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アルカディア学報

No.501

高大接続問題の新たな展開にむけて
「選択のための支援基盤」の創造

研究員  田中 義郎(桜美林大学総長補佐、総合研究機構長、教授)


 今や、「選抜」は機能しているとは言えないが、「選択」は常になされている。“選択のための支援基盤”の整備が急務である。大学入試で、変化すべきもの、日々改善の努力をし続けなければならないものは何か。高等教育機関は、21世紀に、社会に出るすべての若者たちの準備をする装置となる、との認識が必要である。それは、高等教育の社会インフラ化の検討である。
 「中等教育では、多くの若者たちが大学進学か、就職するのか、極めて限定された選択肢の中で育てられている。様々な職業で必要とされる知識や技能の間の関係は、今日、それほどに大きな隔たりがあるわけではない。専門職では、むしろ、相互横断的に似通った能力が期待されることも多い。それ故、彼らの学びは、結果的に似通っており、むしろその関係の繋がりこそが重要である。」と指摘するのは、2011年2月にハーバード大学教育大学院が出した「繁栄への道(Pathways to Prosperity)」と題したプロジェクト報告書である。副題には、「21世紀のために、アメリカの若者たちの教育目標を達成する」と書かれている。いわゆる知識基盤社会人基礎力、つまりGPS(General Purpose Skills)の重要性が指摘されており、それは同時に、21世紀に活躍する大多数の成人に必要とされるスキル(21st Century Skills)である。
 多国籍企業の人事担当者は採用に際して期待する力として、①Read:自分の考えと結びつけながら読む(鵜呑みにしない)ことができる、②Question:自分の考えとの違いに対して質問や疑問を適切に設定することができる、③Analyze:自分の考えと他の考え・視点と比較して分析することができる、④Communicate:比較や分析を通じて行った自分の判断を伝えることができる、を挙げる。
 わが国の大学入学では、現在、年齢人口の半数以上が大学・短大に進学する。その中で、学力試験を経て大学に入学する者は50%台に留まり、推薦・AO入試などの非学力型選抜の割合は43%(私立では50.5%)を超える。また、学力型一般入試を課していても、定員充足できていない大学は、4年制私立大で46%あり、実質的に、無選抜入学の様相を呈している。
 少子化のなかで受験競争の緩和に伴い、競争の弊害を問う声は後退し、いまや学生の学力低下、進学準備不足を憂うる声がむしろ大きい。とはいえ、わが国では未だ、大学受験に対応するカリキュラムの影響を強く受ける高校生は入試の準備はできていても大学教育を受ける準備はできていないと感じる。今や、大学での学びには相応の準備(College Readiness)が必要である。
 また、アメリカのテスト開発機関ETSのエイミー・シュミット博士は、伝統的な学力検査で測れるもの以外の要因(独創力、コミュニケーション力、チームワーク、回復力(困難な状況にもうまく適応出来る力:resilience)、企画・組織力、倫理性や誠実性)が、大学での成功には不可欠である、と言う。“大学全入時代”が現実味を増している中で、こうした発言の意味はますます重要性を増している。〔添付図参照〕そこでは、一つの試験に過剰な重きを置く
High Stakes型入試に依存する選抜型進学は徐々に後退し、成熟した文化的識字力の形成に支えられる教育接続による大学進学が重要性を増し、その場合、個々人の“高みを目指す”を支える多様な高大接続の工夫が、学校教育システムの有効性を後押ししなければならない。例えば、アメリカでは、College BoardのSpring Board(6~12年生対象)やACTのEPAS:Educational Planning and Assessment System(8~12年生対象)等が作られ、4~6年間かけて中等教育から大学教育への有機的接続準備が工夫されている。
 わが国の高大接続問題は、多様化(ダイバーシティ)に対応できる新たなプラットフォームを選択する必要に迫られているのである。それは、入学者の選抜(Selection)から入学有資格者の認定(College Eligibility)に移行することを意味しており、入学有資格者認定指標(College Eligibility Index)の開発と導入が急務である。“入学有資格者認定(College Eligibility)”とは、“大学進学の準備ができている状態”を認定することである。
 近年、わが国でも広がりを見せているインターナショナル・バカロレア(IB)は、「プログラムの教育力」を重視している。IB―Diploma Programme修了は、“大学進学準備ができている状態”を認定している。
 現代教育では、入試を筆頭に多くの試験が開発されている。「どんな試験を作るか?」や「測定精度の追求!」も大切だが、まず、「何に使うか?」の視点が重要である。「その試験が誰にとって、何にとって有益なのか?」が前提とならなければならない。今日、個人、機関を含めて、多様な集団のニーズに応えるには、多様な複数の試験の開発が不可欠である。グローバル化時代とは、多様な価値が花開く時代であり、高等教育への進学率の高まりは、「排除(=Selection)の為の選抜型試験から協創(=Collaboration)の為の入学有資格認定型の学習診断テストへ移行する」ことによって後押しされねばならない。その場合、大変ものがかかっている“The入試”から“いわゆるひとつの学力診断”としてのテストへと現実的に展開すべきである。例えば、韓国の大学入試では、最近、英語に関して、資格試験化を模索しており、既に実験中である。
 すなわち、高大接続の新たなデザインを考えるに当たっては、High Stakes型入試のマイナスの連鎖から抜け出すという視点、が大切なのではないか?“High Stakes”とは、「大変なものがかかっている」という意味である。一般に、テスト実施者である学校や大学がそのようなテストに基づいて行う学生の振り分けや、卒業資格および入学許可の判定等に利用される。一方、「日々の学習診断」のためのテストは、Low Stakes Testと呼ばれる。テスト理論の権威であるコロラド大学のロバート・リン博士等の指摘によれば、「High Stakes Testは、その社会的重要度故に、教師を学力競争に巻き込み、(テストで高得点を上げるための準備に駆り立てるために)、学生たちの実際の学力を誇張しがちである。そして、基礎技能を軽視し、カリキュラムを意図的にテスト内容に傾斜して構成する傾向が生じる。テストの持つ否定的な側面を回避するには、できうる限り、様々な測定ツールが利用されることが求められる。学力診断はもちろん学生のパフォーマンス評価には、判断基準となる複数の指標が必要であり、複数の学習診断テストの継続的利用が有効である。」
 しかし、シュミット博士が語るように、「GPAとテストスコアだけでは、個々の学習者の大学進学適性はわからない。」という現実とどのように向き合うのか?実際、大学生活での成功には社会での成功と同様に多様な要素が含まれている。Low Stakes Testを活用すれば、学習活動がむしろ活発化するのではないか?とも思える。少なくとも、Low Stakes Testは、教授活動に不可欠な効果的なフィードバックによって、選択と決定を可能にする。さらに、様々なLow Stakes TestやGPA等の学習成果情報の組み合わせによる有資格者認定指標(Eligibility Index)を導入することで、High Stakes Testの過度の弊害を調整することが可能となるのではないか?
 「複数のLow Stakesテスト+α(学力外諸要因)>一つのHigh Stakesテスト」という式が成り立つことができるはずである。多様な集団に応じて、複数のLow Stakesテストの開発と実施。大学入学有資格者認定指標(College Eligibility Index)の開発と採用。カレッジレディネス(College Readiness)の形成プログラムの開発と実施。グローバル化時代のプラットフォームの形成を念頭に置きつつ、高大接続の未来を具体的にシミュレーションすべき時であり、スピードが求められる。