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アルカディア学報

No.568

出生率と教育関連事項 ―上―

所長  中原 爽(日本私立大学協会常務理事)

 先般、6月4日に厚生労働省(大臣官房統計情報部人口動態・保健社会統計課)から、「平成25年人口動態統計月報年計(概数)の結果」が公表された。
 結果の平成25年の合計特殊出生率は1.43で前年度の1.41よりも0.02ポイントの増加になり、以前に1.43であった平成8年から、今回の平成25年の1.43になるまで17年間を要している。
 この間、平成17年の1.26の最低値までは、減少傾向が続き、平成18年の1.32からは増加傾向に転じ、今回の1.43に達した経過になる。この増加傾向は、今後も続くものと予想される。これらの経過の概要は【別表1】に記載した。
 人口動態統計月報年計結果の公表による出生率は“期間合計特殊出生率”が用いられ、その概要は次の通りである。
 合計特殊出生率(合計出生率)は、ある年の1年間の女子(人口再生産可能年齢・15~49歳の年齢階層別35個の区分)の年齢別出生率の合計値。年齢別出生率は、各年齢の女子の出生数を同年齢の女子人口数で割った比率。出生数は、合計特殊出生率が35個の年齢別出生率を加えたものなので、15~49歳を乗じて35で割った数値である。
 年齢構成の違いは、実際の年齢構成がどの年齢も人数が同じとした年齢構成とどのくらい違うかを表すもので、高出生率の年齢層にその女子人口が相対的に多くなっている場合は、年齢構成の違いは“1”よりも大きくなる。
 今回公表の都道府県・日本人全国総人口の調査結果は、1億2570万4000人だが、今後、この総人口を可能な限り維持する必要がある。
 統計学的基準では、総人口が一定期間人口増減が生じない静止状態の人口動態を保つ場合を“人口置換水準”としている。この人口置換水準の一定数の人口を保つには、2.07七~2.10の出生率が必要とされ、ある年に生まれた女子が次の世代の出生に関わるには、人口再生産が可能な年齢まで生存する必要があるので、人口置換水準は、出生比率(女児100対男児105)と人口再生産年齢に至る女子生存率に影響されることをアルカディア学報511で述べた。人口置換水準が維持されるならば、総人口の増減のない人口数が概ね保たれる理屈なので、2.07~2.10は全国にかかわる定数であって、都道府県市町村の個別の人口増減を言及するものではない。
 現在まで日本経済が世界で例をみない長期デフレーションに陥り、デフレが15年から20年間くらい持続したとされたが、この15年間とされる場合は1998年から始まって、2013年までの間の計算で、現在もデフレは持続しているが、デフレから脱却する施策を実施した時点をもって15年間とした計算である。
 1990年前後の不動産バブル崩壊時に日本銀行が金融引き締めを続けたために経済不況の長期デフレに陥り、2008年のリーマンショック対応には、外国の中央銀行は自国のマネタリーベース(通貨供給量)の通貨流通量増加を実施して、自国内のマネタリーストック(流通の通貨総量)の増加を図る金融緩和政策を行ったが、日銀だけが円貨の“流通量減少策”を続けたためにドルに対する円の相対的流通量減少から、円の価値が上がる“円高”を招き、一時は70円に達する円高が進んだのは周知の通りである。
 また、当時の日銀がデフレの原因が少子化であると主張したのは誤りであって、逆に少子化の原因が長期デフレであることをアルカディア学報511で述べた。しかし、日本の15間の長期デフレが始まった1998年以前の1975年(昭和50年)から、すでに少子化が始まっているが、これは世界的に社会経済の成熟国家が少子化になる傾向があることに関連するもので、日本の場合、1998年以降に世界唯一の他に例をみない長期デフレ経済が生じた結果、さらなる少子化を増長したことが15年間の実態である。
 この長期デフレ経済の持続と少子化が同時進行した状況から、子どもを“生み育てる”世代の家計経済の恒常的な維持に必要な給与所得は、長期デフレが始まった1997~1998年頃の給与所得者の平均給与の最高値467万円以降、2009年に至る最低値406万円まで給与所得は減り続け、2011年に至っても409万円程度の給与所得の減少であった。また、貯蓄額を可処分所得で割った家計の貯蓄率が世界一であった1976年の23%以降、1997年10%、2005年前後には4%台、2010年2%に激減している。この給与所得の状況は、デフレ経済によって国内雇用の正規雇用が減少し、非正規雇用体系の増加により、安定した給与所得確保ができなくなったことも要因であろう。このため、15年間の長期デフレ経済下にあって、子どもを“生み育てる”ための家計経済の環境が悪化し続けたことは事実としなければならない。
 これらの給与所得問題等については、アルカディア学報530と531で記述したものを引用したが、現在、2014年の平均家計支出は、年間290万円程度と見込まれているが、消費税が8%になったため、家計支出は8万円程度の負担増となるとのことである。
 実際の所得収入によって得られる可処分所得は、物の購買力と子どもの学費や住居賃貸等の支払い能力に関わる所得である。
 このように、デフレ経済が始まったとする1998年時点から、さらに家計の実質所得の減少が進み、2.10に係る夫婦と子ども2人の日々の家庭環境の存続に必要な住居面積確保と幼児から高等教育に至る教育経費支出が困難になった結果、子どもを“生み育てる”世代の更なる少子化を招いたのである。この家庭環境の教育費支出にかかわる政府の施策をみると、先般、政府の教育施策の一環として、義務教育就学前の児童・幼児教育(幼稚園等)の教育経費無償化が計画されている。この政策は、学費の単なる金銭的バラマキ給付ではない政策として期待ができるものと評価されている。
(つづく)