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アルカディア学報

No.620

【私立大学における特色ある国際交流事業の取組事例とその課題】
神田外語大学の特色ある国際教育
~効果的な教育システムとそれを機能させる秘訣(下)

研究員  高橋 宏(東京国際大学学長)

学生の国際交流:海外留学制度と外国人留学生受入れ

神田外語大学(KUIS)は、海外の大学等との間で「双方向の学生交流」に力を入れており、特に海外留学制度に工夫を凝らしている。

KUISの海外留学制度における工夫として、幾つかの留学プログラムから学生のニーズや学習状況に合わせて自分に適したプログラムを選択できることにある。留学プログラムとして、大別すると、長期の「海外留学プログラム」(半年~最長1年)と短期の「海外短期研修」(3~6週間)の2つがある。それらの特徴を次にみておこう。

KUIS留学の第1の特徴は、留学目的が英語力の獲得といった語学習得ではなく、英語力の基本は留学前に修得し、海外留学では英語を使って学んでくることである。

第2の特徴は、多様な留学制度として次のような複数のプログラムを用意していることである。1つには、長期留学があり、これは「交換留学」「推薦留学」「その他の留学」の3つからなる。

「交換留学」は交換留学協定校へ留学する制度で、留学先の授業料が全額免除され、KUISの授業料も最大50%まで減免される。

「推薦留学」は国際提携校のうち9校が対象であり、留学先授業料は自己負担が原則であるが、KUISの授業料が最大50%減免される。

「その他の留学」は、私費留学とKUISの留学制度を利用しない留学の2つに分かれる。前者の私費留学は、海外の大学及びKUISの認める高等教育機関へ留学する制度で、留学先の授業料は自己負担の原則だが、やはりKUISの授業料が最大50%減免される。後者は、KUIS制度を利用しない留学であり、参加者は「休学扱い」となるために、卒業までに5年必要となる。

2つには、「海外短期研修」がある。これは春期・夏期休暇を利用したプログラムであり、研修先として海外18の協定校(欧米11大学、アジア7大学)がある。協定校の研修プログラムに参加する形であり、KUISからの引率は行わない。英語以外の他言語を専攻する学生の場合、ほぼ全員が1年修了時の春休みに短期留学(協定校の実施するスタディーツアー等)に参加し、彼らの多くは、その後3年次に1年間の留学をするという流れがある。

実際に留学に参加する学生数は、長期留学に年間150名前後、短期研修(インターンシップ、スタディツアーも含む)は約350名、計500名程度になる。以上の他に、KUISとしての単位を発行しない私費留学には100名前後が参加している。在学者数全体が2017年度で4000名弱であるので、在学生の15%近い学生が毎年留学に参加していることになる。

KUISの留学制度のもう1つの特徴は、長期留学期間中にKUISが行う指導にあり、長期留学者は「留学Web」を使って毎月1度大学宛に報告するシステムを採用している。この留学Web報告では、授業と生活面に関する内容を記述するとともに、その月に使った支出も書かせている。

この報告の目的は、留学者各自の振り返りなどの機会とし、さらにこれから留学へ行く他の学生・後輩たちの参考として活用するものである。

また外国人留学生受け入れについては、交換留学生が別科で1セメスターの学習を行う形をとっている。彼らの中には、アメリカのダートマス大学から受け入れる学生もいて、1~2ヵ月の滞在中に日本語・日本文化を学んでいる。その他の受け入れ留学生の多くは英語圏以外からの出身者であり、日本語学習及び日本文化等の日本研究を行う。

さらに、MULC(7号館)で日本人学生と交流する他、CPJS(Certificate Program in Japan Studies)に参加した別科生と日本人学生が一緒に英語で学習出来るプログラムもある。なお、日本語能力試験N1の留学生は日本人の受ける授業を受講できるようになっている。

さらに、留学には少なからず費用が別途必要となる場合も多い関係で、留学にいけない学生もいる。そうした学生には、SALC、MULC、ELI等での学習や、海外からの留学生との交流が、留学に代わる実践的語学力の修得と現地理解の機会となっている。キャンパス内で聞いた学生の生の声から判断して、こうした制度・設備があるからこそ、留学の代りに活用して力を伸ばしたいという学生の意欲も高いようである。

先端的教育方式の普及と大学教育の価値

国際教育の推進を考えたとき、以上のような教育環境整備・教育人材の活用・教育及び学習のための仕組みと仕掛けの設定等に関し、それぞれの大学が主体的に取り組むことが枢要である。国際教育の環境整備と運用において、各大学がそれぞれ特色を出していくべきものであることはいうまでもない。

しかしKUISが行っている取り組みの1つ、すなわち「自らの先進的な取り組みを他大学へと普及するための活動」の主体的な実践は、極めて重要である。KUIS型国際教育の先端的な活動を、狭く自大学のみに閉じておくのではなく、わが国高等教育界に広め、日本の語学及びコミュニケーション教育、そしてそれに立脚した専門教育の充実を図るため、他大学等と連携して教育研修事業サービスに取り組んでいることは、特筆すべきである。こうした責任を伴う努力を行うところに、常に進歩・改革に繋げる主体的な質保証が実現できる基盤があるものと考える。

広い視点から考察すると、KUISの取り組みは次の重要な「真理」を想起させる。すなわち、大学の真の価値は、受験界における既存のイメージ・ブランド・偏差値だけでは適切に理解することはできないことである。

グローバル社会における高等教育機関として、大学は自らの責任において「大学の真の価値」は何かを社会に訴え続けることがますます重要である。大学の本当の価値とは、学生が在学中に何を修得するか、どのような能力を獲得するか、いかなる人材として人間的な成長を遂げるか、といった学びと成長のプロセスにある。そして、社会において有為な人材としての多様な能力を如何に身に付けるかといった「広義の学修成果」によってこそ評価・判断すべきものである。

こうした大学の真の価値に関する理解を、エビデンスをもって広めていくことがすべての大学人にとって重要である。

KUIS訪問調査から得られた大きな教訓は、大学教育のこうした真の価値は、これからのわが国の大学教育を取り巻く状況を考えたとき、たんに日本国内に限らず、広く全世界を対象として実践することが肝要であることである。

この意味で、わが国高等教育の国際交流の本当の意義は、世界を舞台として日本の大学の価値と役割などを適切に訴えていける教育及び学修・研究を実践し、世界から優れた教職員及び学生を惹き付ける力を大学として養っていくことである。ここにこそ、日本の大学の国際化対応の在るべき姿がある。なぜなら、いかに優れた国際教育を提供し魅力的な教育を行うにせよ、対象を「国内市場」だけに閉じていたのでは、縮小する受験者数を奪い合う「コモンズ(共有地)の悲劇」に陥る恐れが予見されるからである。

理事長及び学長のリーダーシップ

最後になったが、ハード・ソフトの教育システムを整えることに加え、教育に熱意をもって誠心誠意取り組む教職員を牽引していく立場のリーダーシップの重要性を挙げておきたい。

KUISの30周年記念式典(10月18日)において、佐野理事長の強調した次の言葉は、KUISの教育理念として重要であるが、そうした基本理念をもって全学を率いていく強い意思を示すところに、今後のKUISのいっそうの発展が期待される。

すなわち、KUISの教育では「変わらないもの」と「変えていくもの」とをしっかり認識・区別していくことが今後の発展に重要である。「変わらないもの」は、学生の成長のため、本物の教育を志向し、先を見据えて行動することである。「変えていくもの」は、最先端の語学教育に挑戦し続け、教育内容を新しいテクノロジーと融合させ、AR/VR(拡張現実:Augmented Reality/仮想現実:Virtual Reality)の活用等、時代の変化に対応した先端的な教育に取り組んで成果を挙げるべく努めることである。

このように、理事会が率先して教学側と理解の共有・密接な連携を保ちつつ高い目標を志向し、未来を洞察し、果敢に挑戦する意思決定を行い、そのための投資を積極的に行うことが、優れた組織運営の要諦である。このような全学を統括し、国際教育理念の実現に向けた理解の共有の下に関係者が力を結集していく仕組みと働きが実践されていることこそ、「効果的な教育システムとそれを機能させる秘訣」であり、何物にも代え難いKUISの真価である。