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アルカディア学報

No.708

観察された学修成果の仕組み
SOLOタクソノミー

客員研究員 土持ゲーリー法一(京都情報大学院大学副学長・教授)

はじめに

 「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(平成30年11月中央教育審議会)における学修成果の可視化と情報公表の促進が注目されている。学修成果の可視化は、大学教育の質保証にとって重要なバロメーターとなっている。大学入試が「加熱」するあまり、本来の大学教育を蔑ろにしてきたとの批判は免れない。文科省は3つのポリシーをかかげ、卒業時の学修成果「ディプロマポリシー」を強調している。
 「学び」にはインプットとアウトプットの側面がある(詳細は、拙稿「大学と社会の連携~インプットからアウトプットへ~」(『教育学術新聞』2778号、2019年8月21日を参照)。前者は「基礎知識」、後者は「学修成果」を指す。学修成果は英語の
 Learning Outcomesで「アウトプット」のことである。筆者も単位制との関連から「学修成果の可視化」について、「単位制を再考する~eラーニングによる学修時間をどう確保するか」(『教育学術新聞』2805号(2020年5月13日)で述べている。
 「学修成果の可視化」では「可視化」に重点を置くあまり、「数量的」成果がクローズアップされているように思われる。「学修成果」には数字に表れにくい「質的」成果もあることを看過してはいけない。大学教育の質保証では、むしろ質的評価が重要である。筆者は、「学修成果の仕組み」がどのようなものか、十分な「観察」もせずに可視化を急ぐあまり内実の伴わない表面的な結果を「鵜呑み」しているのではないかと危惧している。本稿では、「観察された学修成果の仕組み」(SOLOタクソノミー)がどのようなものかについて紹介する。

「学びの仕組み」

 「学びの仕組み」を理解するにはカナダ・クイーンズ大学で開発された「ICEアプローチ(モデル)」がわかりやすい。これは3つの領域(ICE)からなるアプローチである。すなわち、Iのアイデアは「基礎知識」、Cのコネクションは「関連づけ」、そしてEのエクステンションは「応用」という具合である。多くの学校は学びの「インプット」に重点が置かれているが、これはIの領域に相当する。この時点では表面的な「浅い学び」に留まり、単元を終え、試験が済むと記憶に残らないことが多い。
 「学び」を定着させるには、Cの領域の関連づけが重要である。なぜなら、この部分が記憶を「フック」させると考えるからである。いささかこじつけになるが、筆者は「フック」を「釣り針」にたとえている。これを逆さにすれば、「?」マークになる。したがって、Cを活性化するには、「質問する?」ことが重要であると考えている。このことに関連して、『教育学術新聞』の拙稿「アクティブラーニングの現状と課題」(『教育学術新聞』(2788号、アルカディア学報658、2019年11月13日)で述べている。たとえば、クイーンズ大学フレーザー教授の物理学専攻学生は成績優秀で、Iの領域の問題はないが、そこでの学びを次につなげるCのところで躓き、先に進めないと苦労話をしてくれた。彼によれば、「深い学び」につなげるにはCが重要であるが、その「仕掛け」に苦労しているとのことであった。学生にとってのCはコネクションというよりも、コンフュージョン(Confusion混乱)のCに近いものだと苦笑した。

ICEアプローチ

 ICEモデルの原書(Assessment & Learning The ICE Approach)は、アプローチ(方法論)になっている。ブルーム・タクソノミーは階層的な学びであるが、ICEはそうではない。したがって、IからでもEからでもどこからでもはじめることができる。筆者はCからスタートするようにしている。なぜなら、Cのコネクションが表面的な学びを深い学びへ変える起点となると考えているからである。ここではじめてアクティブラーニングが起こる。I(基礎知識)は教員から知識を「伝授」されたもので自分のものになっていない。したがって、浅い学びである。深い学びに「パラダイム転換」するには、学習者が主体的に学ぶ必要がある。その「分岐点」になるのが、学習者が自らの学びを「動詞」で表現できるようになったかどうかである。ICEアプローチ共同開発者スー・ヤングもICE動詞の重要性を認識し、その一覧表を提示している。
 たしかに、ICE動詞を活用すれば、学習者の主体的な学びにつなげることができる。しかし、動詞の活用だけでは不十分である。重要なことは深い学びの「仕組み」がどのようなものかを理解する必要がある。「仕組み」も分からずむやみに動詞を使っても効果はあがらない。

観察された学修成果の仕組み」SOLOタクソノミー

 注目すべきはSOLOタクソノミーである。スー・ヤングも『「主体的学び」につなげる00評価と学習方法~カナダで実践されるICEモデル』(東信堂、2013年)の中でSOLOについて、現代の学習理論と教室での評価の方法を関連づけた最初の本として、Biggs, J.B., and K. Collis, Evaluating the Quality of Learning:SOLO Taxonomy. New York:Academic Press, 1982を引用し、参考文献にあげている。SOLOとは、Structure of
 Observed Learning Outcomesの略で「観察された学修成果の仕組み」である。これは以下の図表のように5つに分類できるもので、「理解度を表す動詞の事例」と副題にしているところが注目に値する。換言すれば、学習者の「理解度」は動詞の活用に左右されるということになる。

  1. 組み立て以前のレベル~最も低い段階で、学習者は質問にどのようにアプローチしていいかさえわからず、その結果として、質問に関係のない答えをするか、または答えない。
  2. 一通りの組み立てレベル~この段階では、学習者はある一つの情報に焦点をあて、それに集中するあまり、ほかのことは無視する。
  3. 複数の組み立てレベル~学習者は複数の情報を提供するが、それらを関連づけようとはせず、羅列する。
  4. 関連づけるレベル~進んだこの段階では、学習者は見出しやカテゴリーを使って情報をまとめる。
  5. 発展抽象レベル~最後に、学習者は学びをさらに先へ進めて、新たな対話の形へと発展させる。

 図表「観察された学修成果の仕組み」から、学んだことを関連づけることで「深い学び」へと変化していくプロセスがわかる。これはICEのCの部分を理解するのにも役立つ。たとえば、1人で学ぶよりも2人、3人と関わる方が学びを深めることにつながり、なぜアクティブラーニングは学習効果があるのかを裏づけることができる。

まとめ

 SOLOタクソノミーを通して、「観察された学修成果の仕組み」について見てきた。5段階の5レベルのところにどうしても目が行きやすいが、筆者は5段階の最初「組み立て以前のレベル」に注目している。このレベルは理解ができていないか、間違って理解しているところである。そのことを無視して次のレベルに進むと学びの崩壊につながる。教員は、「学び」から逸脱した学習者の軌道修正をする必要がある。なぜなら、最初のスタートが肝心だからである。最後の「発展抽象レベル」の「新たな対話の形へと発展させる」の「対話」も重要である。なぜなら、文科省も「主体的・対話的で深い学び」を強調しているからである。
 ICEアプローチはタクソノミーではない。そのことは両者の原書のタイトルからも読み取ることができる。すなわち、ICEではAssessmentを使用し、SOLOではEvaluatingとなっている。アセスメントとは、ディ・フィンクによれば、「教育的評価」のことであるとして「評価」とは峻別している。アセスメントの積み重ねが「評価」につながるとの考えである。