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アルカディア学報

No.668

「大学改革のための私立大学と国立大学への資源配分」
共通指標の有効性と分野別研究評価の課題

研究員 山田礼子(同志社大学社会学部教授)

 近年、日本の高等教育機関における資源配分の特徴は、国立・私立を問わず政策的に大学改革を通じて達成させようとする目標の共通指標化に置かれているように思われる。そうした政策的な大学改革の方向性が資源配分に反映されている代表的なものは、国立大学法人の運営費交付金であるといえよう。さらには、国公私立を対象に実施されてきた競争的資金による事業等が代表的である。
 私立大学の補助においては、従来は、大学の規模によっての資源配分が基本となる一般補助が代表的なものであった。つまり、私立大学の補助は、教職員給与や退職金掛け金、研究旅費等運営に不可欠な教育研究に係る経常的経費について支援する「一般補助」と2020年度以降の18歳人口の急激な減少や経済社会の急激な変化を踏まえ、自らの特色を生かして改革に取り組む大学等を重点的に支援する「特別補助」から成り立っている。しかし、文部科学省高等教育局私学部資料(2018)によれば、「教育の質保証や経営力強化に向けたメリハリある配分を実施」と説明されているように、競争的な資源配分の概念が組み入れられてきた。事実、2018年度より、教育の質にかかる客観的指標による増減率が一般補助の算定額に導入されることになった。客観的指標は、17年度の私立大学等改革総合支援事業のタイプ1の(1)「全学的チェック体制」、(2)「カリキュラムマネジメント体制」、「学生の学び保証体制」に係る複数の指標を参照しながら設定されている。つまり、競争的資金配分の仕組みとして2013年から開始された私立大学等改革総合支援事業(2018年度は131億円)で設定された大学改革を促す為の一部項目が共通指標になり、一般補助の資源配分に使用されることになった。
 私立大学等改革総合支援事業を見れば、各大学が予め設定された調査票の項目に自己採点をする形でスタートしたが、19年までの間に複数のタイプの組み換えが実施されてきた。申請する各大学の平均点が上昇することにより、次年度の項目の水準が上昇することが指摘されてきた。そのため、水準が上がりすぎて、対応できなくなって申請できないという大学も一定数あることもあったという。一方で、同じ項目であると水準が上がりすぎることにより、毎年のように評価対象の項目が変化することもあったとされている。実際に、私立大学等改革総合支援事業で求められている部門を設置したものの、「そうした部門が機能しているかどうかはわからない」、「あるいはそうした部門に必要な人材をどう確保できるのか」、「人材の確保にかかる費用をどうしたら良いのか」といった私立大学関係者の声も多々あったと聞いている。すなわち、対応に苦慮している大学も少なくないということであろう。
 さて、国立大学運営費交付金の配分に関連しては、第3期中期目標期間において新たな仕組みが導入された。2019年度から、第4期中期目標期間に向けて、大学の特性を踏まえた客観性の高い評価、すなわち、資源配分を推進し、経営見通しに基づいた改革をすすめるための新たな仕組みが導入されることになった。具体的には、人事給与・施設マネジメント改革、会計マネジメント改革状況等の管理運営にかかる指標により評価が実施され、運営費交付金の配分にも反映されることになった。2020年度からは、教育研究や専門分野別の特性等を踏まえた客観・共通指標の活用が予定されるなど、教育・研究のアウトプットに関する指標が取り入れられ、それらが評価の対象になると予定されている。
 既に、国立大学は3つの重点支援①地域貢献型、②専門分野型、③世界・卓越型という枠組みの下で、いずれの重点支援の枠組みに入るかを選択し、その上で、「ビジョン」「戦略」を構想し、その達成状況を測る「評価指標(KPI)」を設定している。その進捗状況を対象に評価が実施され、運営費交付金の重点支援に反映されている。新たな国立大学運営費交付金の配分の仕組みのなかでの指標4として、運営費交付金等コストあたりTOP10%論文数が提示されている。2019年度は、「運営費交付金等コストあたりトップ10%論文数」という成果指標が重点支援③の世界・卓越型16大学と4大学共同利用機関を対象に試行され、1大学が110%の最高配分率を受け、3大学が105%の増額を受けた。2019年度は、共通の研究論文に関する指標は、重点支援③の大学に対してのみ試行されているが、全ての国立大学法人に本指標が適用されるかどうかは不透明であるにせよ、国立大学法人は本指標を意識せざるを得ないのではないか。
 この研究論文に関するTOP10%論文数の指標は、Scopusというデータベースにより、2016年から18年までの大学別の被引用数の高い論文を示すTOP10%を2016~17年度の運営費交付金等及び科研費等の合計額の平均で除した数値が評価基準であり、その結果をベースに配分するという研究評価枠組みである。
 このデータベースには科学・技術・医学・社会科学・人文科学各分野に関する世界からの5000社以上の出版社の22000誌以上(2018年5月現在)のジャーナルに掲載された論文や学術図書シリーズ603(ボリューム数38000)に関する情報が収録され、日本発行のタイトルは400以上が収録されていると記されているとされている1。
 しかし、分野別でみた場合には、現在、医歯薬生命及び理工系においては、英文論文が標準的である一方、ローカル言語である日本語を主体とするジャーナルが多い人文・社会科学系は、一部の分野を除けば抜け落ちてしまう可能性があることや、人文・社会科学系に多い日本語での学術図書が反映されにくいという問題がある。これらを考えると、2015年に日本での大きなイシューとなり、その後文部科学省も釈明に追われた「国立大学での教員養成系学部・大学院、人文・社会科学系学部・大学院の見直し」という問題に類似した研究評価と分野という問題が浮上する可能性も否めないのではないか。
 では、私立大学にとって、重点支援枠組み③という大学にのみ限定付きではあるが、2019年度から国立大学の資源配分に新たに組み入れられた研究論文数評価という新たな共通指標の影響は何かを考えてみたい。私立大学の資源配分にとって、何らかの形で研究評価という指標が取り入れられるには、多様な私立大学の性格、特徴、ミッションという点から考えると一律的な共通指標の組み入れは難しいかもしれないが、規模やミッション等によって限定付きでの組み入れもあるかもしれず、それに対処する必要があるだろう。次に、私立大学の構成学部は、人文・社会科学系が多い。それゆえ、人文・社会科学の研究に携わる研究者の数ということからも、今後の人文・社会科学系の研究評価の在り方にリーダシップを取って携わっていくこと及び日本というローカル性を組み入れた優れた人文・社会科学の研究をこれまで以上に推進していく可能性も高いのではないかと期待する。

1 高橋昭治「Scopusジャーナル収録方針とジャーナル評価指標CiteScore」2018年9月14日J-STAGEセミナー「ジャーナルのプレゼンス向上に向けて―評価指標の観点から~」を参照。