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アルカディア学報

No.617

私大ガバナンス・マネジメント改革 PT調査報告(終)
明確な経営戦略と確立した経営管理システム
内部質保証機能を重視した運営
 ―福岡工業大学

研究員 増田 貴治(学校法人東邦学園理事・法人事務局長・学長補佐)

日本私立大学協会附置私学高等教育研究所の「私大ガバナンス・マネジメント改革プロジェクト(プロジェクトリーダー:篠田道夫桜美林大学大学院教授)」が実施した、訪問調査実施報告の最終回として、福岡工業大学の事例をご紹介したい

大学の概況

福岡工業大学は、昭和29年設立の福岡高等無線電信学校を源流とし、昭和35年の福岡電子工業短期大学の開設を経て、昭和38年に開設された福岡電波学園電子工業大学に始まる。現在、学生数は4,238名、教員数は141名、職員数は71名(2016年5月1日現在)、3学部9学科を擁する。建学の3つの綱領である「学徒の品性を陶冶し真の国民としての教養を啓培する。」「宇宙の真理を探究しこれを実生活に応用して社会に貢献する。」「人類至高の精神、自由平和信愛を基調として世界に雄飛する人材を育成する。」に示された理念は、科学技術の著しい進歩や社会の変化に応じて適宜その精神が省みられるとともに、常に発展的に継承されてきている。教育理念は、「学問(学問の追及・創造・発展)」「個人(個人としての人間性の涵養)」「社会(社会への主体的な対応)」という切り口から綱領の解釈が試みられ、教育領域の拡張とともに見直しするなど、大学の変化に合わせ適切に設定されている。

組織を機能させる管理運営体制

関係法令に基づいて、管理運営に関する学内の諸規程を整備し、その周知徹底を図るとともに、明文化した規程に基づいて管理運営を行っている。

職員任用規則に学長の採用条件について、「人格高潔、学識ゆたかで、かつ教育行政に識見を有し、適任者であれば、学の内外を問わないものとする。」と規定している。その職務については、組織規則に「大学の校務を掌り、職員を統督する。」と定めており、学長の選考方法については、職員任用規則に、学長の任用は、「常任理事会の推薦に基づき、理事会の議を経て、理事長が決裁する。」と定めている。このような任命制による選任は、平成7年から運用されており、学園を取り巻く環境の変化が激しい時代にあって、学長のリーダーシップへの期待に応え、スピーディな決裁と行動を実現している。

学長を支える研究科長・学部長の選任方法は、同規則に、研究科長・学部長の任用は、「学長が推薦し理事長が決裁する。」と定め、その職務は、組織規則に「学長を補佐し、それぞれ大学院、学部の業務を統括する。」とあるが、実態として各教学組織の代表として、権限内容が明確に付与されており、各々の管理運営の任務にあたっている。

平常の組織運営に関しては、教育研究組織に関する学長の諮問機関(審議・報告)として、大学は全学教授会並びに各学部教授会を、大学院においては合同研究科委員会及び各研究科委員会を設置している。その下に各学科会議および各専攻会議が開催され、審議・報告を行っている。教授会の運営は、教授会規程に則って、各学部及び全学教授会における審議・報告事項を区別している。教授会の前段階での議案の検討組織として、教務、入学試験、学生等、各種委員会が設置されている。各委員会では、教学の部長を委員長とし、各学科から選出された委員による審議・報告が行われ、これらの議題は部科長会を経て各学科会議に報告された後、最終的に教授会にて審議・報告されている。これら意思決定のプロセスが教学における情報共有を図り、教職員の重要なコミュニケーションの機会を担保している。

PDCAサイクルによる内部質保証の推進

中期的にはマスタープラン(MP)、短期的にはアクションプログラム(AP)に基づき計画的な組織運営が図られている。その検証として、毎年度APレビューカードを作成し、教育組織を含む諸問題に関する課題と改善について、問題点を明らかにしながら運営を行えるルーチンが確立されている。すなわち、「マスタープラン(MP)」で示された戦略項目および推進課題について、具体的な年度行動計画「アクションプログラム(AP)」を各学部・学科・研究科、事務局などで策定し、それぞれにPDCAサイクルを機能させて、教育・研究活動などの改善に向けた取り組みを自主的に実行し、成果を上げている。

個々の取り組みについては、『自己点検・評価委員会による点検・評価活動』、および、「マスタープラン(MP)」を核として、「予算委員会」による「特別予算(AP事業)」の審査・評価などを行う『法人全体での点検・評価活動』、という大きな2つのPDCAサイクルに組み込まれ、全体的な評価があらためて行われている。その評価結果を、部科長会、全学教授会などでの報告を通じて、全学へとフィードバックすることで、次年度「アクションプログラム(AP)」策定や、個々のPDCAサイクルの見直しなどにつなげており、内部質保証システムを適切に機能させている。

中期経営目標であるマスタープラン(MP)作成・見直しと、その単年度ごとの推進目標であるアクションプログラム(AP)および予算を連動させて、PDCAサイクルの下に点検・改善を行い、教育研究活動をスパイラルアップしていることに最大の特徴がある。

マネジメントの特徴

福岡工業大学では、法人の全設置校および事務局から選出された委員で構成される全法人規模の委員会で、大学の理念・目的のより良い実現に向けて、「中期経営計画(マスタープラン:MP)」を策定し、全教職員の意見聴取を経て理事会で決定し、これらに基づいて経営・運営を行っている

これらの基本計画のうち、「MP」は現状に五年間程度の将来予測を加えて策定し、3年毎に見直しを行っており、現在は「第7次MP」の実施期間中である。

現状の諸活動や管理運営の改革・改善については、「MP」に基づき策定された「部門別中期運営計画」に重要推進項目および推進方針が示され、それらの改革・改善は、トップダウンもしくはボトムアップの形態での提案に対し、教員役職者と事務局役職者から構成される「運営協議会」での調整と学内での審議を経て、必要な規程等を改定し、それらの規程等に沿って実施される。

さらに、長期的な視野に立ったビジョンについては、現在、学長室、経営企画室を中心に検討を行っている。ラフ案については、随時、常任理事で構成される経営懇談会において中間報告を行い、次期マスタープラン策定委員会の検討素材とする予定で準備が進められている。

専門職の育成を目指すSD

次世代の大学改革を担う事務職員による米国学外研修(Fast Program)を平成21年度から27年度にわたり実施し、更なる能力向上に努めた。米国における大学職員研修(FIT Administration Staff Training Program)は、年齢・職位・所属の異なる3~4名の職員チームを編成し、学術提携校であるカリフォルニア州立大学イーストベイ校を中心に、年2チームずつを2か月単位で派遣し、現地職員との人脈を深め、知見共有を図るという、独自の大学職員能力開発を目指したものである。さらに、平成25年10月から、教職協働(教員2~3人、職員2~4人)による研修プログラムであるLEAD(Leadership of Education & Administration Development Program)をスタートさせ、2週間から1か月の期間で派遣している。

自大学における改善策を具体的な提言として帰国後に発表し、よい提案は直ちに実行に移すこととしており、教職員全体への波及効果も大きく、先駆的な取り組みであろう。

考察

18歳人口が再び減り始める「2018年問題」。大学を取り巻く環境が年々厳しくなる状況で、入学志願者11年連続増加と就職率7年連続上昇を実現させるとともに、12年連続の収支の黒字を達成し財政の安定化を結実している福岡工業大学。この大学のもつ独自の経営管理システムがいかに優れているかは、この結果が証明している。

多くの教職員が経営目標・経営戦略として掲げられた共通目的の達成のために「協働する組織」をいかに作り上げるか。この条件として、まず、マスタープラン(MP)により、全教職員の共通目標が明確化されていること、次に、計画を遂行する組織を整えて各部門へ浸透させるための情報共有(コミュニケーション)の仕組みが確立されていること、最後に、構成員の貢献意欲を確保し、献身的な活動を引き出していることがあげられる。

福岡工業大学では、①PDCAサイクルの実効性、②外部評価、③成果の可視化を特徴とする経営管理の手法に基づき、「全国トップクラスの教育拠点」の形成を目指すことを掲げて挑戦し続けていること、ぶれることなく決定したことを徹底してやりきること、この姿勢が不可能を可能とする、目標必達の大きな原動力であろう。