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アルカディア学報

No.524

大学に対する社会のまなざし  

研究員  杉谷 祐美子(青山学院大学教育人間科学部教育学科准教授)

昨年秋、大学設置認可をめぐる当時の文部科学大臣の発言を引き金として、大学の量的な現状に対して世間の注目が集まったことは記憶に新しい。この時期に実施されたインターネット調査では、大学の数について、約八割が「多い」「どちらかといえば多い」と回答している(『日本経済新聞』2012年11月26日)。また、昨年8月に出された中央教育審議会答申『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~』では、朝日新聞社が実施した世論調査に基づき、国民が学士課程教育の現状に満足していないことを課題の一つとしてとらえている。
 90年代以降、大学改革は教育、研究、管理運営のさまざまな面にわたって進んできた。にもかかわらず、このように大学に対する世間の目は依然として厳しく、またそれを根拠に、大学は今なお「改革」や「転換」を求められている。とかく批判の槍玉に挙げられがちな大学だが、では国民にとって、大学とはどのような存在であるのか。
 筆者は研究代表として、白川優治・千葉大学准教授、小島佐恵子・玉川大学准教授とともに昨年10~11月にかけて、無作為抽出した20歳以上の一般市民を対象に、「大学・大学生・大学政策に関するアンケート調査」を実施した(有効回答数753名、回収率31.3%、独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成「日本社会における大学及び大学生の位置づけと社会的期待に関する歴史的・実証的研究」基盤研究(C))。今回は調査規模の制約もあって、調査対象地域は2県(千葉県、佐賀県)に限定した。大都市近郊にあって県外への進学機会も多く、大学等進学率が平均並み、もしくは下回る地域で、大学への親近性がそれほど強くないと思われる地域である。
 本稿では単純集計の結果、興味深い点を中心に紹介したい。
 第1に、全般的に大学に進学することの効用が認められ、他の項目に比べても同意する比率が高いことである。「日本は学歴社会である」については、77.6%が同意している(「そう思う」+「どちらかというとそう思う」の合計、以下同)。「日本は大学を卒業していないと就職が難しい」は52.9%と半数程度だが、「日本は有名な大学を卒業すれば就職に有利である」は66.5%と、有名大学に対する信頼は大きく揺らいでいない。また、こうした学歴・学校歴の効用にとどまらず、「大学に行くことで得るものは大きい」(68.3%)、「授業に限らず大学で学んだことは、将来役に立つ」(67.7%)と、約7割の回答者は大学で学ぶことによる実質的な恩恵を認識している。その意味では、大学が有する教育効果への期待も少なくないといえる。
 第2に、多くが大学の意義や効用を認めているだけに、その認識は、大学の量的規模に対する見解にも反映されている。注目すべきは、現状の大学の規模について決して否定的な見解が示されているばかりではない点である。大学の規模に関わる項目において、多いか少ないかを尋ねた設問では、「2012年現在、日本には783の大学があること」を多いと思う回答(「多いと思う」+「どちらかというと多いと思う」の合計、以下同)は59.0%であった。ところが、「2012年現在の大学進学率が約50%であること」となると、多いと思う比率は23.3%と半減以下になり、少ないと思う比率のほうが36.2%と上回る結果となっている。つまり、大学の数は多いと思われている反面、大学進学率でみれば高いという実感は稀薄なのである。さらに、「大学に関する国の財政支出が国家予算の2%程度であること」は43.6%が少ないと思っている。これらの設問では、「どちらともいえない」という回答が3~4割みられるが、「大学の学費負担は家計にとって限界に来ている」、「大学は学費を安くして、経済状況にかかわらず進学できるようにするべきだ」を肯定する回答がそれぞれ75.1%、78.0%に上る点から考えても、経済的事情が許せば大学進学ニーズの拡大が見込まれること、また必ずしも進学率の増大を否定的にとらえない国民感情があること、そして進学熱に応えるべく国による財政的支援の強化を求める潜在的欲求があることが垣間見られるのである。
 第3に、とはいえ大学の効用とは裏腹に、残念ながら、大学の教育機能に対する疑念や不信感は根強い。「大学の教育改革は進んでいる」(43.7%)、「大学は学生をきちんと教育している」(41.1%)、「大学生は勉強している」(37.3%)と、いずれの項目も約四割がそう思わない(「そう思わない」+「どちらかというとそう思わない」の合計)と回答している。これらでは、「どちらともいえない」という回答も4割強に達しているため、一概に多くが否定しているとはいいがたいが、「大学生の学力は低下している」(そう思う、72.4%)、「大学生は社会常識やマナーが身についている」(そう思わない、63.4%)、「全ての大学は学生の教育をもっと重視するべきだ」(そう思う、71.6%)などと併せてみれば、大学の教育機能の一層の強化を求めていることは明らかである。
 第4に、しかしながら、こうした回答は大学の現状が十分に理解されないまま、なされている点も否めない。そもそも、回答者の68.8%は大学に「関心がある」層だが、複数回答で尋ねた関心の範囲は、多い順に、「大学生の就職状況・進路選択」(49.9%)、「大学生の学力」(46.9%)、「大学の学費・教育費」(37.8%)、「大学入試の在り方」(30.5%)となっている。いずれも、大学の入口や出口など、本人やその家族に関わる直接的な利害がからむトピックといえる。これに対して、「大学教育の改革」(18.2%)、「大学の研究動向」(17.5%)、「大学経営」(7.0%)は2割に届かない。さらに、近年の大学に関する動向20項目のうち、聞いたことがある言葉を選んでもらったところ、「大学の秋季入学」(76.8%)が最も多く、次いで、「グローバル人材」(42.1%)、「国立大学の法人化」(33.7%)とメディアを賑わす言葉に集中していた。他方、「法科大学院の過剰問題」ですら22.3%、大学教育に大きく関わる「学士課程教育」(16.0%)、「大学の認証評価」(11.5%)、「FD・SD」にいたっては1.0%であり、「どれも聞いたことはない」という回答も6.7%であった。
 詳細な分析は今後行う予定だが、この調査からは、従来の世論調査からは見えてこなかった大学への期待と大学教育に対する不信が国民の中に混在している様子がうかがえる。同時に、重要な大学政策の課題が社会に浸透していないばかりか、ここ20年以上にわたり取り組んできた大学改革の状況についても十分に伝わっていない可能性が示唆されよう。社会における大学・大学生に対する位置づけは、政策課題に対する社会的支持をとりつける上で重要であり、ともすると政策の方向性を左右しかねない。今後、大学と社会の対話を重ね、両者の距離を縮めていく努力がなお一層必要だと考えられる。