加盟大学専用サイト

アルカディア学報

No.492

認証評価機関の整備の方向性を問う 「設置者別」をどう考えるか

主幹  瀧澤博三(帝京科学大学顧問)


全国的な評価体制の考え方
 認証評価を実施する全国的な体制をどのような考え方で構築するか。このことは認証評価制度の目的、性格とも関連し、制度発足に際してまず方針を定めなければならない重要なことであるにもかかわらず、これまで余り真剣な検討がなされた経緯はないように思われる。強いて挙げれば、この制度の創設を提言した平成14年8月の中教審答申「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築」であるが、ここで実施体制に関して提言していることは、「様々な第三者評価機関がそれぞれの特色を生かして評価を実施することにより、大学がその活動に応じて多元的な評価を受けられるようにする」ということぐらいである。これは言うまでもなく、規制改革を主導した市場主義の思想に基づくものであり、大学評価の質を高め維持するためには市場メカニズムが適切に機能しうるように、評価事業への参入の自由と評価機関選択の自由を保証する必要がある、という考えが基本になっている。
 評価機関整備の方針としては、このように統一的な計画のない市場任せのシステムだったといえるが、その結果がどうだったかというと、大学、短大に関して四つの機関別の評価機関―大学評価・学位授与機構(授与機構)、大学基準協会(基準協会)、日本高等教育評価機構(評価機構)、短期大学基準協会(短大基準協会)が置かれ、国・公・私の大学、短大が自由に選択できることになっている。そして各大学が自由に評価機関の選択をした結果は、少数の例外を除いて、国立は授与機構、公立は授与機構か基準協会、私立は基準協会か評価機構、というのが実態である。
 ところで、ここへ来て一つの新しい動きが起こっている。行政刷新会議の「事業仕分け」の結果等を受け、「民間で実施できることは民間で」という規制改革の原則に沿って、授与機構による認証評価の事業を廃止する方向が政府の方針として決められたことである。約半数の大学が授与機構の認証評価を受けてきた公立大学としては何らかの対応を図らなければならず、公立大学協会で議論が進んでいるようである。政府においても認証評価制度の抜本的改革の検討を進めようとしている折でもあり、大学ポートレートの構想の進展や法人評価制度との一体性をという議論等も踏まえ、公立大学の特性を生かした「新たな認証評価制度」の検討を始めると聞いている。
 建前としての市場主義的体制と実態としての設置者別体制
 認証評価制度は規制改革政策の強い影響の下で策定された結果として、前記のような市場主義の観念的な理論に基づいた評価体制が採られたが、結果的には設置者別の色彩の濃い実態になった。公立大学の特性を生かした「新たな認証評価制度」が公立大学協会の主導で生まれるとすればこの色彩はいっそう鮮明になる。こういう実態をどう考えるかは今後の認証評価制度の発展に大きな影響を及ぼす問題であり、この際明確にしておくべき事柄だと思う。
 前述の中教審答申が質保証の新たなシステムとして「様々な評価機関がそれぞれの特色を生かし」と構想したとき、それがどのような「特色」を想定し、期待していたのかは当初から全く曖昧であった。市場はこれに「設置者別」という一つの回答を示したことになる。これをどう評価するのか。まだ関係者からの議論はあまり出されていないが、やはり賛否両論があるように思う。
 まず、否定的ないし懐疑的見方からすれば、設置者別の評価体制では評価の客観性、公平性が保たれ難いと考えるようである。仲間内の評価であり、一種のインサイダー評価と見られるのだろうか。一方、国・公・私立では大学としての存在理由もミッションも異なり、教育研究活動を対象とする分野別評価ならともかく、管理運営、財務等も含め大学丸ごとを対象とする機関別評価では、評価の視点も大きく異なり、同一のシステムで評価することには問題も多かろう。「大学の特色を生かす多元的な評価を」というなら、まず国・公・私立それぞれの特色を生かせるよう設置者別を考えるのはごく自然なことではないだろうか。各大学の選択の結果はそのことを結論的に示しているものといえる。
設置者別の問題点
 認証評価という事業、特に機関別評価は、設置者別を単位として評価システムを設計することが自然であり合理的でもある。このことはすでに実態が示していると考えたい。残された問題として、評価の客観性・公平性とクローズドシステムの可否について簡単に触れたい。ここで「設置者別」というのは制度論ではなく実態である。クローズドな評価システムは現在、制度としては認められていない。
 米国のアクレディテーションをモデルとした認証評価については、どの評価機関とも「ボランタリズムとピアーレビュー」を基本理念として掲げ、その性格を「大学コミュニティーとしての相互支援」と位置付けている。大学の評価という事業を大学社会の習慣、文化として定着させるためには、これを大学及び大学団体の自主的、自律的活動として制度設計することが不可欠だと認識したからに他ならない。このような自主的な性格の制度を創設しようとする時に大事なことは、性急に成果を求めるのではなく、年月をかけて育てるというスタンスを持ち続けることだ。かつて、自己点検・評価が制度として取り入れられた時、行革的な視点から性急に成果が問われた結果、効率性を重視し公的な規制色の強い評価システムに変質するかに見えた時期があった。しかし、認証評価の第一期を終えての見直しにおいて、自己点検・評価が大学評価の基盤として重要であることが広く再認識されたことは幸いであった。
 設置者別の評価体制に客観性・中立性が期待できるかどうかは、今議論すべきではなく、客観性・中立性を維持するためには何が必要かを議論すべきである。大学支援団体の役割への期待が大きくなっている今日、評価に関わる団体は、大学教育の質保証に責任を持つ中核的組織として、自主性・自律性とともに、自己責任としての公正性、誠実性の確立を最大の責務としなければならないのは当然であろう。
 もう一つの課題は、評価対象に設置者別のクローズドなシステムを導入することの可否である。今後質保証の重要性が高まるにつれて、単発的な評価を数年おきに繰り返すだけでなく、評価機関と大学との間には、評価後のアフターケアを含め、支援とコミュニケーションの継続的な関係を持つことが求められるようになろう。すでに米国のアクレディテーションでもこうした傾向が顕著なようである。また、評価の充実と定着のためには、大学は単に受け身の関係でなく、継続的な会員等として評価機関の運営に参画することも検討する必要があろう。
 市場原理を唯一の価値とし、評価事業には株式会社も参入させるべきだとした規制改革の提言には経済の視点が優先し、教育研究の視点は見事に欠落していた。認証評価制度の改善のためには、いまこれを取り戻すことが急務であろう。
 
 【お詫び】前号のアルカディア学報(491)文中の「国立大学の独立行政法人化」は「国立大学の法人化」とした方が適切でした。