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アルカディア学報

No.558

学修成果の評価をどう活かすのか

研究員  羽田 積男(日本大学文理学部教授)

 高等教育の直面している大きな課題に、「学生の学修成果をどのように評価し、そしてどのように示すのか」があり、これは洋の東西を問わず課題になっているといえよう。OECD諸国では、AHELO(OECD高等教育における学習成果の評価)プログラムなどが進行中であり、アメリカでは多様な評価方法が模索されてきた。またわが国でもすべての認証評価の第2サイクルのなかでその課題は問われている。
 わが国の主要な認証評価機関においては、その問われ方には温度差が感じられるが、いずれの機関も同じベクトル上にあるといってよい。例えば、短期大学基準協会の掲げている評価基準は詳細に問われているように見受けられる。
 多様な大学、多様な学生には、多様な学修成果の評価法があってしかるべきであろう。筆者は、認証評価のための評価員のひとりとしていくつかの大学を訪問して大学の担当者の話を聞き、幾多の資料を読みこなし、また私学高等教育研究所の研究員としてこれらの課題にも取り組んできた。
いま、そうした経験をもとに学修成果評価の動向を振り返ってみると、最近、特に気になってきたことがある。
 それは、わが国の大学において進行している学生の学修成果の評価は、どのように活かされるのだろうかということである。大学個々の学修成果評価の方法の実践は実に貴重なものであり、見守っていかなければならない。なぜなら、それは大学の特性や立ち位置に立脚した内発的な方法の開発が進んでいると見受けるからである。
 ある大学では、世界的な工業製品基準であるISOプログラムを援用して学修成果評価の方法を立ち上げようとしている。ある大学では、大学の立ち位置と地域の産業構造に合わせて学生を育てようとしているが、地方の産業のなかに学生をインターンシップ生として送り出しその成果を検証しようとしている。そのために独自のルーブリックを開発しようと試行を重ねている。ある大学では、アメリカですでに定着しているアメリカ・カレッジ大学協会(AAC&U)のバリュー・ルーブリックを応用しようとしている。またある大学では、世界標準の教育を標榜し、国際的な大学団体のなかで活動している。
 いずれにしても、総じて見れば、わが国の大学も大学の置かれた立ち位置を確認しつつ、その持てる底力を発揮しつつあるように思える。
 アメリカでは、ミネソタ大学とインディアナ大学双方に本拠を持つNILOA(National Institute for Learning Outcomes Assessment)という研究機関があり、学修成果評価に特化した研究所として存在を知られている。インディアナ大学で学生の学修への取り組みを調査するプログラムであるNSSE(National Survey of Student Engagement)を開発し普及させたジョージ・クー氏が、その後のNSSEの広がりと成果を確かめるべく立ち上げた研究所である。ミネソタ大学総長であった共同研究者とともに2008年に研究所を開設した。まだ濫觴期の研究所ではあるがその研究成果には興味深いものがあり、研究成果などはWEB上で公開されている。
 例えば、2010年6月に刊行された研究報告書「地表を探査する―学生の学修成果評価活動について大学のウエブ・サイトは何を示しているか―」という表題が付された報告書は、閲覧できた725大学のホームページを隈なくウェブ・スキャンして学修成果の評価についての情報を集めて分析したものである。この年はNSSEが誕生してほぼ10年が経過し、その成果や学修成果に関する全体像を把握する時期になっていた。
 この研究報告書では、総じて博士課程をもつ大学や公立大学では、学生の学修成果は、間接的調査によって多くなされているという。学士課程だけからなるカレッジや私立大学では、多くが直接的調査によっていることが判明した。
 間接的調査とは、入学時や卒業時に行われるアンケート調査や学生のキャンパスにおける満足度調査などである。これらの間接的なデータから学生の学修への取り組みとその成果を読み取ろうとする方法である。
 直接的調査とは、コンピュータ上で学生に試験を受けさせ、その結果を学修成果評価のために使うものであり、英語や数学あるいは批判的思考力などについての数量的な評価が可能である。
 現在では、こうした全国的な調査や試験に加えて、個別の大学調査、ルーブリック、ティーチング・ポートフォリオや卒業生調査、雇用主調査など多用な調査が実施されている。しかし、多様な方法による学修成果の評価は盛んに実施されてはきたが、その全国的な全貌などは必ずしも明らかでなかったのである。そこで学生の学修成果評価の地表がこうして隈なく探査され、それを鳥瞰図として描いて見せたのが「地表を探査する」の調査研究の成果であった。調査時点ですでに約30パーセントの大学は、先に上げた多用な方法のうち少なくとも2種類の調査を行っているという事実をも示したのであった。
 このことはアメリカの大学の経験が重要な示唆を我々に与えているように思う。大規模大学が中心の博士課程をもつ大学、あるいは公立大学すなわち州立大学では、多くが間接的な調査を行っているということは、その調査が実施可能でありかつ評価が可能ということである。先に示したNSSEなどがその代表的な例であろう。あるいは、カリフォルニア大学から広まったSERU(Student Experience in Research University)などもこれに相当する調査である。大きな大学では、学生生活の実情を把握しておくことが何より重要である。4万人とか5万人の学生の実態と意見を把握することは容易なことではないからである。
 他方、小規模のカレッジや私立の大学では、直接的な調査や試験が実施されている。なにより学生が少数であることは調査であれ試験であれ、その実施は比較的に容易であろう。CLA(Collegiate Learning Assessment)などが使われている。CLAは試験であるからコストはどうしても高くなるが、その結果は学生の学修成果をダイレクトに知らせてくれる利点がある。
 このNILOAの研究活動のような学修成果の評価法やその結果についての研究活動が、わが国においてもいま期待されているように思えてならない。なにもNILOAへの追従を叫んでいるわけではない。個々の大学の取り組みの総体であるわが国の大学の取り組みの全体像がまだまだ見え難いからである。
 FD活動では、全国に横の繋がりができており、また学生FDと称する学生の活動も広がりを見せ始めている。こうした新しい学修成果評価やFD活動を中心とする大学教育の革新についての鳥瞰図が描かれるのが待たれるのである。大学教育は授業だけで成り立っているわけではないが、授業のもたらす学修成果の評価を抜きにしてこの課題を語ることはできないだろう。
 アクティブラーニングや学生の学修への取り組みを重視した授業の重要性が指摘されているが、先にも記したような内発的な大学の取り組みは真に切実であり貴重である。このことがなければ学修成果を問うことも一時の流行に終わってしまいかねない。高卒者の60パーセント近くを擁することになったわが国の大学は、いま取り組みの透明性や交換可能な情報をもつことが求められていよう。
 NILOAが、その創設時から一貫して掲げる標語は、学修成果を使えるようにし、透明性をもたせるというものであった。わが国の認証評価機関にも同じことが求められていよう。
 大学が苦労して得た学修成果の情報や評価も、そのデータがすぐにお蔵入りであってはならないし、また関係者にはオープンであって欲しいと念ずるものである。1日もはやくその「地表」に立ちたいものである。