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アルカディア学報

No.613

私大ガバナンス・マネジメント改革 PT調査報告⑩
FDを全活動の中軸に据え改革
―一貫した中期総合計画と評価で質向上
―中村学園大学

研究員  篠田 道夫(桜美林大学大学院教授・日本福祉大学学園参与)

中村学園大学の概要

中村学園は、創立者中村ハルによって1954年開校した福岡高等栄養学校を母体とし、1957年短期大学、1959年事業部、1965年に中村学園大学を設立した。
現在、大学には栄養科学部、教育学部、流通科学部の3学部、大学院3研究科、短大部、2つの高校、2つの中学校、2つの幼稚園を擁し、総合学園に発展してきた。2017年度から食品の研究・開発人材の育成を行うフード・マネジメント学科を開設した。大学・短大で4000人強の学生が在学し、建学の精神として、人間教育の根幹、教育実践の基底、教育研究の基本の三本柱を具体的に定め「学生満足度の高い教育」を推進する。

優れた中期総合計画

中村学園大学への私学高等教育研究所の調査は、2007年7月、2012年10月、そして今回2017年3月とほぼ5年スパンで行われてきた。
同学園の積極経営を支える柱は、1998年度からの第1次中期総合計画に始まり、現在、第6次中期総合計画(2015年~2017年)が進行している。計画冊子は約50頁、各学校ごとに教育方針から研究計画、学生支援計画、社会貢献活動、さらに施設計画から財務計画、事務局の課別の業務計画まで総合的、具体的に定めたものとなっている。しかも単なる目標ではなく、それを何時までにやるのか実施年次を明記し、具体的な数値目標を書き込んでいる点に特徴がある。志願者・入学者の年次別獲得目標は一覧表で作成されている。学部別、テーマ別、事務局課室別に、何年度何をやるか簡潔に一覧で見られ、改革課題全体を掴むことで進捗管理や評価にも活用できる点で優れている。
この目標明示の伝統は今日まで一貫している。第6次中期総合計画では重点課題を精選、年次の目標・計画を明記するとともに、志願者、入学者、教育環境整備計画などを数値、または具体的な計画として記載し、財務目標も%で目標数値を設定している。

改革全体を推し進めるFD

学園のミッション「満足度の高い教育」実現の要としてFDを徹底的に重視する。全学FD活動の強化を最重点課題として位置づけ、自己点検・評価委員会をFD委員会に改組、FD推進センター、FD推進委員会、各学部・研究科FD推進委員会等を設置、委員会とセンターの二層構造で体制強化を図ってきた。建学の理念達成の中核はFDであり、それは狭い教育改善、教育力向上に止まらず、学生の育成・成長の全て、入口から出口、三つのポリシー総体、研究活動・社会貢献・管理運営等教職員の活動全体の改善、この教学マネジメント推進の中核がFDだという考え方である。
FD委員会が基本方針、全学計画を策定、FD推進センターやFD推進委員会が各学部・学科FD委員会と連携しながら全学的なFDを主導、授業方法の改善、教育力の向上、授業参観・公開授業の実施、全学教育ワークショップの開催、学生による授業評価などを推進する。また指導主任制度による丁寧な学生支援、学生サポートブックの制作、学生支援センターの設置なども進めてきた。FDの推進と自己点検評価を大学のライフワークと位置づける。この成果として退学率は1%前後と低く、2016年度の管理栄養士国家試験合格者数は全国3位、九州1位、就職率は過去10年95%以上、卒業生比でも80%を超える。毎年約1200校の高校を訪問、2016年は在学者2966人(収容定員2660人)で1.12倍、安定した学生募集を維持しており、面倒見のよい大学ランキングでもトップクラスを保持する。

徹底した計画の到達度評価

中期総合計画の浸透と達成度評価も徹底している。月2回、全教職員を対象にした「朝礼」は特色ある取り組みだ。理事長、学長から毎回交替で大学を巡る動きやそれに対応する経営・教学の考え方、学園・大学の方針が直接教職員に伝えられる。直面する課題の共有と政策の浸透、トップとのコミュニケーションによる改革の推進である。
中期総合計画に基づく基本方針の到達度評価体制も徹底している。計画の進捗状況は事業報告書に記載、HPで公表される。進んだところもあるが、遅れている課題や問題点もオープンにすることで改善に繋げる。教育分野では、学部や研究所、センターの単位で教育改善がどう進んでいるか、事務局は業務分野ごとで、学生受け入れ、就学支援、進路支援、施設設備、社会連携、管理運営、財務などテーマごとに評価される。それらは昨年九七項目あり、重点課題の遂行状況を厳しくチェック・公表することで、緊張感をもって改革を前進させることを狙っている。

人事評価・育成制度の狙い

さらに全教職員が学園のビジョンに基づき教育や業務遂行に当たる上で重要な役割を果たしているものに2000年度から実施の人事考課制度がある。教員評価については2009年から教員総合評価制度として改善・充実を図り、教員個々人の教育研究活動をポイント化、自己点検評価した上で学長評価を行うことで見えにくかった教育研究の成果を可視化することを目指している。
事務職員は企画立案力を重視、1次考課は直属上司と面談、2次考課は事務局長、役職者は理事長が評価する。2009年から目標管理制度を導入、人事評価表に組織目標、個人目標、達成レベルを記載し、達成度を業績評価する。これらを通じて中期総合計画が掲げる諸課題が更に浸透、個々人の目標に連結し教職員自らの改革行動につながっていく。

意思決定システムの特質

同大学の運営体制は、学校教育法改定以前と以後で、その運営の基本骨格には大きな変化はない。もともとトップのリーダーシップが強く、3学部が全く系統の異なる学部にもかかわらず学長直轄の審議会を中心に一体で議論・意思決定され、教務も全学合同教務委員会で行われる。教員の採用、昇任を行う教員選考委員会も全学一本で、個別学部の人事に他学部の委員も加わる。それら全体を動かす中期総合計画や事業計画を最高意思決定機関である理事会が決定し実権を持って動かしている。学長の選考は学長候補者選考委員会の推薦に基づき理事会が決定する。学部長選考は学部長候補者推薦委員会で3名の候補者を学長に推薦、その中から学長が1名を理事会に推薦、決定する。

考察

以上、同学園の改革推進を特徴づけるのは、次の4つ。
1. 一貫した中期総合計画に基づく運営
まず第一に、第1次から第6次に至る一貫した中期総合計画の運営である。早くから近代的な運営システムをとり入れ、しかも当初から数値目標、責任部局やスケジュールにこだわり計画に実効性を持たせてきた。
2. 改革の要をFDとし教育の質を向上
大学改革を推進する中心軸をFDと位置づけ、これを幅広く定義づけることで、法律で定められたFDを全学改革の機関車として機能させることに成功し、入口から出口まで「学生満足度の高い教育」と低い退学率、就職実績など具体的成果を作り出してきた。
3. 徹底した計画の浸透と評価による改革の前進
3点目には厳しい達成度評価。事業報告書を活用することで達成状況を包み隠さず公表し、緊張感をもって改革に取り組む運営を確立した。人事評価・育成制度に目標管理制度も取り入れ、計画課題を自らの教学課題や業務課題として真剣にとらえる気風を作り上げた。
4. トップの強いリーダーシップ
最後にトップのリーダーシップ、幹部集団の団結力である。中村量一理事長の経営手腕、それを支える教職員のひたむきな努力、明確なビジョンを指し示す中期総合計画を一貫して堅持、優れた改革推進・評価システムを構築し、理想の形を追うのでなく現実・実態を踏まえて中村学園独自の改革推進体制を作り上げてきた。この総和こそがこの大学の発展を作りだしているといえる。