加盟大学専用サイト

アルカディア学報

No.448

学生が「主役」のアメリカの大学注目されるアクティブアクションの一例

客員研究員 土持ゲーリー法一(帝京大学高等教育開発センター長・教授、ファカルティ・ディベロッパー)

 インディアナ大学を本拠地とする「スチューデント・エンゲージメント全国調査」(National Survey for Student Engagement,NSSE)の影響もあり、学生の大学への関与の度合いで教育の質を評価する方法が注目されている(詳細は、拙著『ポートフォリオが日本の大学を変える』東信堂、2011年を参照)。カナダのオンタリオ州もカナダ版NSSEを作成して調査をはじめるなど、北米の大学では学生を「主役」とした大学改革が見られる。
 数年前、カナダのダルハウジー大学図書館で学生に蓋つきコーヒーカップの持ち込みを許可したことで図書館のイメージが一転したことを紹介したことがあるが、最近では、ラーニング・コモンズとしての共有の場として注目され、堅苦しい大学図書館のイメージから新しい図書館スタイルへと変化している。たとえば、パソコンが自由に使えたり、ラウンド・テーブルやラウンジが置かれたりして、友だちと一緒にコーヒーを飲みながら談話ができるカフェテリアを併設するところもある。図書館は本を借りて静かに読むところだけでなく、友だちとディスカッションができる共有の場と変わった。その背景には、学生が一人アパートでパソコンやゲームに没頭するのは健全でないとの考えがあり、図書館を中心にコミュニケーションの輪を広げたいという大学側のねらいもある。
 ユタ・バレー大学 (UVU)図書館 のカフェテリアは、受付カウンターに隣接していて、スターバックス・コーヒーはもちろんのこと、「寿司コーナー」まであり、すべての図書館のフロアーで飲食できる。コーヒーをこぼしたり、本を汚したりしないのかとの心配の声もあるが、社会性を身につけさせる良い訓練になると大学側も歓迎している。
 『教育学術新聞』(2010年12月15日付3面)で紹介したSCOT(学生による授業コンサルティング)も学生を「主役」とした大学改革の一例である。SCOTがどのような準備をして授業コンサルティングに臨むか、取り組みの実践を取材し、学生にインタビューした。同大学教育担当副学長アイアン・ウイルソン(Ian K.Wilson,Vice President of Academic Affairs,Utah Valley University)は、SCOTプログラムを高く評価し、「一般に、大学教員は自らの授業について語られるのを好ましく思わないが、SCOTプログラムは、希望する教員のみに実施されているので、外からのプレッシャーを感じることもないので教員からの評判も良い。なぜなら、学生の視点から授業観察や授業のフィードバックを得ることができるからである」と、その理由を話してくれた。
 午後4時からのSCOTミーティングに参加した。SCOTは、授業を観察して教員に報告するだけではない。自分たちも学生の視点からどのような授業が効果的であるかを話し合って理解を深めている。この日は、「能動的学習(Active Learning)」についての報告があった。SCOT同士がペアを組み、アントン・トールマン・センター長(Anton Tolman,Director,Center for Teaching and Learning Excellence,CTLE)が出した課題を2週間かけて調べ、パワーポイントを使って報告した。
 同大学は、前掲の教育担当副学長からのサポートもあり、SCOTの年間予算が十分に確保され、毎回のミーティングには、ピザ、スパゲティ、スープ、ケーキ、コーヒーも出され、揃いのポロシャツを着た仲間同士がキャンピングでも楽しむかのような雰囲気が漂っていた。以下に、SCOTにインタビューして経験談を語ってもらった。
 「SCOTとしての経験で学んだことは、教える側から授業を見ることができ、教員への感謝の気持ちが芽生えたことと教員を手伝える喜びです。フラストレーションもあります。例えば、SCOTを必要とする教員はあまり利用しないで、SCOTを必要としない優れた教員が積極的に利用しているということです」(Charolette Reynolds)。「私は、この仕事をとても楽しんでいます。SCOTを通して何を教員から期待するかもわかるようになりました。私は、歴史学の専攻で、将来の夢は大学教員になることですが、クラスでどのようなことをすれば良いかがわかるようになりました。とくに、クラス討論や学生が教員に変わってプレゼンテーションすることの重要さがわかりました。私は、SCOTになる前から大学教員になりたいと思っていましたが、SCOTになってその思いをより強くしました。SCOTの経験を通して講義形式でなく、学生を巻き込んだ授業をしたいと考えています。現在、大学4年なので、これから大学院に行って準備します」(Kris McLain)。「SCOTとして授業改善に役立ててうれしいです。クラスで授業を観察して思うことは、学生のフィードバックを教員が受け入れなければ、改善や向上はないということです。互いに学び合うことが大切だと思います。SCOTプログラムのことは友人から聞きました。SCOTになったことで観察力が鋭くなり、いろいろなことに関心がもてるようになり、新しい考えや提言も受け入れられるようになりました。現在、3年でアメリカン・サイン・ランゲージ(American Sign Language)を専攻していて、将来は手話通訳者になりたいと思っています」(Allison Querry)。「私は、SCOTとして約2年間活動していますが、この仕事が大好きです。現在、SCOTウエブサイトの運営やプログラムのデータ分析と管理を担当しています。これまで多くの教員から肯定的なフィードバックをもらうことができましたが、これに満足することなく、改善し、向上したいと考えています。私たちは、教員にやってほしいことを、まずSCOT同士で実践することにしています。たとえば、グループ活動が重要だと思えば、SCOTで実践し、互いに理解が深められるようにしています」(Devin Weaver)。
 日本でもアクティブ・ラーニング(能動的学習)が注目されているが、アメリカでは学生を「主役」にするアクティブ・アクション(能動的行動)が注目されている。