加盟大学専用サイト

アルカディア学報

No.702

大学職員は変わったか
―全国大学職員調査から

研究員  両角亜希子(東京大学大学院教育学研究科准教授)

 大学運営を担う構成員としての大学職員の重要性が叫ばれ、大学経営人材として専門性を高め、大きな役割を果たすことが期待されている。2017年の大学設置基準の改正では、大学運営における教員・職員の役割分担と協力関係の確保が明確化され、教職員へのSD(スタッフ・ディベロップメント)も義務化された。私の所属する東京大学の大学経営・政策コースをはじめとして大学職員を主なターゲットとする大学院教育もあり、大学職員を対象とした学内外の研修機会も格段に増えて、充実してきた。大学をテーマとする雑誌や書籍も多く、大学職員が様々な知識を学ぶ機会も多い。こうした中で、大学職員はどう変わったのか。東京大学大学経営・政策研究センターでは、2010年に「全国大学職員調査」(5909人回答)を実施したが、2021年2月にこれと比較可能な設計で「第2回全国大学職員調査」(1983人回答)を行った。2回の調査の詳細は大学経営・政策研究センターのウェブサイトをご確認いただきたい(http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/cat77/cat87/)。近日中に第2回調査についての第一次報告書をウェブサイトにアップする予定だ。

10年間の変化からみた大学職員

 2回の調査で回答者の役職や年齢の分布が大きく異なっているわけではないので、ここでは、単純だが、いくつかの設問に対する全体の意見の分布の違いを紹介する。
 職員の仕事に関する意識について、いくつかの項目の2時点の数値を表1に示した。仕事について、やりがいがある、創意工夫が必要とされる、自分の能力や適性が生かされている―についての意識は10年前から低く、以前から課題として指摘してきたが、最新の調査ではさらにこうした点での評価が下がっている。結果は省略するが、やりがい、自分の能力や適性が生かされているという意識と年齢が無相関である傾向も変わっていない。
 職場の雰囲気について、休暇を取得しやすい雰囲気といった点では改善したが、上司は信頼して仕事を任せてくれる、自分の意見や提案を言いやすい雰囲気はむしろ減少した。回答者自身の将来として、職員を続けたい、現在勤務する大学で働きたいという希望・こだわりも減っている。仕事を選んだ理由については、学校・教育業界に関心があったという回答が増えたが、同時に地元志向、安定志向で選んだ割合も増加している。結果は省略するが、人事評価制度に関して、「能力や適性が生かされた人事異動が行われている」「一定のキャリアモデルが示されている」といった項目は低い評価のままで変化がなかった。「明確な評価基準が提示されている」については第1回が45%、第2回が30%と大きく評価が下がった。人事評価の導入が進んだことで不満は大きくなっているということであろう。
 また、国立大学の法人化から17年もたったにもかかわらず、総体として国公立大学の職員の改革マインドの低さも変わっていない。表2には設置形態別に仕事の仕方・姿勢の違いを見たが、どのような仕事も前向きに取り組む、仕事の効率化に取り組む、前例のない仕事も積極的に提案する、高等教育政策を理解し業務に活かすといった意識は、いずれも私立で最も高く、国公立で低い。
以上の結果を一言でいうと、大学職員は10年間であまり変わっていない。少なくとも期待される方向に向かって変化しているエビデンスはほとんど見いだせない。かつてないほど大学が置かれた経営環境は厳しさを増しているのに、こんなことで大丈夫なのか、と心配になり、危機感を募らせた。

なぜ変わっていないのか

 今後さらに分析を行い、10年間の変化やその意味を詳しく検討する必要があるが、これまで分析している限り、全体で感じた印象は間違っていないようだ。なぜなのだろうか。いくつかの可能性が考えられるが、大学の業務改革が思うように進んでおらず、現場に疲弊感が募っているからではないかと筆者は考えている。大学改革の必要性が叫ばれてから、数十年ほど大学では改革を続けているし、とくにこの10年ほどは社会からの教育研究の中身や運営のあり方に対する直接的な要求が強まっている。大学教員の疲弊もしばしば指摘されるが、改革疲れは職員組織でも起きているのではないだろうか。ある大学理事から「職員にヒアリングしていたら、雪かきのような仕事ばかり。しかも最近はドカ雪続きだと言われた」という話を聞いた。雪かき、つまり降ってくるので必要に迫られて対応していて、何かを生み出すような、やりがいのある仕事ではないし、それ以上のことをやる余裕もない状況をうまくとらえた表現だと感心しつつも、現場の深刻さを理解した。
 私たちの今回の調査でも、「業務量が多すぎる」という設問に対して、25%が「そう思う」、37%が「ある程度そう思う」と回答している。年齢別にみると、40代、50代では29%が「そう思う」と回答している。大学改革や様々な政策対応で大学業務量は以前と比べてもかなり増えているが、人員を増やせない大学も少なくない。そうなれば、業務改革が必要で、最近はDXを活用した業務の効率化などへの期待も高いが、現場はそうした業務改革を先導すべき40‐50代の業務が多すぎて余裕がなく、十分に進んでいない。調査の中で「業務のスクラップ・見直しが適宜実施されている」に対しては、「そう思う」2%、「ある程度そう思う」26%、「あまりそう思わない」55%、「そう思わない」17%であり、業務の見直しはほぼ進んでいない状況だ。雪かき続きの職場の業務改善をしないと、職員が期待されている姿に変わることはないのではないだろうか。
 これまでの大学職員論は個人目線の視点が強く、職員はどのように成長できるのか、そのためにはどのような知識・能力・経験が大事なのか、といった議論が多かった。そのこと自体は意味があるのだが、問題なのは、組織の視点、経営的な視点が欠落する傾向にあったことではないかと考えている。個人の成長がいかに組織の成長に結びつくのか、それを妨げているものは何か。そうした観点から、業務や組織や人事のあり方をどう変えるかを議論しなければいけない時期に来ているのではないだろうか。