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アルカディア学報

No.493

国大法人の財務と経営の課題 財務担当理事アンケート調査の結果

研究員 丸山文裕(広島大学・高等教育研究開発センター教授)


 国立大学財務・経営センター研究部では、2004年の法人化によって、国立大学の財務経営が、どのような影響を受けたかについて、法人化前から継続的に調査してきた。過去の調査結果については、当欄でも紹介したことがある(2010年8月)。
 法人化の影響については新聞社、関係団体なども学長へのアンケート調査を行っている。それらは法人化直後に行われ、いずれも単発的なものである。当研究部の調査は、数年にわたり、全国立大学を対象としたアンケート調査だけでも四回を数える。いわば定点観測であり、単発調査とは異なり、国立大学の動態をより明らかにすると思われる。そしてその結果は、研究者、文部科学省、マスコミにもしばしば引用されてきた。
 最近では2011年12月に、全国立大学法人の財務担当理事および財務担当幹部職員へアンケート調査を実施した。回答率はいずれも100%である。今回の調査目的は、第二期中期目標計画期の各国立大学法人の財務と経営についての状況と課題の把握である。ここでは調査結果の一部を紹介したい。
一、法人制度および大学の課題
 これまでの当研究部のアンケート調査から、さまざまな財務経営関連の課題が明らかにされてきた。多くの財務および施設担当理事は、研究施設設備費の不足や施設の老朽化への対処が、自法人の大きな課題と指摘してきた。また運営費交付金の毎年の削減を嘆く理事も多い。そして剰余金の取り扱いが、自由度が少なく、使い勝手が悪いという意見も多かった。
 教学面では、教員の教育研究時間の減少を危惧する学長も少なからずいた。法人化後の予算制度、人事制度の変更に伴う、職員の業務負担の増加は、法人化直後ばかりでなく、その後も継続的に理事から指摘されている。小規模国立大学、地方大学の学長の中には、経営資源の大学間格差を指摘することもあった。
 中期目標計画期間終了時の評価制度についての意見も多く出された。そこでは、自己点検評価書作成にかかる教職員の負担増加、評価の公平性や透明性への不安が表明された。現行制度では、すべての国立大学法人の中期目標計画期間が同一であり、評価も同時になされる。公平性を確保する上では、この制度が有効であるかもしれない。86大学が一斉に六年ごとに評価を受け、次期に向けて、新たな方向を向くことになる。
 しかし大学特性ごと、あるいは地域ブロックごとに、目標計画期間を分けて、それぞれ評価を行う方法もある。このほうが、リスクが分散されて、スムースな制度全体の方向転換ができ、大学の多様化や個性化にも貢献するように思われる。
 さて今回の調査結果であるが、概ねこれまでの調査で指摘されたことが確認できた。しかし問題の深刻さが、より増したように思われる。多くの財務担当理事によると、施設の維持管理、職員の業務負担が、「極めて大きな問題」であるとしている。そして研究、学部教育、大学院教育、学生支援が「ある程度問題」としている。建物・施設の維持については、長期的な計画を立て、目的積立金によって維持補修するとの回答が多い。
二、運営費交付金の削減
 運営費交付金の削減が、各国立大学で悩みの種となっている。調査では、減額への対応を回答してもらった。2011年12月の時点で、2012年度予算案に変化を織り込んだ一定の案を作成済みとの回答は、10.5%である。また中期的な財政計画を作成済みとの回答は、5.8%、各部局での対応策についても、一定の案を作成済みとの回答は5.8%である。多くの大学で運営費交付金の減額について、具体的な作業が進んでないことが判明した。
 交付金の削減に対する補完について、企業や個人からの寄付金の増加、間接経費の増額、入学者数の拡大によって、独自収入を増加させようとしているとの回答が寄せられた。
 しかし授業料の値上げについては、いずれの大学も否定的である。回答した理事が、安価で良質な教育機会を提供するのが、国立大学の使命であると考えていると思われる。アメリカの州立大学では、州交付金の削減に対して多くの州で、州立大学授業料の値上げが行われた。いまのところ日本ではこのような事態は起こらないようである。しかしさらなる削減が続くと、国立大学法人は、安価な高等教育機会の提供か、高等教育の質保証かの問題に直面せざるをえないであろう。
 運営費交付金の削減に対して、各国立大学は経費削減に努力している。その手段について回答してもらった。管理的経費を一律削減しているのは、26.7%である。部局への一律削減は17.4%である。教育経費の削減よりも、研究経費を削減する大学が相対的に多い。約3割の大学で、退職教員や職員の後任人事抑制を行っている。非常勤教員や職員の削減は、1割強とこれについては少ない。教育研究費削減よりも人員削減の傾向が強いことが明らかとなった。
 ところで、国立大学財務・経営センターでは、第一期中期目標計画期間の法人全体の財務データの概要を公表している。それによると人件費率は減少、教育経費率は上昇、研究経費率も上昇、学生一人当たり教育経費は上昇、教員一人当たり研究経費は上昇している。これら指標に限っては、経営が効率化され、教育研究が活性化されたと解釈できる。国立大学が、財政政策と高等教育政策の双方を満たす努力をしたと解釈できる。しかし教員一人当たり学生数は上昇しており、この点での教育研究の影響が気がかりである。アンケート調査は、財務データ概要と整合した結果を示している。
三、国立大学の経営
 18歳人口は1992年の205万人から約4割減少した。経営危機と言われながら閉校する私立大学が少ないのは、私学の経営努力によるところが大きい。私学経営判断は、多岐にわたる。毎年の授業料水準を決定し、ほとんどの私学で、学部別授業料を導入している。また入学者数を決定しているが、これは定員と実員の双方に及ぶ。さらに学部学科の構成を見直し、近年では初等中等学校教員養成、薬学、看護等の学部学科を新設し、他方短大、家政学部、文学部等を改組している。さらに基本金組み入れ額の決定をし、次年度繰越額を定めている。また教職員の給与水準、人件費の決定をする。教育課程と施設の中長期計画を立て、それを達成するため、基金積み立て、民間から借入れによって資金調達を行う。これらさまざまな経営判断、決定を行っていまの私学が成り立っている。
 国立大学法人は、独立した経営体といわれるが、私学のような経営決定を自らすることはできない。今回のアンケート調査では、国立大学の経営の自由度への不満が表明された。
 運営費交付金については、かつてのアンケート調査で表明された増額要求が影をひそめた。社会保障費や震災復興など政府財政が、このような逼迫した状況であれば、いたしかたないであろう。しかし交付金が削減されるのは認めるとしても、より柔軟な使用が要望された。例えば単年度ではなく、複数年度の交付金として配賦され、それを自由に執行可能とする制度に変えるような意見が出されている。
 同様に目的積立金繰り越しの自由度拡大も、主張されている。その場合「経営努力認定」手続きの簡素化が必要としている。また施設整備費補助金の補助金適正化法による、使い勝手の悪さを指摘し、この規制緩和を求めることも主張された。
 最後にご多忙中、アンケートに回答してくださった方々にこの場を借りてお礼申し上げたい。