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アルカディア学報

No.599

グローバル・コンピテンシーの育成

研究員 立田 慶裕(神戸学院大学人文学部人文学科教授)

 PISA型学力の展開
 2000年以降、日本は、「国際生徒の学習到達度調査」、通称PISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際調査に参加してきた。この調査は、15歳を対象として読解力と数的リテラシー、科学的リテラシーなどの測定を通じ、OECDがその結果の公表を行う一方、各国がその結果から自国の教育政策をみなおす統計的な資料として活用されてきた。特に日本では、一時、読解力の得点が各国に比べて急速に下がったことから、教育政策の見直しが行われ、いわゆる「PISA型学力」に対応した言語力の向上を各学校段階や教科の指導要領に組み込む取り組みがなされてきた。
 他方、近年高等教育政策の一環として、高大接続の課題がとりあげられ、平成26年の中央教育審議会答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」では、高大接続についての提言がなされた。そこではまず、「高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜は相互に密接に関連し合うものであり、新しい時代にふさわしい高大接続の実現のためには一貫した取組が必要」との観点から、三者の一体的改革への取り組みが目指されている。同時に、「義務教育段階の取組の成果を発展させ、高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜を通じて、『知識・技能』のみならず、『知識・技能を活用して、自ら課題を発見し、その解決に向けて探究し、成果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力』や主体性をもって多様な人々と協働する態度」などの真の学力の育成・評価」への取り組みが目指されている。この課題解決のためには、高等学校での学習内容と大学のカリキュラムの調整、特に入試段階での調整が必要となる。
 他方で、日本の教育政策、特に義務教育や高校教育の学習に影響を及ぼす国際調査としてのPISA型学力は、現代的な課題に対応して年々その内容が変化している。基本的な測定内容が毎回継続的に調査されながらも詳しく分析されるテーマは毎回変化していた。加えて、2009年以降の調査では、「メタ認知」、「デジタル読解力」などの新たな能力が加わっている。「メタ認知」とは、「はっきりした目的を持ってテキストを処理する際の、多岐にわたる適切な戦略を認識することと、この戦略を利用する能力」であり、「デジタル読解力」とは、「コンピュータ使用型の調査の導入で複数のナビゲーション・ツールを利用し、複合型のテキストを横断して、特定のウェブにたどり着き、特定の情報を見つけ出すスキル」である。さらに、ICTを用いるチームによる問題解決能力が加わってきた(立田,2016)。

グローバル・コンピテンシー
 こうした「PISA型学力」の変化の背景には、「OECD教育枠組み2030」で提案されている能力観がある。その枠組みによれば、今後の教育の方向性として、次の4点があげられ、新たに「グローバル・コンピテンシー」が2018年のPISA調査から加わる(OECD,2016)。
 ここで「教養」に付加された「国際」が、どのような理念と実践を意味しているのか、それが具体的にどのような形で行なわれているのかは、各大学によって異なっている。外国語教育の充実と履修の義務化、教授媒介言語としての英語の導入、多様な地域研究の提供、「国際」的なテーマを扱う科目の提供などがその例だが、他にもクールジャパンのように日本の文化を海外に展開し拡大するという意味での「国際」化を志向した教育内容が含まれる場合もある。
 (1)伝統的な学問のカリキュラムの発展は、知識を創造し、21世紀の理解を産むために急いで進められるべきである。
 (2)人間行動を形成するスキル、態度、価値観は、学校や家庭で時にみられる差別的な行動に立ち向かうためにも見直されるべきである。
 (3)現代の学習の本質的な要素は、最高の学び方を考える力にある。
 (4)各学習者は、自律的に行動するコンピテンシーのように、最小限のキー・コンピテンシーを達成するよう努力すべきである。コンピテンシーとは、学習プロセスの反省的アプローチを伴いながら、世界に参加し世界で行動するために、知識やスキル、態度や価値観を状況に応じて活用する力である。グローバル・コンピテンシーもまた、このモデルに基づき正しく構築されていく。
 ①知識を創造するカリキュラムへの変化、②差別的な行動に立ち向かうためのスキルや態度、価値観、③最高の学び方を考える力、④最小限のキー・コンピテンシーに基づき構築されるグローバル・コンピテンシーの4つである。枠組みの土台としての「コンピテンシー」は、3種の知識(学問的、学際的、実践的)、3種のスキル(認知的・メタ認知的、社会的・情動的、身体的・実践的)そして態度や価値観から構成される。
 グローバル・コンピテンシーは次のように定義されている。「グローバルで多文化的な課題を批判的に多様な視点から分析する力であり、自己や他者の知覚や判断、考え方にどのような相違があるかを理解する力であり、人間的な尊厳のために互いに尊敬しながら多様な背景から、オープンで適切かつ効果的な他者との相互作用に関わる力である」
 グローバル・コンピテンシーは、知識と理解、態度の3つの次元から構成され、その基盤には人間的尊厳と文化的多様さの視点がある。
 「知識」とは、グローバルな課題の知識と理解であり、文化間にわたる知識と理解のことである。「個人が、グローバリゼーションや文化間の交流で生じる課題や機会に向かい合うために必要とされる力である。ここで知識とは、個人が所有する情報の総体として定義され、理解とは、意味についての了解や判断として定義される。グローバルな課題についての知識と理解だけでなく、文化間にわたる知識と理解が求められる」。
 「スキル」とは、分析的・批判的思考であり、敬意を持って相応しい状況で効果的に交流する力、柔軟性や共感性を含むものである。「認知的スキルのように相互的な思考から複雑で組織的なパターンを用いる力と共に、特定の目標を達成するための行動的なスキルを伴った行動をも意味する。認知的なスキルとは、複数の言語でコミュニケートする力だけではなく、数的なスキル、他の文化や国々の人々と適切にかつ効果的にコミュニケートする力、他者の考え方や信念、感情を理解する力、多様な視点から世界を理解する力、新たな文脈の中へ自分の思考や感情、行動を調整する力、情報と意味を注意深く考え評価するために批判的に分析し考える力である」。
 「態度」とは、他文化の人へのオープンな姿勢であり、文化的でグローバルな精神や責任を伴う行動である。集団や人、制度、課題や行動への全体的なマインドセットに加え、意見、感情、評価、行動の傾向性が態度として定義される。他文化へのオープンさ、尊敬、グローバルな精神と責任が重要となる。
 OECDはグローバル・コンピテンシーが今後の世代形成に必要との観点に立ち、この力の習得も幼児期から生涯にわたって行われる必要があるという。当然ながら、高校から大学につなぐ学習内容としても、この力の育成が重要になっていくのではないだろうか。

参考文献
 立田慶裕「PISA型読解力とは何か」梶田叡一編『PISA型学力を育てる』金子書房、2016,6-17頁
 OECD "Global Competency for an Inclusive World", 2016, www.oecd.org/pisa/aboutpisa/Global-competency-for-an-inclusive-world.pdf(20160831)