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アルカディア学報

No.657

自県進学率と私立大学
求められる私学像と違和感

村崎文彦(学校法人村崎学園 企画監・徳島文理大学 准教授)

1.概況

 18歳人口の減少、大学倒産時代、大学進学率の高止まり・短期大学への進学者減少等、私学をとりまく環境は、地方を中心にかなり厳しいものになっていると言わざるをえないことは、私学関係者のみならず国民の知るところとなっていると言っても過言ではない。
 概況として、学校基本調査(H22~R1速報版)のデータを示すと以下のとおりである。
 大学数は778校(国立86・公立95・私立597)から786校(国立86・公立93・私立607)へと微増したものの、短期大学数は395校(公立26・私立369)から326校(公立17・私立309)へと激減している。(学生募集停止中含む)
 学生数(学部学生・院生等含む)は大学288万7414人(国立62万5408・公立14万2523・私立211万9843)から291万8708人(国立60万6317・公立15万8147・私立215万4244)に、学部学生のみに関して言えば255万9191人(国立45万1545・公立12万2970・私立198万4676)から260万9431人(国立43万7401・公立13万8654・私立203万3376)へと学校数同様微増している。
 一方、短期大学生数(専攻科・別科等含む)は15万5273人(公立9128・私立14万6145)から11万3278人(公立5735・私立10万7543)へと2/3程度まで落ち込んでいる。
 学校規模は、学生数5千人以上が在籍している大学は国立86校中50校に対し、公立は93校中6校、私立においては603校中114校である。私立大学においては80%以上の学校が学生数5千人以下であり、1/3強(209校)が学生数1千人以下の大学である。
 18歳人口に関しては、文部科学省『高等教育の将来構想に関する参考資料』(H30.2.21)において、2033年には東京都・沖縄県を除く全ての道府県において減少し、100万人を割り込むと予想され、2065年には70万人を割り込むと予想されている。
 一方で、「少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していく」ことを目的とした「まち・ひと・しごと創生法」および「まち・ひと・しごと創生総合戦略」のもと、「2020年に東京圏の転出入を均衡させる」との政策は十分に効果を得られたとは言い難く、2018年人口移動においては東京圏における転入超過は13万9868人となり、前年に比べ1万4338人増えた。東京圏を除き道府県別に見れば愛知、大阪、福岡、滋賀の4府県が転入超過となり全市町村の7割強が転出超過となった。
 年齢層別に東京圏等「都会」への転入超過となるのは進学・就職の時期(15歳~29歳)であるため、近年重要なファクターとして注目されているのが「自県進学率」である。

2.自県進学率から見える私学の貢献度

 現在、政府の方針として、初等・中等教育では地域との連携・協働や地域への誇りや愛着を育てる教育が推進され、高等教育においても、地元の国公私立大学への進学・地元企業との共同研究等を行い、地元企業へ就職と繋げることで、地方を活性化し、過疎化に歯止めをかけようとしている。
 文部科学省の学校基本調査における出身高校所在地別入学者数(学部学生のみ・上部合計は公立大学含む)を見ると、自県進学率のおよその数値が導き出されると考え、H22以降隔年でまとめたのが図1である。
 この9年間、自県進学率は私立大学が国立大学や全体平均を常に上回っており、ここ数年その差がさらに2ポイントほど広がっている。私立大学の種々の会合等で、学校数や学生数をもとに、「日本の高等教育を担っているのは私学である」とよく耳にするが、地域の活性化や人口減少の歯止めに大いに役立つのも私学であることがわかる。さらに大都市である東京・愛知・京都・大阪・福岡を除くと図2となり、数値はさらに広がる。
 すなわち、地方の私立大学こそが今後の地域活性化の鍵であり、各地方でそれぞれの特色を持つ私学の振興こそが地元進学率を高め、その地域を将来にわたって活性化させる一つの手段であると強く思うのである。

3.個人的考察

 ここまで、私学人として、私学発展・私学振興のために自県進学率をもとに、いかに私立大学が国公立大学よりも地域振興・活性化のために有用であるかを述べてきた。一方で私立大学の経営に携わるものとして、個人的にそれとは異なる見解も有している。
 私の勤務する徳島文理大学は徳島県と香川県の2県にキャンパスを有しており、両県の2033年における18歳人口推計減少率は2016年と比較して、全国平均(119万262人・99万9794人・16%減)を上回り、徳島県(7021人・5531人・21%減)・香川県(9440人・7862人・17%減)となっている。地元に密着し自県進学率を向上させたとしても、元々の18歳人口が各県1万人に満たないような地方では、私学経営が成り立つかどうかが不透明である。具体的に挙げると、18歳人口が1万人以下(2016年)は秋田、福井、山梨、和歌山、鳥取、島根、徳島、香川、高知、佐賀の10県、1万5千人以下(2016年)は上記10県に加えて、青森、岩手、山形、富山、石川、滋賀、奈良、山口、愛媛、長崎、大分、宮崎の計22県と、およそ半数の県において少子化が著しい。また、2033年推計では、上記10県の18歳人口予想合計は6万2726人であり、東京都(11万9302人・2033年推計)のおよそ半分でしかない。
 「地元進学率を高め、地域に密着した大学となる」という言葉の聞こえはいいが、実のところ、18歳人口の激減に直面している地方の私立大学にとっては、「真綿で首を絞められる」ようなものである。約30万人にまで拡大した留学生を獲得すべきだ、という意見もあるかもしれないが、Tokyo,Nagoya,Osaka,Kyoto,Fukuokaの大都市以外の地方都市を知っている留学生は全体の何%であろうか。
 現在本学・徳島文理大学では54.5%が地元徳島・香川の両県から入学している。これは両県における自県私学進学率(徳島県59.8%、香川県58.3%)の平均を下げてはいるが、裏を返せば45.5%もの他県の高校生が本学を評価し、両県に進学していることでもある。18歳の若者たちにとって魅力的に映るであろう大都市ではなく、地方である両県に進学していることは、本学にとって非常に誇らしいことだ。自県以外の出身者との交流は地元学生にとって、文化的背景の違いから生じる考え方の相違及び相互理解が生み出す学術的メリットだけでなく、在学中の学生生活や卒業後のネットワークにおいても非常に有益である。また、地方経済にとって他県からの進学者は大きなメリットであり、2年間から6年間を生まれ育った地域以外で過ごすことは、地方自治体が実施するどんな観光政策よりも大きな広報効果を産み出している。
 地方から東京への進学を抑制すること、一地方内で入学・卒業・就職し留まることの二点を称賛するだけでなく、地方から地方への進学や大都市圏から地方への進学に対しても、目を向けるべきである。
 多様性という言葉が近年のキーワードとなる中で、考え方や文化の異なる若人が集い議論し、自己を研鑽することこそが大学での学びの醍醐味である。
 各私学は、数年前に注目されたG型・L型大学や、近年の「自県進学率向上」等に過度に反応し翻弄されるべきではない。私学を私学たらしめているのは、建学の精神であり、それに賛同し集う学生・教職員である。地元密着型の私学・様々な地方から学生が集う私学など、どのような形の私学があっても、本来はいいはずである。「国家や省庁が求める理想の私立学校」を追い求めることは、「私学が私学を放棄する」に等しい。
 創立者の思いの継承や建学精神の具現化に今一度目を向け、私学としての矜持を持って、各々の理想の私学運営・学校経営に邁進すべきである。