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アルカディア学報

No.712

コロナ禍における遠隔授業
学設置基準の60単位制限について

村瀬隆彦(学校法人梅村学園常勤監事)

1.はじめに

 昨年来のコロナ禍は全世界に大きな衝撃と打撃をもたらし、大学教育の分野でも想像を絶する大きな影響を受けた。これまで当たり前と考えられていた教室での学生との対面での授業実施が困難となり、多くの大学で遠隔授業が実施されることとなった。
 未曽有の緊急事態であったが、文部科学省からは、教育の実施について柔軟な対応を可能とする指針が迅速に示され1、教育現場の努力もあり、何とか大学教育の質を保つことができたというのが関係者の正直な感想ではなかろうか。文科省からは、緊急避難的にいろいろな対応方針が示されたが、本稿ではそれらを振り返り、遠隔授業実施に係る今後の課題を提示したい。

2.遠隔授業の法的根拠

 遠隔授業の法的根拠はすでに周知のことではあるが、改めて確認しておきたい。
 大学設置基準第25条第2項の規定と「大学設置基準第25条第2項の規定に基づき、大学が履修させることができる授業について定める件」(平成13年3月30日文部科学省告示第51号)(以下「メディア授業告示」)が根拠法令である。メディア授業告示には2通りの授業実施方法が定められており、文科省による解説では、告示第1号が同時双方型(テレビ会議方式等)、第2号がオンデマンド型(インターネット配信方式等)とされている2。いずれも、「言いっ放し」や「やりっ放し」の授業ではなく、学生への適切な指導が必要である。
 なお、大学設置基準にもメディア授業告示にも「遠隔授業」という文言は存在しないが、本稿では、従来型の教室で対面で行うものを「面接授業」とし、オンラインで行うものを「遠隔授業」と呼ぶこととする。
 授業方法に関して、「遠隔授業」「オンライン授業」「面接授業」「対面授業」等が使用されているが、法令上の言葉の定義が定まっていないことはすでに専門家から指摘されている課題であり3、本稿でもこの定義の必要性を改めて指摘しておきたい。

3.文科省による緊急避難的な授業実施の指針等

 (1)遠隔授業実施に係る通知
 コロナに急襲される中、文科省から発せられた授業実施に関する通知は、筆者が知る限り、平成2年3月24日付け高等教育局長による「令和2年度における大学等の授業の開始等について」が最初であった。この通知では、授業開始時期や授業期間が主な論点であったが、遠隔授業の活用についても述べられている。
 通知の中の遠隔授業に関する部分を、次のとおり示しておく。

今後,学生の学修機会を確保するとともに,感染リスクを低減する観点から,いわゆる面接授業に代えて,遠隔授業を行うことが考えられること。
 その際,平成13年文部科学省告示第51号(大学設置基準第25条の規定に基づき,大学が履修させることができる授業について定める件)等に従い行う必要があるところ,同告示第2号等の規定に基づき,テレビ会議システム等を利用した同時双方向型の遠隔授業や,オンライン教材を用いたオンデマンド型の遠隔授業を自宅等にいる学生に対して行うことは可能であり,例えば以下の方法によることが考えられること。
 ・テレビ会議システムを用いた遠隔授業の例(略)
 ・オンライン教材(MOOC等)を用いた遠隔授業の例(略)
 
 この通知では、面接授業の一部を遠隔授業によって実施する場合であって、授業全体の実施方法として主として面接授業を実施するものであり、面接授業により得られる教育効果を有すると各大学等の判断において認められるものについては、大学設置基準第32条第5項等の規定(60単位制限)の適用を受けないものとした。
 なお、先に述べたとおり、文科省のメディア授業告示の解説では、告示第1号がテレビ会議方式で第2号がインターネットによるオンデマンド型であるにもかかわらず、この通知では、おしなべて告示第2号等に基づきとされている(第1号が無視されている)が、その意図は何であろうか。
 それはさておき、令和2年7月27日の大学振興課からの事務連絡「本年度後期や次年度の授業科目の実施方法に係る留意点について」では、遠隔授業の取扱いについて、より具体的に述べられている。その要点は次のとおり読み取ることができる。
 ①コロナ禍にあって、遠隔授業の活用(面接授業との併用を含む)を推奨する。
 ②特例的な措置として認められる遠隔授業については、大学設置基準第32条第5項を適用せず、60単位の上限に算入する必要はない。
何が特例として扱われるかは重要なので、次のとおり通知文を示しておく。
 
 大学設置基準第25条第1項は,主に教室等において対面で授業を行うことを想定しているが,今回の特例的な措置として,面接授業に相当する教育効果を有すると大学等が認めるものについては,面接授業に限らず,自宅における遠隔授業や,授業中に課すものに相当する課題研究等(以下「遠隔授業等」という。)を行うなど,弾力的な運用を行うことも認められること。この際,以下の事項に留意すること。
 ・授業担当教員の各授業ごとの指導計画(シラバス等)の下に実施されていること
 ・授業担当教員が,オンライン上での出席管理や確認的な課題の提出などにより,当該授業の実施状況を十分把握していること
 ・学生一人一人へ確実に情報を伝達する手段や,学生からの相談に速やかに応じる体制が確保されていること
 ・大学等として,どの授業科目が遠隔授業等で実施されているかなど,個々の授業の実施状況について把握していること

 つまり、コロナ禍にあって遠隔授業実施を推奨するが、特例的な扱いは一定の要件を満たすものに限られ、文面からは、メディア授業告示第1号のテレビ会議システム型(同時双方型)がこれに当たるものと読み取れる。
 (2)遠隔授業の活用に係るQ&A
 次に、遠隔授業の活用に係るQ&Aを確認したい。これも、文科省により累次の改定が行われているが、直近と思われる令和3年5月14日付け大学振興課からの事務連絡「学事日程等の取扱い及び遠隔授業の活用に係るQ&Aの送付について」を見てみよう。
 問5において、一般的な遠隔授業の活用としてメディア授業告示が再確認されており、これはコロナ禍に限ったものでないことが明記されている。
 さらに問6において、同時双方型とオンデマンド型の違いが述べられている。(同時双方型を推奨しているように読み取れる)
 問24が特例措置の解説であり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、臨時休業が長期化するなど、本来授業計画において面接授業の実施を予定していた授業科目に係る授業の全部又は一部を面接授業により予定通り実施することが困難と認められる場合であって、十分な感染症対策を講じたとしても面接授業を実施することが困難である場合において、特例的な措置として、いわゆる同時性又は即応性を持つ双方向性(対話性)を有し、面接授業に相当する教育効果を有すると大学において認められる遠隔授業については、大学設置基準第25条第1項で規定する授業の方法を弾力的に取り扱って差し支えないと記されている。

4.特例として60単位の上限に含まれない授業

 以上、長々と述べてきたが、大学設置基準第32条第5項が適用されない(60単位の制限を受けない)遠隔授業はかなり制限されたものである。それは、面接授業を実施することが困難であると認められる場合であって、
 ①面接授業の一部(授業時数の半分以下であること。先に述べたQ&A問6参照)が遠隔授業で行われるもの
 ②メディア授業告示第1号の遠隔授業、つまり同時双方型のもの
 ③オンデマンド型の場合は、授業終了後すみやかに学生指導と学生の意見交換が行われ、同時性又は即応性を持つ双方向性が担保されるもの(学生が場所と時間に制約されず自由に学ぶことのできる、いわゆるオンデマンドは除外される)に限定される。

5.おわりに

 筆者が仄聞するところ、少なくない大学において、コロナ禍における遠隔授業は、すべて大学設置基準第32条第5項の適用外(60単位の制限を受けない)と考えている節がある。
 また、特例措置が、令和4年度以降も継続されることを前提に教育課程を編成しているものと思われる。(特例措置の継続は、現時点では不明である)
 大学は、今後の遠隔授業の実施に際し、個別の遠隔授業の科目について60単位の制限の内か外かを明確にし、学生個々の履修状況を把握するとともに、特例措置の廃止も見据えた的確な履修指導に努める必要がある。
 大学教育の質の保証はDPに基づく学修成果であるが、形式的なエビデンスも忘れてはならない。
  
 1 令和2年3月24日文科省高等教育局長通知「令和2年度における大学等の授業の開始等について」
 2 中央教育審議会大学文科会将来構想部会制度・教育改革ワーキンググループ第18回資料6(2018年9月7日)
 3 『IDE』2020年8―9月号 「遠隔授業の課題―制度の再構築を望む―」鈴木克夫