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アルカディア学報

No.618

私立大学における特色ある国際交流事業の取組事例とその課題
地方にとってのグローバル化
 ―共愛学園前橋国際大学

研究員 濱名 篤(関西国際大学 理事長・学長)

グローバル化が与える日本社会や大学教育への影響はいうまでもない。しかし、その影響は全国一律ではないし、すべての大学に一様に影響が及ぼされるわけではないだろう。それぞれの大学がおかれている地域性や設置学部・学科にあった形で、自らのディプロマポリシーやカリキュラムポリシーの中でその方針を定め、グローバル化対応をしていくことになる。このような方向性を理解していても、英語教育の充実、海外プログラムの充実、留学生受入などをどのように組み合わせて行っていくのかについて、多くの大学で迷いが生じているのが現実であろう。

そのような状況の中で今回取り上げる共愛学園前橋国際大学にはこうした迷いが感じられない。同大学は文部科学省のグローバル人材育成支援(GGJ)、大学教育再生加速プログラム(AP)、地(知)の拠点大学による地方創生(COC+)、地(知)の拠点整備事業(COC)の4事業全てに採択された全国2大学のうちの一つであり、その教育力の高さは近年注目の的となっている。しかし、国際大学という校名ではあるが、留学生数は25名とわずかである。それ以上に驚かされるのは、学生募集の対象地域をほぼ群馬県内に絞っており、実際に学生の85%が県内から入学し在住している、極めてローカル色の強い大学である。

筆者達が今回訪問調査に伺ったのは、その数多くの教育プログラムの中で、とりわけ短期の海外教育プログラム「ミッショングローバル研修」に注目したからである。派遣期間自体は2週間、訪問先はタイという調査型で、地元を代表する企業サンデンホールディングス株式会社(以下サンデン)とタイアップした課題探求型プログラムである。参加学生は10名程度であるがその密度は濃く、学生の間では"地獄のプログラム"という声すらあるという。

今回参加学生にもインタビューしたが、期間中最初の1週間は、タマサート大学での語学学習と学生との交流による文化研修。2週目の最初の数日は「1デイミッション」がだされる。2、3人ずつの小グループでその課題に取り組み、夕方までに解答をまとめ、夕方にはグループごとに出題した現地の日系企業・事業所関係者の前でプレゼンをしなければならない。実質半日で市内に繰り出し、街頭インタビューや観察をして解答を考え、その上でパワーポイント等の発表ツールにまとめるだけでも大変であるが、実際に現場の関係者からは容赦のない評価やコメントが返されるという。課題例を上げると、「現地のラーメン・レストランに昼食時に若者客を集めるのにどうすればいいか」といった極めて具体的・実用的な課題であり、頭で考えるだけや思いつきだけでは答えられない、もちろん模範解答などはない課題解決学習である。これらが5日間毎日続く。学生達は毎日夕方発表が終わると、遊びに出かけるどころではない。ホテルに戻って翌日に備え、泥のように眠ったという。しかし、これはタイの社会や文化を知るためのウォーミングアップなのである。

最後に、1週間かけての課題になる。パートナー企業であるサンデンは海外にも多くの拠点を持つ群馬県を代表する企業である。課題は、出発前から出されている。「バンコクにどのような飲み物の自販機を置けば売れるか」という課題は、一見簡単そうにもみえるが、飲料の種類を提案するといっただけではなく、機械の機能やプロ―モーションまで含めて提案しなければならない。タイ出発までに与えられた課題というものの、現地に行ってみて最初の1週間を経て、学生達は自分たちの思いつき程度では不十分であることを実感し、自分たちの立てたアイデアをアンケートにして、実際に市内にでてインタビューを試み、データを集め、それを材料に自分たちの提案を準備したという。そして、発表当日、中には移動のバスの車中でまだプレゼン準備のPDFを準備する者もいたという。サンデンの現地事務所の社員達を前にプレゼンが行われ、容赦のない質疑が交わされ、コメントや評価が戻ってくる。

サンデンの役割は大きいが、その一方でサンデンのほしい人材を提供するというわけではなく、サンデン側もインターンシップを直接採用に結びつけているわけではない。サンデンと「地域に貢献できる人材」を一緒に育てるというのがポイントになっている。大森学長の言葉を借りれば、「愛情を持って若手社員のように学生のことを思ってくれるパートナー企業」との関係があればこそという。このプログラムでは、確かにタイムマネジメント力、プレゼンテーション能力、ストレス耐性、チームワーク力などが短期間で鍛えられることは間違いない。参加経験者達に、もう一度参加したいかを尋ねたところ、参加直後は厳しい内容を思い出し、そうは思わなかったが、1年も経つともう一度参加してさらに上を目指したいと思うようになったと述懐していた。参加直後は高揚していても、1年もたつとその経験が風化してしまう経験学習とは密度が違うといえるだろう。

冒頭で述べたように、大学にとってのグローバル化の影響は全国一律ではない。外国人人口比率全国6位の群馬県にとってのグローバル化は東京都とは異なるであろう。ミドルリーダーを育てるという狙いから群馬の地域人材の育成をめざし、地域就職率6割から8割へ(実際に8割を達成している)という目標を掲げている同大学にとっては、「大学のコンセプトに必要だからグローバル、地元に必要なグローバル」という大森学長の言葉には実感がこもっている。年間20以上のプログラムを実施し、短期留学者の比率が全国の大学で2位にランキングされているという同大学の海外研修プログラムの大部分は短期留学である。保護者の費用負担能力も考慮している側面と、1年留学すれば群馬に残らなくなる、つまり東京の企業に出て行ってしまうことも考えているようである。地元就職なら「TOEIC(英語力)」より「交渉する」能力をと、地元企業からは求められることがあるという。短期間でも充実した研修内容で"地獄を見てくる"ことの方が評価されるということらしい。

「グローカル」という概念がよく語られるが、多くはグローバル+ローカルということで、両者は別々のまま足し算するといったケースが多いが、同大学のプログラムではグローバル化もCOC対応(ローカル化)も別々のものではないという認識から、統一したコンセプトで「同じことをやっている」(大森学長)という認識が、最終的に腑に落ちた。"群馬だからのグローカル"をめざして取り組み、群馬県内を学生募集の対象地域とするという同大学ならではの覚悟が伝わってくる。

「地学一体」、すなわち地域の行政、産業、教育機関が"一緒にやりましょう"というコンセプトの実現をめざす、同大学のグローバル化を包含した在り方は、地方中小私大の一つの方向性として大いに学ぶべきところがあるといえよう。

(本稿は私学高等教育研究所のグローバル教育班での実地調査に基づき執筆している)