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アルカディア学報

No.619

神田外語大学の特色ある国際教育
~効果的な教育システムとそれを機能させる秘訣(上)

研究員  高橋 宏(東京国際大学学長)

本稿は、私学高等教育研究所「私立大学の特色ある国際交流事業の取組事例とその課題」プロジェクトにおいて特色ある優れた国際教育事例研究として神田外語大学(以下、KUIS)に関する訪問調査を基にまとめたものである。ここでは、国際教育の優れたモデルの一つとして、KUISの「良質な」大学教育国際化の特色を報告し、大学教育の国際化の在り方を考える契機としたい。

KUISの目指す国際教育と特徴

一般に、大学における国際教育の在り方として、どのような戦略を検討することが有意義であろうか。私立大学における教育の国際化は、各大学の建学の精神・教育理念・教育課程の目標等に応じて多様なものがあるが、内外の学生受入れの視点及び養成する能力要素の観点等から、幾つかの主要なタイプが考えられる。

例えば、次の①~④が代表的であろう。

  1. 日本人学生を中心に国際人としての能力を国内での教育と留学体験等で養成する。
  2. 日本人学生が主流であるが外国人学生も多く受け入れ、日本語を教授言語とし両者の交流による国際人養成のための教育を通じて、世界に通用する人材を育成する。
  3. 英語を教授言語として日本人であると外国人であるとを問わず、国際コミュニケーション能力・異文化理解力をもった人材を育成する。
  4. 日本での教育を希望する外国人留学生を多数派として受入れ、特色ある教育課程の下でグローバル人材育成の教育を行う。

どのタイプを採用するかは、各大学の戦略によるべきものである。

この観点から、KUISの国際教育戦略は、①の日本人学生の国際化教育タイプに入るものである。すなわち、日本人学生を対象に「国際社会の一員として連携・協働し『世界の平和』に貢献できるグローバル人財」を育成することにある(KUIS資料『原点への深化』より)。この戦略は、建学の理念たる「『言葉は世界をつなぐ平和の礎』をテーマに、世界の架け橋となる人材を育成」するとの教育方針に基づく。

では、KUISの国際教育・国際交流は何を狙いとしているか。それは、次の三つに集約できる。(a)外国語の実践的な活用能力を基盤にしたコミュニケーション力の養成、(b)異文化理解・異文化コミュニケーションができる能力の涵養、(c)わが国の国際社会における存在意義の強化・国益の増進の視点からの外国語教育の推進、である。言い換えると、実践的な言語活用力・コミュニケーション力と異文化理解の修得を目指し、それを高いレベルで実現するために《教育課程及び教育方法》というソフトウェア並びに「自立学習者の育成」を可能とする《ICT技術を一体化した施設・設備》というハードウェアを充実させることを基本としている。

この考え方の背景には、どのような教育理念・目標があるだろうか。それは、新たなグローバル社会で活躍するために必要な能力として、「語学力と真の教養」を修得することが不可欠であり、そのための教育・学習環境を整えることこそ優れた人材育成に必要な課題であるという理念・目標である。

具体的にみると、人材育成のための実践的かつ専門的な学習の仕組みとして、①「語学+α」②「少人数制」③「参加型」学習④「実践的」学びの4つに重点を置いている。

第1の「語学+α」は、真の語学教育には「ことばの学習」に加えて国や社会の背景までも総合的に学ばなければならず、そのため歴史・文化・政治経済などを専門的に学習できる教育課程を設けている。

また専攻によっては英語以外にもう1つの言語を徹底的に学ぶ課程を設けていることも特色である。特に、日本の地政学的な立場及び国益とビジネスの観点から、環太平洋地域の言語が重要になるとの考えに立ち、アジア太平洋地域の言語として韓国語、中国語、スペイン語、ブラジル・ポルトガル語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語の教育を特色としている。

第2の「少人数制」の教育・学習では、コミュニケーション重視の方針から、教員と学生の「距離を」短くし、学生同士も密接な交流・協力が可能となり、教育効果を高めることができる。

第3の「参加型」学習では、自立学習者を育成するための仕組みや仕掛けを設けており、授業の予習・復習を主体的に行い、授業中のディスカッションやプレゼンテーションを活発に実施することで、学習成果の定着と実践的なコミュニケーション力の修得を図る。

第4の「実践的」学びでは、実社会で使える語学力・コミュニケーション力・専門的な実践力や応用力・展開力などの修得に重きを置いており、外国語母語話者やビジネス界等で経験の豊富な人材を教員として多数揃えている。

以上のような特色ある設備・仕組みを整えていることは、効果的な国際教育の実践で重要な条件であると判断できる。しかし、それだけで適切な学修成果を十分に挙げることは、果たして可能であろうか。

充実した教育システムの構築

KUISは以上の目的を実現するため、設備・仕組みを活用するためのシステムや仕掛けを設けていることもきわめて重要である。それは、次のようなものである。

  1. 各言語の母語話者教員による実践的外国語教育・学習の仕組みを授業内でも教室の外でも提供している。
  2. 海外留学での学修を通じて、語学力だけでなく外国語で専門学習を行い、仕事に使える外国語運用能力を養うため、学生の英語力やニーズに対応した留学プログラムを設けている。
  3. KUISに受入れた外国人留学生との様々な交流を通じて学内で外国にいるのと近い学習環境の下で内外の学生が協働学修できる機会を準備している。
  4. 学生が自ら積極的に学ぶ自立学修の仕組みを揃えている。
  5. 卒業後も自ら学ぶ力(Ability to learn how to learn)を養う教育・学修を実践している。
  6. そして、(6)大学での学びと職業選択・キャリアとを適切に結びつけていく指導を行っている。

以上の教育・学修環境を整備する上で重要なことは、学生の学習意欲に応え、学びのモチベーションを更に高めることが不可欠だということである。

そのために、[ⅰ]教育に熱意をもち、実践的な教育を行える日本人及び外国人教員を採用し活躍の場を与えている。[ⅱ]学生の主体的な学びを可能とするものとして、SALC(Self-Access Learning Center)、MULC(Multilingual Communication Center)などの施設・設備を拡充している。[ⅲ]進級要件及び専門必修科目の履修資格等の制度・規程を設け、どの学生もが達成すべき水準を明示し、そのために学生の努力を促すとともに、教職員側も共に努力をしている。[ⅳ]交換留学をする学生に対する授業料減免のような競争的支援制度等による学びのインセンティブの付与の仕掛けを作っている。

以上の取り組みで重視すべきは、KUISの先進性・革新力であり、大学教育の新たな状況に果敢に対応する努力を継続していく実践力である。

こうした教育システムを支える教育施設・設備の充実によって、KUISはアクティブラーナー=課題解決型学修者の育成を具体化しようとしている。

実際、SALCでは、「ラーナーオートノミー(自立学習推進能力)」の獲得を促進する施設としての特徴を活かしている。つまり、真の自立学習者の育成を目的に、学生が自らの学習を振り返り、生涯に亘り主体的に課題をみつけ解決できる人材として育つための多様な学習支援を提供している。またMULCでは、英語以外の専攻言語の学習支援のため、外国語とコミュニケーション学習のための新しい教育施設として外国人の教員・学生と交流し共に学習するための施設と仕組みを設けている。

またELI(English Language Institute)では英語教授法または応用言語学の修士号以上を取得した語学教育のプロフェッショナルが英語教育を推進する仕組みを構築している。ELIに所属する教員数は70名近くにも上ることが特色であり、授業時間外において個人のニーズに合った英語学習のサポートを行う「Academic Support Area」が設置されている。そこでは、スピーキング、ライティング、プレゼンテーションなどのスキルに特化した指導を受けることができる。また、季節ごとに多彩なイベントを開催するなど、文化、歴史等も体験できる機会が充実している。

他にも複数の研究機関を設置して教育研究を充実させるなどハードとソフトを整え、それらを総合して主体性をもった学習者(熱意、誠心誠意、成果につなげる努力を自ら行う学生)の育成を進めている。

(つづく)