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アルカディア学報

No.615

私立大学における特色ある国際交流事業の取組事例とその課題
留学生受け入れにおける私立大学の使命と挑戦
―日本経済大学の取り組み

嶋内 佐絵(早稲田大学アジア太平洋研究センター助手)

私立大学における留学生受け入れの拡大と変容

大学における国際化の取り組みが加速するなか、特に留学生の受け入れに関しては、私立大学が重要な役割を果たしている。2016年度の記録では、日本の高等教育機関に在籍する外国人留学生は約17万人であるが、そのうちの4分の3近くの留学生は私立大学で学んでいる。なかでも、「留学生の積極的受入」を掲げる日本経済大学は、その母体である都築学園のグループ校と合算すると、留学生数では日本第1位となる。日本経済大学には、福岡キャンパス、東京渋谷キャンパス、神戸三宮キャンパスと全国3つのキャンパスがあり、東京渋谷キャンパスでは、全学生数の8割を超える1300名ほどの留学生が在籍する。

東京渋谷キャンパスに集まる留学生の様相は、ここ数年で大きく変化した。ベトナムとネパールからの留学生が急増し、今まで大多数だった中国人留学生を抜き、現在最も多いのはベトナムからの留学生である。これは日本の大学に在籍する留学生の国別比率における近年の変化とも呼応している。

質の高い留学生を受け入れるための戦略

東京渋谷キャンパスで学ぶ留学生の大多数は、国内の日本語学校や専門学校からの進学者である。学習意欲が高く、十分な日本語能力を持った学生を受け入れるため、東京渋谷キャンパスの教職員は全国各地の日本語学校を訪問し、また逆に日本語学校からも積極的にキャンパスを訪問してもらう機会を増やすことで、その魅力をアピールし、留学生受け入れを円滑で持続的なものにするための関係づくりを行っているそうだ。

入学者選抜時には、すべての学生に面接を実施し、日本語力と就学・卒業意欲の確認はもちろんのこと、学歴や国内在学校における出席率や学習態度だけでなく、面接時の態度やマナーといった社会的資質を重視し、銀行通帳の写しの提出なども課すことでアルバイトや入金状況を確認するなど、様々な観点から総合的な入学審査を行っている。多くの留学生は日本より経済的発展の遅い地域からの私費留学生であることを考慮し、彼らが就労規定の範囲内でアルバイトをし、学費を稼ぎながら勉学を続けれるよう、他の一般的な私立大学に比べて比較的抑えた学費を設定している。今回行った留学生のインタビューからも、渋谷という魅力的なロケーションで経済や経営を学ぶことが出来ることに加え、アルバイトで自活をしながら大学に通えることも、日本経済大学を選んだ理由の一つであるという声もあげられた。

大学・生活における留学生支援

様々な文化的・社会的背景を持つ留学生が在籍する東京渋谷キャンパスでは、教職員と学生との関係が近く、留学生が無事に卒業できるよう、大学での勉学だけでなく、日常生活から就職活動に至るまで、手厚いサポート体制を構築して来た。まず留学生に対しては、入学前の段階で日本語のプレイスメントテストを行い、入学後は5つのレベル別に分かれた必修クラスで日本語を学ぶ。日本語以外の授業でも、漢字にルビをふる、わかりやすい言葉に言い換える、視覚に訴える、専門用語は単語単位で英語や他言語に言い換えるなど、日本語が学習の障壁にならないように、様々な工夫を行っている。授業によっては、優秀な学生をアシスタントとして配置して授業を行うこともある。

また、各留学生の文化的・社会的背景や、受けて来た教育によって、ノートのとり方や学び方、授業中の就学態度、発言量なども特徴があり、指導や授業中での注意の仕方などにも配慮をしていると言う。留学生と対峙するなかで得て来た様々な経験と知見を生かし、各教員が試行錯誤しつつも工夫して授業を行っていると言う。

さらに、全学年でクラス担任制を採用し、1、2年次では日本人学生と留学生でクラスを分け、週1回の必修である「ゼミ(兼ホームルーム)」の中で、最新の所在情報やアルバイト報告書の提出、ビザ関連の手続き指導、時事問題や都心での生活に潜むリスクに関する周知と情報共有、個別相談なども行っている。欠席が続く学生には、クラスの担任教員だけでなく、学生相談室のカウンセラーが相談に乗るほか、その学生と同じ国出身の事務スタッフが自宅・アルバイト先訪問や母国連絡を行ったり、大学院生が同郷チューターとなって学生の視点で相談に乗ったりするなど、留学生の在学状況をサポートしている。

他にも、興味深い取り組みとして、教職員が協定校連携等で海外に行く際には、アジア各地で「保護者会」という在籍学生の家族を集めた懇親会・連絡会の開催もある。「保護者会」では、大学の近況報告のほか、学生からのメッセージを渡したり、写真を見せたりするなどに加え、特別日本語研修なども同時開催することで、留学生の家族から好評を集めているという。

就職活動に関しても、日本特有の「新卒採用」の仕組みなどを理解してもらうため、ゼミ教員やキャリアサポートセンターなどが連携してサポートを行うほか、留学生の募集を行う企業説明会や個別相談会なども頻繁に行っている。留学生だけでなく、日本人学生に対しても、留学生に囲まれた大学生活を通して、語学だけではなく、様々な国の文化や生活習慣まで知っていることなどをアピールするように、という指導も行っていると言う。日本の産業の中でも、飲食産業、不動産、コンビニやドラッグストアなどの小売店など、外国人相手の機会が多い業種や、海外進出を行っている企業からの求人が増えており、日本社会を知っていて日本語にも堪能な留学生の需要は高く、就職率は98.9%(2017年5月時)と高い。

魅力的な教育カリキュラムと「アジア」重視

東京渋谷キャンパスは渋谷駅から徒歩3分という恵まれた立地に8校舎が点在し、その地理的な魅力も留学生を惹き付けるひとつの要因になっているようだ。東京という国際都市のなかでも渋谷は、常に変わり続ける多層的な街であり、若者文化の発信地でもある。東京渋谷キャンパスの教育カリキュラムでは、「街全体をキャンパス」と位置づけ、渋谷という街の特色を生かした「芸能マネジメント」や「ファッションビジネス」専門のコースに加え、「地域貢献」の講義も用意している。ほかにも総合経営コース、起業・事業継承コース、ITビジネスコースがあるが、近年留学生からの「日本の進んでいる経営・経済を勉強したい」という強い要望を受け、その期待に答える形で留学生を主な対象とした「経営日本語コース」を設立した。日本事情、日本史、経営史や経営組織論と言った日本の文化や社会と深く結びついた授業のほか、ビジネス日本語や文章表現論などの実践的な日本語科目も用意し、留学生が日本について学ぶことのできる機会を増やした。

一方、日本人学生に対しては、「経営英語コース」や「グローバルビジネス特設クラス」(福岡キャンパス)などを用意し、特に英語力の育成に注力している。グローバル特待留学制度を設け、入学試験とは別に英語での面接を行い、優秀な学生は全額免除でイギリス(オックスフォード大学・ケンブリッジ大学)への3週間の語学・文化・経済留学プログラムで学ぶことが可能だ。また、欧米のほか、中国、台湾、タイ、韓国、ベトナムなど、アジア圏の大学を中心に海外の大学16校と協定を結び、現在も交換プログラムの枠を増やしているという。

留学生の圧倒的大多数を占めるのはアジア圏であり、留学生にとって日本は重要な学びの対象である。同時に、これからの日本にとっても、アジアは社会・経済的に重要な地域である。日本経済大学東京渋谷キャンパスでも、集まってきた学生のニーズを反映した「当然の帰結」として、アジアを重視したカリキュラムが組まれているという。キャンパス内には「アジアの図書館」があり、タガログ語やビルマ語といった、日本ではなかなか手に入らない言語の学術書も揃っている。

留学生を受け入れる日本と私立大学の持つ課題と展望

留学生の受け入れに比べ、日本人学生の海外留学が少ないという事実は日本社会全体の課題でもあるが、今回行った留学生のインタビューからは、「日本人学生と打ち解けることの難しさ」や学内での異文化交流における日本人学生の非積極性を示唆するような話もあった。留学生が大多数を占める東京渋谷キャンパスでの授業風景は、留学生が積極的に発言し、時には笑い声も上がる活発なものだった。このような明るさは、日本人の多い一般的な大学での授業ではあまり見られないものだろう。留学生は日本の大学で学び、日本語を学び、日本の社会や人々から何かを学び取ろうとしているが、反対に日本人学生や日本社会は、留学生から何を学ぶことができているのだろうか、ということを考えさせられた。

少子高齢化が進むなか、日本社会にとってすでに留学生の存在はなくてはならない存在である。学生の減少に直面する私立大学が担うのは、未来の日本社会構成員の育成であり、留学生はその重要な一員である。国際化政策と各大学の取り組みのなかで、大学教育の英語化(英語による教育)が進む中、日本経済大学の福岡キャンパスでは日本語で行っている授業を英語でも行い、卒業必要単位の8割までを英語の授業で取れるようにする取り組みも進めている。

一方で、日本語学習の需要も依然として高く、現在日本の大学で学ぶ留学生の大多数は従来の通り日本語で(または日本語を)学んでいる。大学教育における媒介言語としての日本語は、国際化の流れの中で取り除くべき「言語障壁」と見なされる風潮がある一方、日本語で蓄積された特に人文・社会科学系の知見を学ぶことのできる留学生の育成も同時に非常に重要である。その意味でも、私立大学が果たす役割は大きい。

今後、私立大学が、日本語での学問を志す留学生にどのような大学での学びの機会を提供することができるのか。そしてどのような学生を育成し、日本や国際社会に送り出していくことができるのか。入学者の選定から生活支援、教室内でのミクロレベルの工夫に至るまで、日本経済大学東京渋谷キャンパスでの様々な取り組みを参考とすべきことは多い。