数の人数の見直しや有効な評議員会の運営体制の見直しが可能となってくる。しかし、これまで各方面の多数のメンバーで構成されていた評議員会を一挙に改変、縮減することは学校法人の合意形成や支援体制に新たな混乱や紛争をもたらす恐れもある。新体制への移行は経過的に実施することが必要である。

6.監事の選解任

 監事の選解任については、従前は、理事長が評議員会の同意を得て行うこととなっていた。改正法案骨子案では、評議員会の決議によって監事の選解任を行うこととなり、任免権は評議員会に移行する。先の特別委員会の報告書では、監事の責務として、評議員会の活動状況も監事の監査の一環として確認し、評議員の不正行為や法令違反について所轄庁・理事会・評議員会への報告の対象となっている。また、監事は、理事会のモニタリング機能や評議員会のチェック機能の起点とも位置付けられており、理事会や評議員会との協働や相互けん制を強化するキーマン的な存在である。
 このため、監査対象の評議員会や評議員のみで監事の選解任を行うことは、従前の理事長が監事を選任する場合と同様に不適切である。監事の選解任については、理事会、評議員会を含む学校法人の関係者で構成される選考会議を設置し、適任者を選解任できるように措置すべきであり、その方法については、法令で一律に定めるのではなく各法人の寄附行為で定めることが望ましい。

7.所轄区分と規模に応じた区分

 改正法案骨子案では、今回の私立学校法の改正適用においては所轄庁の差違や規模による区分や経過措置の導入に言及している箇所がある。私立学校を設置している学校法人は極めて多様であり、大臣所轄法人においても小規模から大規模までの差異が大きい。改正法案骨子案で提起されている改正テーマには、評議員会の監督機関化、監事の役割強化や常勤化、会計士監査の制度化、内部統制システムの整備などがあるが、これらを実施するためには、経営管理組織の再構築、人員の増加と再配置、人件費・謝礼等の費用の確保などが必要である。大臣所轄の小規模法人でもこれらの対応は容易でない場合が少なくない。規模による適用範囲については慎重に検討することが必要である。
 なお、学生規模による区分に関しては、法人全体の学生生徒等数でとるのか、大学のみかで異なってくる。入学定員若しくは収容定員又は在籍総数によっても違ってくる。因みに、学生生徒等数が1万人以上の大学法人は、日本私立学校振興・共済事業団の「今日の私学財政」では令和2年度時点で560法人中71法人(大学部門のみは608大学中40大学)であり、これ以上の大学又は大学法人を大規模とするならば1割前後の対象数に限定される。
 改正法案骨子案では、知事所轄学校法人でも大規模な法人においては大臣所轄法人と同等の扱いとするとされ、広域通信制高等学校に触れられているが、特別委員会の報告書では言及されていない。大学及び高校における通信制の学生生徒数の実状は流動的であり、通信制の区分の設定については明確ではなく、違和感もある。小規模法人又は小規模校の対象範囲について配慮することが期待されているが、高校以下においても小規模の範囲は極めて多様に分散している。
 このように改正法案の適用対象について規模の区分を新たに導入するとされているが、その対象の定義や範囲が現時点では明確になっておらず、対象を区分することの論理的な根拠が十分ではない。慎重な分析と区分が期待される。

8.会計監査制度

 理事会、監事、評議員会の3つの法人組織が適切に相互のチェック機能を果たすことが必要であり、それぞれの機関の役割の実質化が求められている。改正法案骨子案では、大臣所轄法人においては、会計監査人が会計監査を行うことを制度化し、その選解任等の手続きを定めることに言及している。私立学校振興助成法による補助金監査の規定を私立学校法に移植して、補助金を受けない学校法人も学校法人会計基準に従った計算書類の作成及び届出並びに会計監査人による会計監査を義務付けることは従前の学校法人制度改善検討小委員会においても課題として提起しており、妥当と考えられる。しかし、現行の振興助成法による会計監査制度においても、大学法人等で特に支障が生じている訳ではない。何故に、いま制度化する必要性があるのかが明解ではない。また、制度化に当たっては、次の点についてよく検討し、準備することが必要と考えられる。
 第一に、助成法監査は、補助金の対象となる学校と学科部門についての主として補助金に係る会計科目の決算監査が中心であったが、私立学校法監査では私立学校の会計全体を対象とする監査となる。部門監査の追加や全ての計算書類の全科目の監査に範囲が拡大する。監査人の手間も増大する。
 第二に、学校法人と会計監査人とは、これまで学校法人の理事長と監査人との個別の委託契約や業務委託契約が基本であったが、改正法案骨子案では、会計監査人の選解任の手続や欠格要件等が別に法令で一律に定められことになり、現行の選解任と契約の方法が変わることが予想される。
 第三に、会計監査人が学校法人の制度となると、学校医等と同様の業務委託契約による報酬や月額支給等の取扱いが求められる。上記で指摘した監査範囲の拡大もあって、これまで以上の経済的な負担の増大につながる恐れが大きい。
 第四に、監事の監査は、①業務の監査、②財産の状況監査、③理事の業務執行の監査、の3つが職務であるが、②の会計監査について、会計監査人との役割分担と責任の在り方の見直しが必要である。監事の職務規定から財産監査を外すのであろうか。内部監査との三様監査での分担と連携の調整が必要となる。

9.内部統制システムの整備義務

 私立学校における不祥事の発生を抑止するために、改正法案骨子案では、大学法人における内部統制システムの整備を理事会に義務化することが提起されている。特別委員会報告書ではそれ以外の学校法人においても理事の業務執行上で内部統制の運用に留意すべきことが示されている。
 内部統制の必要性は一般的に是認されるところであるが、内部統制の内容は明確ではなく、改正法案骨子案では、学校法人の業務の適正を確保するために必要なリスクマネジメント、内部監査、監事の補助、職員等から監事への内部通報等を内部統制システムとしており、統制の範囲や程度は幅広く細部に亘っている。私立学校における教学運営と経営管理及び財政執行等にまたがる学校法人の業務を適正に内部統制することは、監事、内部監査室及び会計監査人の三様監査の徹底と相互連携をもってしても十分ではない。システムを構築し、監査を強化することは人的にも財政的にも容易ではない。小規模法人では現実的には困難であり、実施効果があるとは考えづらい。
 そもそも、内部統制とは、業務の有効性やコンプライアンスなどの目的が達成されているかを確認するために組織の全メンバーによって遂行されるプロセスであると言われている。私立学校においては、その組織の長である理事長や学校長が中心となって、内部監査室等の組織を設置して、私立学校の組織全体の適正運営を点検し、不正を抑止することが主眼となる。理事長等の不正や不祥事をチェックすることだけが目的ではない。トップの監視のためには、監事による理事の業務執行の監査、理事会による理事の監督が主要な役割となる。私立学校の経営にとっては、不祥事の抑制も重要な課題には違いないが、内部統制の主旨を経営幹部の不祥事抑制に限定してとらえるべきではない。少子化の進行と経営環境の激化の中で、私立学校が持続的に発展していくためには、教育改革と経営改善が最大の課題である。積極的な経営戦略の構築と中長期的な事業計画の推進体制の構築が内部統制の重要テーマと言える。私立学校における内部統制システムの目的と範囲を明確にするとともに、私立学校にとって実行可能な制度の構築と整備が望まれる。

10.子法人の範囲と監査

 特別委員会報告書及び改正法案骨子案では、監査体制の充実の観点から、子法人の在り方について、子法人を規制する方向での見直しと統制強化が提起されている。一部の不祥事例が子会社と関連していたために、子会社を悪事の発生源と見なしているともとれる。
 しかし、これまで文部科学省は、私立学校経営の学納金収入への依存増大や経常費補助金の伸び悩みを受けて、学校法人の収入の多様化や独自財源を増加させるために、寄付金減税措置の拡充、収益事業の収益拡大と併せて、子法人の設置による学校法人への寄付還元などの方向を指向してきた。子法人の設置の意義は、学校法人とは距離を置いた自助努力の経営にある。大手私立大学を中心として、多様な子法人等が設置され、正常で有効に運営されている。これらの実態調査も十分でない中で、子法人が不正行為を行うという前提で過度の監査と介入を進めることには疑問を感じざるを得ない。そもそも子法人に対しては、国の補助金も出ておらず、非課税又は免税措置もない。学校法人会計基準にも拘束されないで、学校法人とは異なる形で独立的に設置運営されている。この子法人に対して、学校法人の監事及び会計監査人が介入して調査監視をするならば、その根拠を明示することが望ましい。また、子法人の範囲と監査の対象も明確にする必要がある。学校法人への業務報告、資金移動、会計監査と決算報告などの在り方について一定のルールと情報公開を求めつつ、子法人の自由で適正な経営活動を阻害しない新たな相互関係を構築することが望まれる。

11.刑事罰の新設等

 特別委員会報告書では、理事会・評議員会の議事録の作成や閲覧、会議運営の手続、紛争の早期・画一的な解決に資する訴訟制度の整備、刑事罰(特別背任・目的外投機取引・贈収賄・不正手段による認可取得)の新設など、学校法人固有の事情の考慮を特段要しない事項については、公益法人や社会福祉法人等の他の法人制度を参考に導入することが適切であるとされている。最終の特別委員会で、私立学校に適用することの是非や範囲についての十分な議論もないままに追認された。改正法案骨子案でも、役員等による特別背任、目的外の投機取引、贈収賄及び不正手段での認可取得についての刑事罰を整備するなどの方向が安直に提示されている。しかし、刑事罰の適用についても、公益法人の種別ごとに一律ではない。
 そもそも、役員等による不正行為等に対しては、私学行政制度として、理事による相互監督、監事による差止請求や評議員会及び所轄庁への報告が既に私立学校法で措置されている。文部科学省は学校法人に報告を求め、自ら調査し、問題があれば改善指導や役員解職の勧告が可能となっている。教育機関における問題事例に対しては、行政的な指導や対応を講ずることが所管庁として本来的に進めるべき取組みである。刑法上の懲罰を加重する方策は従たる対策である。
 私立学校における不祥事の発生は、その経営管理システムの欠陥というよりむしろ、役員等の個々人の資質に起因していることが多い。不祥事を抑制するためには、役員等の公正性や高潔性を喚起し、善管注意義務や忠実義務を徹底するための幹部研修を充実することが最大のテーマである。刑罰規定を加重することだけで不祥事を抑制することはできず、むしろ、犯罪は巧妙になるだけである。文部科学省は、私学団体と私立学校の役員等が自律的に健全な姿勢を確立していくことを支援するとともに、私立学校の役員や評議員に対する研修機会を充実させる取組みを助長する努力が望まれる。