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アルカディア学報

No.585

グラフで見る私立大学の動向と私学振興の課題

主幹  西井 泰彦

はじめに
 私立大学の改革と発展に寄与することが期待されている当研究所の使命を踏まえて、日本の私立大学が置かれた歴史を振り返り、今後の私学振興の課題を再認識したいと考える。

1.大学数の増加(図1)
 近年、18歳人口の一層の減少や私立大学の定員割れの増加などの現象が見られる。私立大学は多く出来過ぎたという意見が出ている。果たしてそうであろうか。
 確かに私立大学の数は増加してきた。戦後間もない1955年度の大学数は全部で228校、うち国立72校、私立122校であった。第2次ベビーブームの影響や進学率の上昇を受けて18歳人口がピークを迎えた1992年には、私立は384校となった。国立は98校、公立は41校であった。これが、直近の2015年度には、私立604校、公立89校、国立86校となった。私立は220校の増加、公立は倍増している。大学数のうち私立の割合は77.5%に達した。短期大学は1992年度に国立39校、公立53校、私立499校であったが、現在では、国立が全廃され、公立が18校となり、私立は328校へと急減した。
 増加した私立大学の3分の2の百数十校は短期大学からの四年制大学への移行や併設である。残りの100校近い新設大学は、医療系、福祉系、看護系などがメインであり、情報系、芸術系、ビジネス系の大学又は大学院大学などとなっている。
 いずれも、時代の転換や社会の変容に応えて改組又は新設された大学であり、新時代に素早くシフトする私学ならではの特性が発揮されたものとみなすことができる。

2.学生数と私学の割合(図2)
 戦後期の大学の新設と既存大学の学部増や定員増によって、大学の学生数も増加してきた。学部及び大学院の学生数の合計の推移を見ると、1955年度には51万人(国立18万人、公立2万人、私立31万人)に過ぎなかった大学の学生数は、2015年度には281万人(国立60万人、公立15万人、私立206万人)となった。国立は3.3倍、公立は5.9倍、私立は6、7倍の大拡張である。
 学生数の増加が特に目立つ時期は、第1次ベビーブーマーが殺到した1966年度前後であり、1980年後半から90年台前半にも増加が続いた。2012年以降は増加から減少に転じた。公立は現在も増加が続いている。
 短期大学では長期的な減少が進んだが、最近の私学の減少幅は低下しており、短期の高等教育機関への需要は継続している。
 これらの結果、私立大学の学生数の割合は60%から74%に上昇した。短期大学は9割を超えている。私立の大学と短期大学が戦後の高等教育の普及を支え、日本経済の発展を担ったことは明白である。今や日本の大学生の4分の3近くが私学に在籍しており、知識基盤社会を担う多様な人材を供給するとともに、次世代の大多数の中間層を育成する役割を担っていることを認識しなければならない。

3.入学定員の増加(図3)
 戦後の大学の入学定員の推移を見ると、1955年度には国公私全体で 11万3000人の入学定員であり、うち私立大学は約半分の5万8000人であった。2015年度には5.2倍の58万9000人となり、うち私立は46万4000人となった。約79%のウエイトを持っている。
 大学の定員が大きく増加した時期は、①1962年度から1968年度にかけての新増設時期、②収容定員の変更が届出制から認可制となる直前の届出が受理された1976年度、③恒常的又は臨時的定員増が認められた1986年度以後、④その継続が進められた1990年度以降の時期であった。
 その後も短大の四大化、大学新設、既存大学の学部増などによって増加してきたが、臨定の段階的削減等により伸び率は低下した。2008年以降は、学部等の新設、定員の増加分と定員の縮小分を相殺すると、各年度とも1%未満の僅かな伸びに止まっている。

4.入学者数の増加(図4)
 学部への入学者は、1955年度には、国立が4万6000人、公立5000人、私立が8万1000人で、私学の割合は61%であった。第1次ベビーブームの影響で1966年度から1975年度頃まで私学を中心に大きな伸びが続いた。その後の横ばいから減少時期を経て1986年から1992年度にかけて2回目の急増となった。この十数年は僅かな増減が続いてきた。2015年度時点では、国立が10万1000人、公立3万1000人、私立が48万6000人となり、入学者総数は61万8000人となっている。1955年度時点と比べると4.7倍、私学は6.0倍となり、私学の割合は79%に拡張した。

5.入学定員充足率の推移(図5)
 学校基本調査による入学者数と全国大学一覧による入学定員を用いて国公私別の入学定員充足率の推移を見ると、次のようになっている。
 国立大学では 年々上昇し100%を超え、2005年度頃をピークに、以後、下降し、近年は104%台で推移している。公立大学は120%前後から110%を下回って107%前後となっているが、最近は再上昇している。
 私立大学の入学定員充足率は大きく下降してきた。最高は、1975年度の184%であった。当時、大都市に所在する私立大学や短期大学では校舎は準備するものの校地を近隣に確保することが困難であった。実態に合わせて定員を増加出来ず、10倍を超える著しい定員超過の大学が一部で見られた。
 1976年度から私立学校振興助成法が施行され、私学助成の法的根拠が確立し、経常費補助が拡充された。同時に、私立大学の入学定員が届出制から認可制に変更になった。その後、18歳人口が減少する中で、私立大学の定員超過率は120%を切る水準までほぼ連続して低下することになった。1992年度を2回目のピークとする急増期に備えて臨時的な定員増が認められ、引き続いて恒常定員化などが進められた。
 私立大学は18歳人口の増減を受けた起伏が特に大きい。1995年頃から再び定員充足率は降下し、2005年度以降は110%を割り込むようになった。2006年度に107.2%となり、はじめて国立大学の定員充足率を下回った。2015年度の私立大学全体の入学定員充足率は105%であり、一部の大手大学の定員超過を適正に抑制すれば、私立大学の定員割れはトータルではなくなる状況にある。

6.国公立の逆転(図6)
 近年の国公私立大学の定員超過率を具に分析すると国立が私立を上回る年度も少なくない(2012年度・2014年度)。公立は最も高くなっている。
 今日、大学教育の質の保証が重視されており、国公私とも定員超過を厳しく抑制すべき時代になっている。国公立大学では税金が多額に投入されており、真に必要な分野の教育研究条件を充実させることが期待されている。公的資金が不足するからといって定員を順守せずに定員超過に依存するようでは、その姿勢が問われる。
 大学間の格差や不平等が見られる状態を放置したままで、定員割れの一部の私立大学を退場させるだけでは問題の解決にはならない。日本の大学全体の教育条件を向上させ、安定的な高等教育の存続の基盤を整備する方策が求められる。
(つづく)