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アルカディア学報

No.652

義務化される中期計画の策定と外部評価 ―福岡工業大学における実践事例

研究協力者  鶴﨑新一郎(学校法人福岡工業大学経営企画室次長)

 はじめに―文教政策と私大経営の視点

 近年、文部科学省から大学改革にまつわる法令の制定、改正や重要政策が矢継ぎ早に出されている。直近の代表的な法律としては、いわゆる高等教育の無償化を目指した「大学等における修学の支援に関する法律」(令和元年5月公布、同2年4月施行予定)、また、一括法である「学校教育法等の一部を改正する法律」(同元年5月公布、同2年4月施行)の中で、認証評価の結果を踏まえて事業に関する中期的な計画等の作成を義務づけた「私立学校法の一部改正」を挙げることができる。
本稿では、「私大ガバナンス・マネジメント改革プロジェクト(リーダー、篠田道夫桜美林大学大学院教授)」の研究対象である大学マネジメントの視点から、右記私立学校法の改正にスポットを当てた事例研究を行うこととした。キーワードは、「中期計画」と「認証評価」である。この分野では、先進事例として既に幾度か取り上げたことのある福岡工業大学を対象とし、その2点を中心に取組みの実践事例について、職員の立場から報告することとしたい。

 1 マスタープラン「21年間」の軌跡と成果

 福岡工業大学では、平成10年4月に「中期計画」である中期経営計画(以下「マスタープラン」あるいは「MP」という)に基づく経営管理システムを構築し運用を始めた。既に21年が経過し、その間第1次MPから第7次MPが策定され、5年計画を3年毎に見直しを行うローリングのスタイルを採っている。平成最後となる31年4月に、第8次マスタープランがキックオフした。4月下旬に開催した方針説明会(キックオフ式)には、大学、短大、附属高校の教職員300人近くが参集し、令和元年の新時代における福岡工業大学の将来像(vision)の共有と目標必達に向けた意あ志を全員で固めたところである。
 このように順調に継続していくこととなるマスタープランではあるが、当初、いかなる背景があり策定されることとなったのか、今一度探ってみたい。
 (1)体系的な将来像の必要性
 平成7年頃に認識された最重要課題としては、当時840人の入学定員に対して、300人もの臨時的入学定員(約35%)を有しており、その文部科学省への返上が差し迫っていたこと、次に、18歳人口急減期を目前にして、福岡工業大学ではその減少幅に比し、志願者減少の幅が大きかったこと、さらに、理事会から財政基盤の強化が求められたこと等が挙げられる。この内外の厳しい環境を教職員が認識しはじめるとともに、特に強い危機感を抱いた教職員の間で、体系的な将来像の必要性が叫ばれるようになったことがマスタープラン策定の背景である。
 (2)戦略的経営組織の構築
 平成8年から9年にかけて議論がスタートし、戦略的経営組織を構築することを目標に、①企業経営の視点導入、つまり、大学「運営」から大学「経営」への転換、②MPに基づく「経営」の推進、具体的には、行動計画(以下「アクションプログラム」あるいは「AP」という)によるMPの実質化、③APと予算の連携を図り、MPを資金面から裏付ける「財政計画」の策定等々が検討の俎上に載せられた。検討にあたっては、理事、大学、短大、附属高校の教員、および職員で構成される「マスタープラン策定委員会」を設置し、ボトムアップの議論を重視した。このMPが理事会と教職員を結ぶツールとなり、理事会と全教職員との意思疎通および情報の共有が図られたことが特徴的といえる。
 MPの実行と成果
 まず、中期計画であるMPをいかに教職員が理解し、各部門が自身のこととして実行するか否かが計画達成の要諦であった。そこで福岡工業大学では、PDCAによる経営管理システムを導入した。具体的には、全ての日常業務の根拠としてAPの推進を掲げた。当初、AP管理用のシートであるAPカードを考案し、教職員の負担とならないように大枠での進捗管理を進めることで、全教職員への浸透を図っていった。そのことが功を奏し、第3次MP(平成16年)の頃には、教職員の間で各種事業や施策が普通に「AP」として定着し、事業等の共有と効率化が図られるようになった。まさに「計画(P)」を立案し、それに基づき「実行(D)」、半期と通期で「(自己)評価(C)」、さらに「改善(A)」へと進んでいく、PDCAサイクルの飽くなき追求であった。
 次に、21年間にわたる経営管理システムの成果について、いくつか挙げてみたい(個別APの成果は割愛する)。一つは、マスタープラン推進の一連の流れは、先に触れたように「MP」「AP」「PDCA」という共通言語となって学内で共有され、教職協働の契機となったこと、もう一つは、マスタープランを頂点とするAPの取組み状況について、「教育・研究活動報告書」を毎年作成し積極的情報公表を行ったことで、各方面から評価を受けるようになり、教職員の自信に繋がったことが挙げられる。現時点で振り返ると、マスタープランは福岡工業大学の組織風土を醸成したと言えるのではないか。その最大の成果は、「教育の質的転換による付加価値向上」等の経営戦略の推進により、志願者が着実に増加し、13年連続増へと向かっていったことである。

 2 マスタープラン策定の基本的考え方

 福岡工業大学におけるマスタープランの策定は、理事長からの諮問に始まる。平成30年6月から議論がスタートした第8次MP[計画期間:令和元年度から同5年度]については、経営理念である"For all the students~すべての学生生徒のために"の下、検討の与件として「学園全体の『質的転換』を図ること」が提示された。また、具体的な問題認識として、①安定的な募集力を発揮できるための方策は十分か、②卒業生の質を担保するための質保証の取組みは進展しているか、③就職後の企業からの評判はどうか、④収支差額の黒字とキャッシュフローの確保は十分か、等々が示された。同時に、第5次中期財政計画[計画期間:MP同様]も策定するように指示があった。
 常務理事を委員長とする「第8次マスタープラン策定委員会」が招集され、成長戦略となる計画策定にあたった。『新たなステージに向けた価値の創出』をテーマに掲げ、また、目標として第7次MPに引き続き、"全国トップクラスの教育拠点"を目指すこととし、その達成に向けた経営戦略について議論を深めた。
マスタープラン策定過程においては、データに基づく戦略プランニングとなることを意識した。すなわち、IR(Institutional Research)機能の充実(①データ収集・分析、②課題抽出、③使用したデータは、MP冊子の巻末「IRデータ集」として掲載)、次に、外部環境としての文教政策の動向把握とフィードバック(「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(中教審答申)」(平成30年11月)等)、さらに、計画機能の高度化(①計画の体系とその進化、②改革・改善のシーズの探究、③教職員の教育研究活動や業務等の羅針盤の役割)を掲げて戦略的に議論を進め、全教職員で創り上げる我々の「マスタープラン」として完成させた。「マスタープラン策定委員会」の運営に関しては、委員会陪席自由、質問・意見開陳可能、MPニュース発行(委員会の議論状況のサマリー発信、前回委員会承認の議事録全文を添付)等を行い、「開かれた」委員会の運営を実践した。

 3 マスタープランの議論と外部評価(認証評価、格付等)の活用

 マスタープラン策定委員会を運営するにあたり最も重視したことは、トップダウンとボトムアップを融合した議論を行うことであった。それは、「経営の意思」と「教学の意思」の相克を超えて、相互理解を図ることである。殊に、高度な政策上の課題である入学者目標、教員定数、組織改編、施設設備投資額等については、議論が白熱することも多く真摯な議論を心掛けた。
 その中で、委員会のテーマに沿った素材を設定する際には、第三者視点の改革・改善シーズの探究に努めた。具体的には、①認証評価に関し、第6次MPでは第Ⅱ期認証評価(平成24年度)実地調査の質問事項(「分科会報告書(案)」からの指摘事項等の抽出)、今次の第8次MPでは点検・評価活動から得られた問題点等、②格付に関しては、ヒアリングの質問事項と回答(「スタッフミーティング(速報)」として発信)、また、③外部アドバイザーの助言(書面にてコメント等)が挙げられる。
次のステップは、外部評価で得た指摘事項等をマスタープラン策定委員会の俎上へ載せることである。委員会進行シナリオの検討時に各経営戦略と指摘事項等の落とし込み方について調整を行うこととした。例えば、第Ⅱ期認証評価においては、大学院課程博士の審査・授与基準の指摘があり、研究科長と改善の方向性の確認を事前に行った。令和元年の今年度は、第Ⅲ期認証評価(10月に実地調査)の受審を迎えるが、その準備過程の「点検・評価報告書」の作成においても、マスタープランの議論との連携を図った。また、格付については、より深い指摘がなされることも多く、実就職率の水準に対する考え方や大学院内部進学者減少への対応策等々多くの指摘を得て、改善に向けた議論と目標設定が行われた。
以上のように福岡工業大学では、マスタープランと認証評価等の外部評価を有機的に連携させた策定プロセスによって、実効性を伴う「中期計画」としてのマスタープランを策定していることが、大きな特徴の一つと言える。
 そのことを可能とする仕組みとして、計画策定部門と評価実施部門の事務局一元化による改革・改善計画策定の効率化を挙げることができる。つまり、①計画策定部門であるマスタープラン策定委員会、②評価実施部門である自己点検・評価委員会、および格付審査プロジェクト(事務局部長会)における担当事務局を法人事務局の「経営企画室」が担っていることである。同一事務局が故に、議案整理を通じた議論自体の効率化を追求することによって、全体最適を目指したマスタープラン策定に寄与しているものと考えられる。

 おわりに

 入学者確保が厳しさを増す中、文部科学省からは、組織再編・統廃合等を見据えた情報発信が行われている。私立大学である以上、その「経営」は自己責任が原則であることは誰しも認識しているところである。ただ、具体的な経営改革となると各大学で温度差があり、具体化に苦心されている大学も多いようである。福岡工業大学の事例を見ると、教職協働の取組み、さらには、教職員の情熱が中期計画であるマスタープランを媒介として、経営理念である"For all the students"に収斂し、成果へと繋がっていると言える。
 今次、私立学校法改正において、認証評価結果を踏まえた事業に関する中期計画の策定が義務づけられることは、大学の管理運営の改善を図ることが主要な目的である。該当する大学においては、法施行日までに全教職員の叡智をもって中期計画を策定し、教育の質保証等重要な政策課題の推進に向けた道筋を付けることが期待される。