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アルカディア学報

No.711

ガバナンス・コード
コード対応の際の主なポイント

研究員 大河原遼平(TMI総合法律事務所パートナー弁護士)

1 学校法人のガバナンスに関する議論

 現在、学校法人のガバナンスを改革するための議論が進んでいる。令和3年3月に文部科学省の「学校法人のガバナンスに関する有識者会議」がとりまとめた「学校法人のガバナンスの発揮に向けた今後の取組の基本的な方向性について」を受けて、同じく文部科学省に「学校法人ガバナンス改革会議」が設置され、私立学校法改正を含めた議論が行われているところである。
 翻って、各学校法人において、ガバナンス改善・強化に向けた取組は進んでいるだろうか。令和元年の改正私立学校法に対応した寄附行為の変更等にとどまっていたり、さらなる私立学校法の改正を予測して改革を静観してはいないだろうか。あるいは、ガバナンスの改善・強化に十分な意義を見出せない、という法人もあるかもしれない。
 しかしながら、相次ぐ不祥事に伴い世の中の学校法人に対する目は厳しさを増しており、不祥事の発生を抑止し、また、社会の信頼を得られるような透明性の高い組織づくりが求められている(守りのガバナンス)。一方で、学校法人をめぐる経営環境が年々厳しくなっている中、リスクを取りながらもリーダーシップを発揮できるような仕組みづくりも必要不可欠である(攻めのガバナンス)。その意味で、ガバナンスの改善・強化は急務といえる。
 そのような中、にわかに脚光を浴びているのがガバナンス・コードである。

2 ガバナンス・コードの概要

 学校法人のガバナンス・コードの制度は文部科学省に設置された学校法人制度改善検討小委員会が平成31年1月にとりまとめた「学校法人制度の改善方策について」で提言されたことにより、各私立大学・短期大学団体が新設したものである。団体によって、団体がコードのモデルを示した上で、各学校法人自身がコードを策定するという建付けのものや、コーポレートガバナンス・コードと同様に、団体としての規範を策定し、それに従うか、従わないのであればその理由を説明する(コンプライ・オア・エクスプレイン)、という建付けのものなどがある。
 もっとも、建付けの違いはあれど、ガバナンス・コードの効用は大きく2つあるといえる。1つは、コード対応を進める際に自法人のガバナンスを点検し、その見直しを図るとともに、その内容を言語化することとなる。それ自体によって、自法人のガバナンスの改善を進めることができる、という効用である。もう1つは、コード対応を公表し、自法人のステークホルダーの信任を得た法人運営を行うことで、訴訟等のリスクを低減させ、結果的により積極的にリーダーシップを発揮していける基盤をつくる、という効用である。後者はまさに、経営陣がステークホルダーに対して説明責任を果たすことと引き換えに健全なリスクテイクを可能とするという観点である「攻めのガバナンス」を強化する効果があるといえよう。

3 コードの項目の中でのポイント

 今後ガバナンス・コード対応を進めるにあたって、ポイントとなる項目をいくつか述べることとする。
 (1)外部理事の活用
 ステークホルダーの信任を得るという際に重要となるのが、法人の意思決定の内容が独りよがりになっていないか、という点である。そのような客観性・透明性を確保する手段として注目すべきなのが外部理事の活用である。この点、各私学団体のコードでも、外部理事の複数名登用が定められている。もちろん、外部理事を数多く登用することで多様な意見を反映できるという利点があるのは間違いないが、一方で、なり手を見つけるのが容易でない法人もあると思われる。
 むしろ、より大事なことは、外部理事をどのように活用していくか、である。外部理事は外部者であるから、自法人のことを十分知らず、また、学校法人業界のことに精通していない場合も少なくない。当然、資料送付や懇談会等による自法人の定期的な情報提供は不可欠である。
 併せて、いかに有意義な意見を引き出すかという観点での対応も必要となる。例えば、理事会の際に各外部理事に必ず1回は発言してもらうように議長が発言を促すことも考えられる。また、外部理事同士の連携をとることも重要であり、理事会前に外部理事のみの会合を開催するということも考えられる。この会合を開催することで、外部理事同士で考えを共有し、理解を深めることになり、その後の理事会でも外部理事が自信を持って意見を述べられるようになるという効果があるように思う。
 このように、外部理事の活用方策は、今後最も重要な課題の1つとなると考える。
 (2)コンプライアンス、リスクマネジメント
 各私学団体のガバナンス・コードでは、コンプライアンス(法令遵守)やリスクマネジメント(危機管理)に関する体制整備も求められている。これらはどちらかというと、経営陣を規律していくための概念である「ガバナンス」というよりは、経営陣が法人内を統制していくための概念である「内部統制」に属するものであるため、ガバナンスの議論の際には漏れがちである。しかしながら、これらもコードの内容となっており、各学校法人でもその体制整備が求められている。
 具体的には、コンプライアンスとの関係では、例えば、行動指針・運営理念の策定やコンプライアンス教育・研修の実施、コンプライアンス担当部署・責任者の設置、内部通報制度の整備などが考えられる。特に、内部通報制度については、公益通報者保護法が改正され、来年6月に施行が予定されていることから、その対応について改めて見直しを図ることが求められる。
 また、リスクマネジメントとの関係では、例えば、リスクマネジメントに関する組織・責任者の設置や方針の策定、マニュアルの作成などが考えられる。特に、新型コロナウイルス感染症の再拡大や大規模地震等の未曽有の天災の発生など、影響の大きいリスク要因が存在していることから、自法人のリスクマネジメント体制について、改めて検証しておく必要があろう。
 いずれにしても、コンプライアンス・リスクマネジメントはガバナンスの文脈の中では比較的着目されにくい事項であり、また、性善説で動いている学校法人の世界の中でまだあまり十分に浸透しきれていない事項であるが、各私学団体のコードにも定められている事項であるため、今後重点的に取り組んでいく必要がある。
 (3)役員・評議員の研修
 各私学団体のガバナンス・コードでは、役員(理事・監事)、評議員に対する研修の実施が求められている。この点、今までは、教員に対する研修(FD)、職員に対する研修(SD)などは積極的に行われてきたが、役員・評議員に対する研修は十分に行われてこなかったのではないだろうか。役員・評議員に対する研修がコード対応に直結することからも、今後は積極的に研修を行っていくべきである。
 その際に重要となるのが、ガバナンスに関する役員・評議員向け研修である。再度の私立学校法改正も取り沙汰されているが、今後の自法人のガバナンスを検討していく上で、議論の動向、自法人の置かれた状況、役員・評議員としての義務・責任、今後採るべき方策等について、まずは役員・評議員が目線合わせすることが不可欠である。そのためにも、まずはガバナンスに関する学内研修を実施した上で、理事会・評議員会で議論していくのがよいと思われる。

4 最後に

 ガバナンスの改善・強化は待ったなしの課題であるが、その際にガバナンス・コードを活用していくことは私学の自主性確保のためにも大変重要なことである。コード対応の中身の充実はもちろん、その公表の内容も工夫するなど、コード対応をうまく活用して、ガバナンスの改善・強化を図ることが望まれる。