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アルカディア学報

No.610

私大ガバナンス・マネジメント改革 PT調査報告:
MI21プロジェクトを中核に大学改革を推進
バランス・スコアカードを用いた点検・評価・改善活動
―明星大学

研究協力者  我妻鉄也(桜美林大学大学院大学アドミニストレーション研究科助手)

日本私立大学協会附置私学高等教育研究所「私大ガバナンス・マネジメント改革プロジェクト」では、私立大学のガバナンス及びマネジメントの現状や課題を明らかにするとともに、2015年度の学校教育法改正に伴うガバナンスやマネジメントの変化に関する調査研究を実施している。本稿では、2016年度に訪問調査を実施した明星大学の取組みについて、報告していきたい。

大学の概況
明星大学の設置母体である学校法人明星学苑の起源は、1923年設立の明星実務学校にまで遡ることができる。
創設者の児玉九十氏は、「体験教育の精神」を掲げ、欧米式の寄宿制教育、宿泊行事、海外研修といったこの時代では斬新な教育を行っていた。
明星大学は、学苑創立40周年記念事業の一環として、1964年に設立された。創設期には、2学部と通信教育部を有していたが、その後、新学部の設置や改組が行われ、現在では、8学部、大学院5研究科、通信教育部、通信制大学院を有する総合大学へと発展を遂げている。
学生数は1万3620名(学部8572名、学部[通信課程]4867名、大学院117名、大学院[通信課程]64名)、教職員数は522名(専任教員314名、専任職員208名)となっている(2016年5月現在)。
明星大学では、「自己実現を目指し社会貢献ができる人の育成」という教育目標(ミッション)と「教育の明星大学~主体的に行動する学生を育て、教育改革をリードする大学~」というビジョンを掲げ、「現代社会に生きるものとして必要不可欠な基本的知識と技能の習得」「体験教育を通して生涯に亘る学習意欲を獲得し、自らの歴史を綴ることができるようにする教育」等からなる「教育内容と教育方法」に基づき、教育研究活動を行っている。創設者が掲げた「体験教育の精神」は、学苑創立90年を経た現在でも脈々と引き継がれており、「自立と体験1」といった学部学科横断型の必修科目や、フィールドワーク、実習、演習、実験といった各学部の教育内容に即した形にて体験教育が具現化されている。

教学・経営改革の取組み
明星大学における教学・経営改革の取組みであるが、その中心となるのは、2010年度から取組んでいる「MI21(Meisei Innovation for the 21st Century)プロジェクト」である。MI21プロジェクトとは、大学のビジョン実現や中期目標達成に向け、全学及び各部局にて策定した戦略目標の「取組推進」「進捗状況の確認」「戦略の見直し」というサイクルからなる点検、評価、改善活動の取組みである。本プロジェクトは、企業における戦略的マネジメントシステムであるバランス・スコアカード(BSC)を用いて、推進されている。
明星大学では、1992年まで志願者数が増加していたが、その後、18歳人口の減少とともに、志願者数が急激に減少する「逆風の時代」を迎えた。このような状況を打破すべく、理事会が中期事業計画を策定するなどの改革に着手したが、当時は大学改革にまでは至らなかった。
このような中、学長のリーダーシップによる教学と経営が一体となった改革に向けた体制を整備するため、2008年度には理事長と学長をリーダーとする改革検討プロジェクトが設置された。また、同時期には、学苑全体で理念・目的・教育目標・人材養成の目的に関する再検討が行われ、上述の大学の教育目標が定められた。改革検討プロジェクトでは、大学が抱える問題点を整理した後、BSCを用いて、大学改革を推進することを決定した。
その後、本プロジェクトにて、全学的な戦略の策定、戦略マップやスコアカードの作成を行い、パイロット組織による試行を経た後、プロジェクトの戦略展開単位(SDU)となる学科が、全学戦略に基づいた学科の戦略を策定し、学科単位での戦略マップとスコアカードを作成した。
戦略マップでは、「ステークホルダー」「財務」「内部プロセス」「学習と成長」というBSCの四つの視点ごとに、ビジョンを達成するための戦略を策定し、成果指標を設定する。
具体的には、「法人及び組織のミッション」「大学またはSDUのビジョン」「ビジョンを達成するための関係性を明確にした戦略」「ロードマップに掲げる各指標」「当該年度の重点事業」を記載する。スコアカードは、戦略マップにて設定された成果指標に関する目標値を明確にし、進捗状況を管理するものであり、成果指標の定義、目標値、目標達成に向けた取組み等を記載する。
全学的な展開を開始した2年目には、中期目標としてロードマップが策定され、「進路決定率90%以上」「志願者数2万人」「離籍率4.0%未満」「科研費獲得額私学50位以内」「事業活動収支差額比率5%以上」という重要指標と目標値が設定された。

MI21プロジェクトの推進とその成果
MI21プロジェクトを推進するに当たり、MI21推進会議などの会議体が設置されている。 MI21推進会議は、2か月から3か月に1回開催されており、中長期事業方針の策定(戦略マップやスコアカードの作成)、全学共通事業に関わる進捗状況の確認、改善活動推進に資する情報共有等を行っている。毎年4月にはMI21推進会議の一環として全教職員を対象とした事業方針説明会が開催され、学長から教職員に対して、年度の事業方針が伝えられている。
プロジェクトの戦略展開単位(SDU)となる各学科の推進体制であるが、学科主任がSDUリーダーとして学科の戦略策定や推進活動についての責任を担っている。
そして、各学科には学長によって任命されたナビゲーターの教職員が数名配置され、SDUリーダーを補佐し、学科の戦略策定や進捗状況の管理、学科での活動のファシリテーションを行う。
このような体制の下で、学科に所属する全ての教員は、SDUリーダーやナビゲーターと協力しながら、改善活動を推進する。
MI21プロジェクトの成果であるが、2015年度の時点で、プロジェクト開始時(2010年度)との比較で、進路決定率の上昇(約15%上昇)、志願者数の拡大(約1.5倍)、離籍率の改善(約1.3%改善)、科研費採択数の倍増、事業活動収支差額比率の改善(事業活動収入の約10%増加)とロードマップに掲げられた全ての項目において、改善している。

改正学校教育法への対応
これまで論じてきたとおり、明星大学では、学校教育法改正以前から、学長のリーダーシップの下で改革が行われていたが、2015年の学校教育法改正への対応については、学則の教授会における審議事項について整理を行い、教授会の役割を明確にするという対応を行った。
以前は、学則にて当該学部が審議する事項が一律に掲げられていたが、学長が意思決定するに当たり、教授会での審議結果を受け参酌するものと、各学部における教育研究に関する事項について審議し学長に報告するものに整理し、学長が決定する事項と教授会が権限を有する事項を明確にした。

考察
以上、明星大学での改革の取組みについて、MI21プロジェクトを中心に見てきたが、同大学では、BSCを用いて、全学的な改革を推進し、設定した指標の全てにおいて改善するという成果を上げている。
また、プロジェクトを通じた教職協働のナビゲーター活動が行われることで、教職協働による活動(例えば、初年次教育の教材作成への職員の関与)が拡大し、教職協働といった風土も醸成されてきたという。
改革を推進する上でBSCを用いたことは極めて有効であるが、成果を生み出すその根底には教職員に危機感が醸成されており、それが改革の原動力となっていることは言うまでもない。