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アルカディア学報

No.576

構想から実績へ

研究員  川嶋太津夫(大阪大学未来戦略機構教授)

 大学設置基準が大綱化され、国の規制緩和の一環として大学設置審査が準則主義に転換されて久しい。
 平成3(1991)年の大学数は、国公私立大学で514大学、そのうち私立大学は378大学であったが、平成26年には、それぞれ781大学、603大学へと増加している。国立大学は法人化に伴う統廃合により、11大学減少したが、公立大学は、53大学、私立大学は225大学、それぞれ増加している。
 しかし、近年、設置申請にあたって構想内容に疑念が示される事例が増え、平成25年には当時の文部科学大臣が設置認可を取り消すと発言し物議を醸したことは記憶に新しい。結局、認可取り消しには至らなかったものの、設置審査の厳格化を文部科学大臣が改めて表明するまでに至っている。
 さらに同年には、設置後わずか10年で某大学が、文部科学大臣から初めて解散命令を受け、廃校に至った例もある。設置審査の厳格化は、少子化に伴う経営上の懸念からでもあるが、その厳格化の根底にあるのは、日本の大学教育の質に対する関係者の危惧に他ならない。
 大綱化に伴い、我が国の質保証の仕組みは事前評価から事後評価へと軸足が移動し、既存の大学の質保証とともに新設大学の構想実現状況の確認は、全大学の受審が義務付けられた七年毎の認証評価に委ねられることとなった。
 しかし、認証評価は7年に1回なので、新設大学の場合、受審するのは設置の7年後となる。そこで、申請時の構想が着実に実現されているかどうかの確認のために完成年度まで設置履行状況等調査も導入されたが、毎年、基準上必要な教員数が不足するなど、問題が多々指摘されているのが現状である。
 私見ではあるが、そもそも、教育機関として永続的に質の高い教育の提供が求められる大学(学部)の設置審査及び認可を、申請大学からの「構想」だけで判断することに無理があるのではないか。我が国の高等教育のあり方を論じる際に米国と並んでベンチマーキングされる英国では、新たな学位授与機関(大学)の設置認可は、構想ではなく「実績」に基づいている。
 そもそも英国の大学は、12世紀にまで遡るオックスフォード大学及びケンブリッジ大学を、いわば「種芋」として、その質を維持するような形で多くの大学(子芋)が発展してきた。
 たとえば、両大学に遅れること数百年後の1832年に第3番目の大学として設置されたとされるダラム大学は、その教員のほとんどを両大学から招聘して発足した。そのため、カレッジ制をはじめとする教育の仕組みは、ほぼ両大学のそれを踏襲しており、英国大学の質保証の重要な部分を占める外部試験官制度もオックスフォード大学の教員によって、この時に始まったとされる。
 このように、新たな大学の質保証には、すでに学位授与の実績を有する大学とその関係者が積極的に関与し、学位の同等性の保証に努めている。
 この考え方は、現在も生きており、英国での新たな大学の設置認可については、次のような手続きが取られている。
 ただし、我が国と異なり、学位授与権と「大学University」という名称の付与の審査基準は異なっている。
 学位授与権の審査は政府から委託を受け、高等教育質保証機関Quality Assurance Agency(QAA)が、3種の学位(Academic Degree)ごとに審査を行う。
 まず、日本の短期大学士や米国の準学士に相当するFoundation Degreeを自前で授与するためには、後期中等教育後の2年間にわたる資格や証明書である全国資格枠組みの「レベル5」相当の教育を過去4年以上連続して提供していることが必要である。
 また、学士や修士などのコースワークを基盤とした学位に関しては(Taught Degrees)、学位授与権(その多くは大学)を有している大学と連携し、4年以上にわたって連続して、その教育プログラムを提供していることが求められる。
 最後に博士を授与するためには、少なくとも30名以上の博士学生の指導を、学位授与権を有する大学と連携して実施した実績が必須である。とくに、後者の2種の学位授与に関しては、学位授与権を有する大学が、申請機関の学位プログラムの質保証に関して責任を有し、また授与される学位も、その大学の名において授与される。
 そして、1度学位授与権が与えられると、公的補助を受けている機関にあっては、その学位授与権は永久に有効だとされる。ただし、継続教育機関(Further Education)と公的補助を受けていない機関、いわゆる私立大学の場合は、六年ごとにQAAによる更新審査が必要である。
 なお、大学という名称は、学位授与権を有する高等教育機関のうち学生数が1000名以上の機関に与えられる。従前は、大学と名乗るためには、4000名以上の学生が前提であったが、この基準の改正により、英国の大学の数は、一気に百数十にまで膨らんだ。
 このように、英国では、すでに学位授与権を有する大学と連携しながら、その連携期間がいわば「仮免許」期間とされ、その大学と同等の質を保持しているという「実績」を評価して学位授与権が認可される。
 別の表現をすれば、一旦、学位授与権が付与されると、その大学自身が、自らの学位プログラムを自由に新設、改廃できるだけでなく、他の高等教育機関の授与する学位の、いわば代理人を務め、その水準を保証する仕組みになっている。
 そのため、英国の多くの大学が、その権限を活用して、近隣の高等教育機関と協定を結び、Top-up courseと呼ばれる二年のFoundation Courseからの編入コースを設置したり、国内外の学位授与権を持たない高等教育機関と連携し、その機関の提供するプログラムの質保証を行ったり、「フランチャイズ」方式といって、学位プログラムをそっくりそのまま輸出したりして、学生数を拡大している。
 また、協定機関からすれば、本校から数年間指導を受け実績を重ねれば、いずれ自らが学位授与権を付与されることになるというメリットもある。それだけ、英国では学位授与権は重大な権限だとみなされている。
 したがって、各大学は、内部質保証の仕組みを構築し、自らの教育の質の保証と学位の水準の維持にも真剣に取り組まざるを得ない。
 我が国の大学設置認可制度においても、今後、申請機関の教育実績を考慮する仕組みに変えていくことが、我が国の大学が授与する学位の国際的信頼を高める一助になるのではないか。そのような工夫が早急に求められる。