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アルカディア学報

No.686

新型コロナの影響下で
求められる働き方と感染予防対策

研究協力者  小出龍郎(愛知学院大学前高等教育研究所長、教授、愛知学院短期大学部教授)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)は、拡大の一途を辿っており、現在も一部の国において出入国制限やロックダウンなどの措置が続いている。国内においても、11月に入りコロナウイルスの感染拡大が「第3波」の様相を呈し、再び休業要請、県外出への自粛要請など、社会生活及び経済活動に大きな影響を及ぼしている。
 しかも当面、流行は長期化すると予測され、今後も「新しい生活様式」(ニューノーマル)を取り入れながらCOVID-19と共存していくことが求められるとともに、私たちの働き方は、オンライン会議、在宅ワークの普及とともにますます変化しそうである。

急遽始まった在宅ワークへの対応

 これまでなかなか進まなかった在宅ワークは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で一気に普及した。きっかけは感染対策として緊急避難的に進められたとはいえ、もともと在宅ワークは「働き方改革の推進」や「ワークライフバランスの向上」などを目的に導入が進められてきたもので、仮にコロナ感染が収束したとしてもすべてが以前の状況に戻るわけではなく、働き方の一つの常態として定着していくと思われる。現在、テレワークは、密を避けるために在宅勤務を中心に語られているが、ニューノーマル時代にはモバイルワークやシェアオフィスにまで話は広がっていく。内閣府の調査結果によれば、緊急事態宣言前の3月では在宅ワークを実施している人は13・2%であったのが、緊急事態宣言後の4月には約2倍の27.9%、宣言が解除された6月以降には34.6%という数字が示されている。
 在宅ワークについては、厚生労働省でも「情報通信新技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を策定し、テレワークの導入に関する労働基準関係法令の適用や留意点についてパンフレットを作成して解説しており、その中で「仕事と仕事以外の切り分けが難しい」、「長時間労働になりやすい」、「労働時間の管理が難しい」などが導入にあたっての課題や問題点として挙げられている。

新しい生活様式に沿った働き方

 厚生労働省から発表された「新しい生活様式」ニューノーマルの実践例では、感染防止の3つの基本として、①身体的距離の確保(ソーシャルディスタンス)、②マスクの着用、③手洗い・消毒、および換気の強化や3密(密集・密接・密閉)の回避などに留意することが推奨されている。また、働き方への取り組みとして、在宅ワークやローテーション勤務、時差通勤、オフィスを広々と使うこと、オンライン会議、打ち合わせ等は換気をしつつマスク着用で行うことが記載されている。さらに、「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」が公開されており、同リストに基づくチェックを行うことで、「新しい生活様式」ニューノーマルに沿った運営ができているかを確認することができる。
 在宅ワークの普及により、再び職場への道が開けている人々もいる。先日、障害をもった方がネットを経由しての遠隔操作する接客ロボットを使用して、離れた自宅からお客様とロボットを介してやり取りを行えるという事例があり、今まで身体障害者の方が接客業務に従事するということは通勤や職場での周囲の人や付き添いの方の配置も含めて難しい面も多かったが、オンライン、テレワークの導入などにより、障害者の方々の職場への参加の機会が広がってくるという事例が見られた。
 また、厚生労働省は平成28年に「事業場における仕事と治療の両立支援のためのガイドライン」を策定し、この中で疾病や障害を抱えながらも離職することなく、治療をしながら就業を継続する労働者を支援する取り組みでは、治療のために医療機関に継続的に通うための会社独自の休暇制度や短時間勤務の導入が必要不可欠となってくるが、このような取り組みも在宅ワークならば比較的、導入しやすくなるのではないか、と医師でもある筆者には思われる。
 新型コロナウイルス対策が契機として普及が拡大してきた在宅ワーク、オンラインという働き方は、今後も仮に新型コロナウイルスが終息した後も、新しい生活様式の一つとして確立していくと考えられる。また、今回の新型コロナの影響で、日本人の働き方は想像以上に変化してきているのではないか、さらに、今後は働き方とは対極にある「休み方」にも大きく影響していくと予想される。

感染予防への対応

 新型コロナウイルス感染症の流行によって、これまで善とされていた人と人とのコミュニケーションが悪となり、オンライン、在宅ワークの導入などによって働き方とマネジメント手法も変化が求められてきている。各大学においては、地域の特性なども踏まえつつ、教育現場・職場環境に合った感染予防策を取りつつ、個人の安全と健康の確保を図っていく必要がある。
 こうした中で、流行期に必要なこととして「外部および内部情報の収集体制」、「感染拡大への防止策」、「事業継続に及ぼす影響の評価に関する準備」、「最終意思決定者」の4つは感染症流行への対応を行う上で、規模を問わず最低限必要なものとなる。このうち、外部情報とは病原性に関する情報等、事業継続のレベル決定や感染予防策の実施に必要となる学外の資源から得られる情報のことを指し、内部情報とは、学内の感染者数等、感染拡大防止に重要となる学内の資源から得られる情報のことを指す。また、最終意思決定者とは、新興感染症の流行期に、事業を継続することによる職員や学生等が感染するリスクと、大学運営存続のために収入を確保する必要性を勘案して事業継続のレベルを決定する最終判断者のことを指す。特に外部情報に関しては、正確でない情報に惑わされる可能性があり、流行の状況を踏まえ、教育現場、職場環境に合った感染予防策や事業継続計画を進めていくのに、最終意思決定者への正確な情報が集まる仕組みを構築することが望まれる。
 また、新型コロナなどの新興感染症が流行した場合には、感染拡大の状況の変化に伴い、最終意思決定者は事業継続のために迅速な対応・判断を迫られる。私たちは、常に感染症に関する最新の情報を収集し、運営及び継続の観点を踏まえて感染対策について求められる。しかし、新型コロナのように流行の初期段階においては未知の領域が多く、疫学情報、ウイルスの特性や臨床的特徴に関する情報は日々更新されている。さらに、それらを受けて政府及び各自治体の対応も変化していくため、常に多方面からタイムリーかつ正確に情報収集を継続する必要がある。これまで、ウイルスの特性や臨床的特徴などに関する多くの情報が明らかになってきたものの、依然として、後遺症の実態やワクチン承認と有効性、集団免疫獲得時期など不確定な要素が数多く残っている。このように、先が読めず、情報も刻一刻と変化していく中では、得られた情報を正しく解釈して、自分で考え、行動するリテラシーが極めて大切になる。
 しかし、実際インターネット上では情報過多となり、今年新型コロナに関する不確かな情報が拡散される事態が生じた。情報が急激に拡散した結果として、信頼できる情報が識別しづらくなり、世界保健機関(World Health Organization:WHO)は、「インフォデミック」によって信頼性の高い情報が見つけにくくなっていると警告した。今後、コロナ克服につなげる信頼性の高い情報を収集するためには、厚生労働省などの政府機関やWHOなどの国際機関、国立感染症研究所や発生地域の米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)などの公的な専門機関の情報サイトを活用していくことが重要である。
 ▽日本の政府機関
 新型コロナウイルスに関する情報は、各省庁のホームページ上の特設ページで発信されている。
 (1)内閣官房〈新型コロナウイルス感染症対策〉
 内閣官房には、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく新型コロナウイルス感染症対策本部(政府対策本部)が設置されており、国の基本的対処方針や感染拡大防止策を決定している。
 (2)首相官邸〈新型コロナウイルス感染症に備えて〉
 この特設ページでは、各政府機関で取り組んでいる施策へのリンクが個人・企業別・目的別にまとめられている。また、新型コロナウイルス感染症対策本部での議事内容や決定事項が掲載されている。
 (3)国立感染症研究所〈新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報ページ〉
この特設ページでは、COVID-19に関連する現状の評価と国内のサーベイランスの情報(感染事例、クラスター事例、国内の感染症流行の特徴、積極的疫学調査(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」第15条に基づく)など)、医療機関及び保健所における感染管理などに関する信頼性の高い情報が得られる。
 (4)厚生労働省〈新型コロナウイルス感染症について〉
 この特設ページでは、政府の基本方針や感染拡大防止施策、相談窓口、事業者及び労働者向けの感染防止策や支援情報、自治体・医療機関向けの情報、国内の感染症発生状況、医療提供体制の整備状況など、幅広くの項目が設けられている。
自治体・医療機関向けの情報としては、COVID-19診療の手引きや退院基準や宿泊療養又は自宅療養の感染者の就業制限の解除に関する取扱いや、新型コロナウイルス感染症に係る行政検査におけるPCR検査の取扱いについてなどの情報が掲載されている。
 (5)外務省〈外務省海外安全ホームページ〉
 このホームページでは、新型コロナウイルス感染症に関する緊急情報が掲載されており、海外への渡航に際して、各国・地域におけるCOVID-19の感染状況や感染症危険情報(渡航に関する勧告など)、日本人に対する各国・地域の入国制限措置及び入国・入域後の行動制限に関する情報が掲載されている。
 (6)経済産業省〈新型コロナウイルス感染症関連〉
 この特設ページでは、感染症拡大により特に大きな影響を受けている事業者に対する持続化給付金やテレワーク導入に関する費用、中小企業・小規模事業者向け相談窓口などに関する情報が掲載されている。
 ▽国際機関及び海外専門機関
 (1)WHO〈Coronavirus disease(COVID-19)pandemic〉
 この特設ページでは、世界の新規感染者数や死亡者数など感染者数に関するダッシュボードの他、COVID-19に関する特徴について掲載されている。
 (2)CDC〈Coronavirus(COVID-19)〉
CDCは、米国国内外問わず、公衆衛生の主導的立場にある米国の政府機関である。感染症対策の総合研究所であり、国内外で発生している感染症を24時間監視して疾病の予防と管理及び情報提供を行っている。
 ▽関連する学会
 (1)日本感染症学会〈感染症トピックス―新型コロナウイルス感染症〉
感染症に関する研究や人材育成、感染症に関する対応策の提言など幅広い活動を行っており感染症専門医の認定機関でもある。COVID-19への対応について、医療従事者向けと一般市民向けに情報提供を行っている。
 (2)日本産業ストレス学会〈新型コロナウイルス感染症流行時のストレス対策特設ページ〉
この特設ページでは、心理的支援やセルフケアなどに関する情報について、医療・保健・心理職などの専門職向けのものと、企業や労働者向けのものをまとめたリンク集が掲載されている。
 (3)日本産業保健法学会〈新型コロナ労務Q&A〉
 この特設ページでは、COVID-19に関する代表的な労務問題について、実務的かつ中立的なものを示すことを意図して、弁護士や社会保険労務士から構成される当学会プロジェクトチームの考えが、Q&A形式で示されている。
 本稿で紹介した機関以外にも、適宜、各方面の政府機関や専門機関の情報を中心に収集することが有用である。