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アルカディア学報

No.690

学生へのアドバイジングに求められる知識・技能を考える
―米国専門職団体によるコア・コンピテンシーからの示唆―

研究協力者 我妻鉄也(千葉大学アカデミック・リンク・センター特任助教)

はじめに

 文部科学省『平成30年度の大学における教育内容等の改革状況調査結果のまとめ』によると、「アドバイザー制」を実施している大学は424大学であり、回答校(761大学)の半数(55.7%)に達している。
 同調査では、「アドバイザー制」に関する項目に加え、平成29年度には「履修指導や学修支援制度等の取組状況」に関する質問項目に「アカデミック・アドバイザー等の専門職の配置」に関する回答選択肢が設けられた。「アカデミック・アドバイザー等の専門職」を配置している大学数は61大学(平成30年度)であり回答校に占める割合は8・0%に留まっており、「アドバイザー制」の実施に比してその数は少ない。
 確かに、多くの機関では組織の規模や人員の関係から、「アカデミック・アドバイザー等の専門職」の配置は難しいことであろう。実際、アカデミック・アドバイジングの制度が整備されている米国においても、専任のアカデミック・アドバイザーがアドバイジングを担っている大学は約8割という調査結果1)が出ており、必ずしも全ての大学に専任のアカデミック・アドバイザーが配置されているわけではない。
 とはいえ、我が国の大学の半数にて「アドバイザー制」を実施しているという調査結果や新型コロナ禍の下で新年度を迎えるにあたって教職員は履修や学修をはじめとする学生からの様々な相談に応じることが想定されることから、アドバイジングに求められる知識や技能について解説することの意義はあろう。
 そこで本稿では、アドバイザー業務を担当している教職員の参考に資するべく、米国のアカデミック・アドバイジングに関する専門職団体NACADA(National Academic Advising Association)が作成した『アカデミック・アドバイジング・コア・コンピテンシーモデル』2)の内容を解説し、学生へのアドバイジングに求められる知識や技能について考察していく。
 アカデミック・アドバイジング・コア・コンピテンシーモデル
 NACADAによる『アカデミック・アドバイジング・コア・コンピテンシーモデル』(以下、コア・コンピテンシーモデル)は、専任のアカデミック・アドバイザーやアドバイザー担当教員等によって使用されることを企図して作成された。コア・コンピテンシーモデルは、アカデミック・アドバイジングの基礎となる「理解」「知識」「技能」を明確にし、専門職能開発を方向付け、学生の成長や成功のためにアカデミック・アドバイジングの貢献度を高めることを目的としている。
 コア・コンピテンシーモデルは「概念について(コンセプチュアル)」「知識について(インフォメーショナル)」「関係について(リレーショナル)」の3つの要素から構成され、アカデミック・アドバイザーはこれらの内容を理解することで、学生に対して効果的な助言をするための知識や技能を得ることができる。
 これらの3つの要素の内容であるが、「概念について」には、アカデミック・アドバイザーが学生に対して効果的なアドバイジングを行う上で理解しておかなければならない考え方や理論が含まれる。
 例えば、「アカデミック・アドバイジングの方法と方略」「アカデミック・アドバイジングに期待される成果」などである。アカデミック・アドバイジングの方法については、「処方的アドバイジング」や「発達的アドバイジング」、さらには、新たに開発された「学習中心型アドバイジング」といった方法がある。「処方的アドバイジング」では学生が回答や解決策を求めるためにアドバイザーを訪問するといったように学生を情報の受動的な受け手として位置付けている。一方、「発達的アドバイジング」はアドバイザーと学生が発達課題に取り組むものである。「発達的アドバイジング」には、「人生の目標の探索」「職業の探索」「プログラム選択」「コース選択」「コースのスケジューリング」といったアカデミック・アドバイジングの5つの側面があり、アカデミックプランニングやキャリアに関する指導をすることから、人間的成長に関わるものである。「学習中心型アドバイジング」については学生の学習を軸とする方法である。この方法に関わることだが、アカデミック・アドバイジングの方法が新たに開発されることで、アカデミック・アドバイジングの観点は情報提供や助言を中心とした教授パラダイムから学生の学修成果を中心とする学習パラダイムへ転換している3)。学修は、学生が明確で合理的な目標を有することでより効果的になる。それゆえ、アカデミック・アドバイザーは、学生がアカデミック・アドバイジングを受けた結果、何ができるようになるかといった明確な目的を設定しなければならない。
 次に、「知識について」には、所属機関で学生を助言できるよう習得しておくべき知識が含まれる。その内容は、「所属機関の歴史、ミッション、価値、文化」「カリキュラム、学位プログラム、修学上の要件」「各機関における方針、手続、規則」「学生の成功を支えるための学内外の資源」などである。
 最後に、「関係について」においては、アドバイザーが支援を受ける者に対して「概念」や「知識」を伝える上での技能が含まれる。その内容は、「ラポールを形成し、アカデミック・アドバイジングの関係を構築する」「包摂的で敬意を持った態度でコミュニケーションをとる」「成功をもたらすアドバイジングを計画し、実行する」といった技能である。学生の成績表やアドバイジング記録の確認といった準備や情報が十分に整理されていることが、アドバイザーと学生間での面談を有意義かつ生産的なものにする。

まとめ

 以上、アカデミック・アドバイジング・コア・コンピテンシーモデルの内容について解説してきたが、学生へのアドバイジングには、所属機関のカリキュラムや修学上の要件等の知識が求められることは改めて言うまでもない。実際、アドバイザーを担当する教職員は既に身に付けている事項であろう。これに加えて、意識的にせよ無意識にせよ、学生とのラポールを形成するとともに、敬意を持った態度でアドバイジングを実施している教職員も多いだろう。
 しかしながら、アカデミック・アドバイジングにおいて、従来の情報の提供や解決策の提示を中心とした教授パラダイムから学習パラダイムへと転換している中で、学生がアドバイジングを受けることによって何ができるようになるのかを意識してアドバイジングを実施している教職員は必ずしも多いとは言えないのではないだろうか。今後、学生への授業のみならずアドバイジングにおいてもこのような観点が求められるだろう。

1)2011 NACADA National Survey of Academic Advisingの調査結果による。
2)筆者が所属する千葉大学アカデミック・リンク・センターでは、シンポジウムにてNACADA関係者を招聘したことが契機となり、『アカデミック・アドバイジング・コア・コンピテンシーモデル』及び『アカデミック・アドバイジングに関する基本的価値観』の日本語版を作成した。関心のある読者諸氏におかれては、当センターのウェブサイトをご覧いただきたい。
3)NACADA.(2017). Academic Core Competencies Guide(P.10), Manhattan,KS:NACADA.