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アルカディア学報

No.604

私大ガバナンス・マネジメント改革 PT調査報告④
中長期戦略プランの共有と合理的な組織運営
リーダーシップによる連帯と協働づくり ―名古屋文理大学

研究員 増田 貴治(学校法人東邦学園理事・法人事務局長・学長補佐)

"小さな組織で、限られたリソース"特にスケールメリットのない小規模大学では、18歳人口が再び減り始める「2018年問題」を目前に、これまで以上に厳しい状況が予想される。人的資源の最適な配分と教職協働による合理的な運営を行なう上で、どこにリソースを集中し、どこのリソースを小さくするのか、中長期的な戦略に基づく大学経営の判断のあり方が問われている。
 この度、日本私立大学協会附置私学高等教育研究所「私大ガバナンス・マネジメント改革プロジェクト(プロジェクトリーダー篠田道夫 桜美林大学大学院教授)」が研究活動の一環として実施した、私立大学のガバナンス及びマネジメントに関する訪問調査において、担当した小規模大学2校の事例から、今回は名古屋文理大学についてご報告したい。

大学の概況
 名古屋文理大学は、滝川学園を設立母体とし、平成11(1999)年に大学を開学した。現在、学生数は963名、教員数は58名、職員数は38名(2016年5月1日現在)、2学部3学科(健康生活学部健康栄養学科・フードビジネス学科、情報メディア学部情報メディア学科)を擁する。立学の精神である「自由と責任を重んじ、学問を通して知識・技術を磨き、健康を増進し、特に品性を高め、正しい歴史観と人生観を培い、世界から信頼される日本人を育成する場」は、教育・研究の基本理念となっている。

改正学校教育法への対応
 平成27年度からの学校教育法の改正に伴い、関連規程の整備を行ったが、学長は法改正の趣旨に沿ったリーダーシップをすでに発揮しており、特に意思決定において大きな影響や変化はないという。以前は、理事長が学長を兼務し、理事長の負担が大きかったが、平成24(2012)年から学長を別に選任したことで、経営(財政)側と教学(予算執行)側との立場が分かれ、学長や教授会の意見もより活発になった。理事長が学長を兼務していた時期の課題を踏まえた現在のガバナンス体制は、経営と教学の役割が明確になり、連携・調整機能が確立されている。
 教学の最終意思決定は、学長及び副学長、学部長等で構成する「学部長・部長会議」で行われ、経営側と教学側との協議の際には理事長や事務職員が出席し、意思疎通が諮られている。事業運営については教授会も理解があり、教職員間での協働関係は良好で、小回りがきく管理運営が行われている。学内理事及び学内評議員を含む学部・学科、部署の部長職以上で構成される「学園会議」では、日常の経営政策のマネジメントと共に理事会の議題整理を行っており、理事会の迅速な意思決定を補完する役割を果たしている。
 「石橋を叩いて渡る」という慎重な姿勢が理事長の方針で学内にも浸透しており、予算統制がしっかり取れていることからも学長のリーダーシップが図られている表れといえよう。

PDCAサイクルによる中長期計画の推進
 伝統ある「食と栄養と情報の大学」として、立学の精神とその具現化である大学の使命・目的を基に、学園の将来像を「名古屋文理大学・同短期大学部ビジョン2012-学園の将来像」(以下、「ビジョン2012」という)として策定している。この「ビジョン2012」における大学の15年間の計画「BSP-15」のうち、平成24(2012)年度から28(2016)年度までの「文理中長期戦略プラン(BSP-15)第1期」が現在実施され、この内容は学園の未来像としてのビジョンを10項目に整理し、わかりやすく教職員に明示している。自己点検評価委員会や学科会議、部課長会議において「BSP-15」の進捗状況を精査して計画の実現を丁寧に進めており、「学生満足感調査」の結果についても、その課題は全教職員が共有し、具体的な企画立案のエビデンスとしている。
 計画を着実に実施し目標を達成するために、年度毎に「事業計画」に反映し、年度末には「事業報告書」により成果を検証している。さらに、翌年度の改善・是正に結びつけるため、自己点検評価委員会等においてPDCAサイクルを組織的に機能させ、計画の着実な遂行を図っている。また、執行案件の評価やフォローアップのため、小規模校にも関わらず、理事長直轄の鑑査室を設置し、ガバナンスの強化に努めている。今後、IR企画課が担っているIR機能をどのように充実・発展させるかを重要課題としている。現在、第2期に向けての戦略プランは理事長および学長のもとで検討されており、計画を実質化するためには、多くの教職員を巻き込んでの第1期計画の丁寧な総括と次期計画立案の策定プロセスが重要になろう。

内部質保証への取組み
 同大学は、教育研究の柱である「食と栄養」を重要な社会貢献事業として捉えており、「地域連携センター」では教職員の協力により一元的に連携事業が管理され、大学の使命である知的・物的資源活用に取り組んでいる。
 また、学園のビジョンのひとつである「ユニバーサルアクセスの大学」を目指している。そのため「高度な知識技術をもった専門家を養成する」という学園のビジョンに謳われている目標を達成し、学力層に幅のある多様な入学者を専門課程の学修に不可欠な基礎学力を身につけさせる必要性から、平成24(2012)年4月に「基礎教育センター」を組織した。ここでは数的処理と日本語力に力を入れ、チェックリストでの検証により能力向上を目指している。専門教育に必要なレベルまで引き上げる取り組みの結果が、ラーニングアウトカムズである高い管理栄養士の合格率や就職率につながっている。
 改善を重ねた学生支援ツール(学生カルテ)の開発や「学生による授業評価アンケート」の分析による授業改善、独自の基礎教育プログラムの構築などは名古屋文理大学の特色であり、この学生一人一人に対する面倒見の良さが際立っている。

マネジメントの特徴
 ガバナンス改革に伴い、学長を支える体制を整備し、以前から運用している副学長制度を見直して、位置づけや役割を明確にした。そして、その副学長が学部長を兼務することで学部との意思疎通を円滑にし、組織連携を強化した。加えて、副学長は、IR委員長を兼務することで、データに裏打ちされた政策立案を可能にしている。その他にも稟議書をオンライン決裁にして決定手続きの合理化や事務の省力化を進めるなど、限られた経営資源を合理的に活用する工夫が随所にある。
 様々な政策の浸透については、毎年夏季休暇期間に学長主導による「夏期拡大FDSD」を開催。全教職員が参加し、1日かけて経営や教学に関する全学的な検討事項を議論する、まさに全学でのベクトル合わせの機会である。「ビジョン2012」に示された全学的な方向性を教職員が共有するため、教育方針や全学科の実情を互いに公開するとともに、他学科の特徴を再確認し、問題点があれば意見交換も行う。学園の抱える課題を教職員全員が共有する場をつくり、そこで他人事ではなく"当事者意識"を醸成する。この恒例の行事が、教職員の主体的行動の素地を固めている。教職員の一体感、すなわち教職協働の組織風土こそが名古屋文理大学の強みの源であり、小規模ならではの特性ともいえよう。
 いずれにおいても、理事長や学長のリーダーシップのもと、小規模の特性を活かした教職協働による合理的な組織運営が、教育活動を活性化し、出口の成果から学生募集へ繋がる好循環を作り出していると考える。 (つづく)