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アルカディア学報

No.437

震災の復興支援に向け 今問われる大学の存在理由

白川 優治(千葉大学普遍教育センター助教)


 3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震とそれを発端に生じた東日本大震災にあわれた皆様に心よりお見舞いを申し上げます。今号の本欄は本来、2月18日に開催された私学高等教育研究所の第47回公開研究会の内容を報告する役割が与えられていました。大震災の発生後、最初に刊行される号であり、この震災を前に大学ができることを考えたいと思い、別稿を寄稿します。
 3月11日に発生した大震災は、東北地方を中心に東日本地域に重大な被害をもたらしている。1週間が経過した本稿執筆時でも状況は刻一刻と変化し、時間が経過するにつれて今回の震災が未曾有の激甚災害であったことが具体的に明らかになりつつある。また、被災地では、余震、物資や燃料の不足、寒さなどにより、被災者が過酷な状況に置かれ続けている。原子力発電所は問題を抱えたままである。関東地方では計画停電として地域別に一定時間の停電が実施されている。「国難」とも称されるこのような大震災のなかで、大学はどのように対処し、今後、何をできるかを考えてみたい。
 当日を振り返ると、関連地域の各大学では危機管理として安全を第一とする避難誘導がなされたであろう。被災地ではキャンパスや施設を地域の避難所として提供している大学もある。東京都内を中心とする首都圏では、地震による公共交通機関の不通により帰宅困難となった方への支援として、多くの国公私立大学が校舎や教室を一時的な避難施設として提供した。また、文部科学省からの国公私立大学病院に対する災害派遣医療チームの派遣要請に対して、多くの大学病院が医療チームを即時に派遣している。これらのことは大学による組織的支援として記憶しておきたい。その後、被災地域の大学のみでなく、全国の大学において在学生や教職員等の安否確認や避難、入試日程や入学手続き期日等の変更、卒業式等の中止、新年度の日程変更、被災地域出身者や入学予定者への学費減免など経済的支援が実施されている。なかでも、早稲田大学の被災地出身の入学予定者への一年間の入学延長、長崎大学の組織的支援活動は特筆に値する取組みである。日本学生支援機構は、被災地域出身者への緊急採用奨学金の提供と災害で返済が困難になった人への減額返済や返済免除を実施した。
 また、各大学において学内外で義援金の募金活動や物資の募集活動が始まり、関東地域を中心に節電による被災地への間接的支援の活動もなされている。国立大学協会が全国の国立大学に物資等の支援を依頼するなど、個別の大学を超えた活動もみられる。このように各大学や機関が具体的な支援活動に取り組んでいる。
 被災地では、地震発生直後から行方不明者の捜索や救援、医療者による支援、ライフラインの復旧など各分野の専門職による懸命の活動がなされている。発生直後は、専門的知識を持った専門職者による対応を見守るしかない。現時点では一般個人にできることは、それぞれのできる範囲での節電や献血、義援金の提供などに限られる。しかし、あまりにも広範囲な地域への、あまりにも深刻な被害が明らかになっている今回の震災において、今後、被災地域への中長期的な支援が必要となることは間違いない。その時に、被災地外の大学ができることを早めに整理し、被災地へのさらなる支援の準備を進めておくことはできないだろうか。
 今後、被災地が必要とする支援は物資提供による物的支援や経済的支援のみでない。ボランティア活動の人的活動をはじめとするさまざまな内容の支援が必要となることが想定される。例えば、心理的ケア、子どもに対する支援、各国語による支援、障がいを持った被災者に対する支援なども考えられる。新しい街づくり、産業復興、防災への取組みも必要となるだろう。このような支援ニーズのなかで、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震をはじめとするこれまでの各地の自然災害への対応のなかで蓄積された知識と経験を基に、大学だからこそできる被災地支援があるのではないだろうか。
 大学教員が個々の研究活動を通じて地域の復興にかかわることも重要である。さらに、全国の大学が持つ各専門領域や教育プログラムを活かすことで、多様な被災地支援に大学が組織的、継続的にかかわることができるのではないかと考えるのである。例えば、一つのアイディアとして、今後、交通網の一定の回復が生じた後に必要になる被災地での支援ボランティア活動を大学が率先して準備することはできないだろうか。具体的には、被災地外の大学が被災地の大学や自治体等のボランティア受入センターと連携することで、長期的に継続的に被災地域を支援する体制をつくれないかと考える。被災地域外にある大学がサービスラーニングやボランティアなどの枠組みとして活動プログラムを作成して派遣元となり、事前に安全確保や倫理、現地の地理情報など活動に必要な研修を参加学生に対して行った上で、連携先の被災地に送り出す。被災地の受入側では、地元自治体等と協力して各地域のニーズに応じた活動を行うというプログラムである。被災地の大学等を拠点にしながら支援活動を行うことで地元ニーズにあわせた組織的活動を可能とし、派遣元の大学の正規プログラムとすることで自らの大学に戻った後は活動の事後報告などを通じて、活動を通じた学修として学びにもつなげることができる。また、一定期間の活動の後、次の派遣学生と交代することで継続的な活動が実現すれば長期的な被災地域支援につなげることができるのではないかと考え、ここで一案として提示してみた。他にも、支援ボランティアに参加することを公欠扱いとしたり、卒業延長を認めるなどにより大学が学生のボランティア活動を支援し、促進していく方法もありえる。また、就職活動の際に、企業にそのようなボランティア経験を積極的に評価するように要請することもありえるだろう。大学は直接、間接に被災地を支援する方法を創設することができるのではないだろうか。
 もちろん、大学の第一義的な社会的役割は教育研究活動であり、被災を受けていない大学が日常的な教育研究活動を継続することは重要である。教育を通じて、この災害に立ち向かい復興していくための人材を育成することは、大学の最も重要な使命であろう。一方、被災地の大学の教育研究活動が早期に復興されることも大切であり、そのために大学間で連携することも求められる。現時点でも、神戸学院大学が東北福祉大学の学生の安否確認に協力したり、いくつかの大学では被災地域の大学に在学する学生等に対して図書館の利用を開放する取組みがなされている。さらに、大学コンソーシアムや大学間連携を活用して、被災地外の大学が被災地域の学生を受け入れることもあり得るかもしれない。
 過去数年間、日本の大学は各種GPなどを通じ特色ある教育プログラムを開発し、地域貢献を深めてきた。さらに、大学コンソーシアムを結成し、地域内外で大学間連携も深めてきた。これまでの成果をもとに、今回の大震災に対して大学は何ができるのかを考えたい。また、大学とともに、大学団体や高等教育政策にも期待したい。被災地の大学・学生への直接的な支援とともに、被災地の支援活動を展開しようとする大学を支援するための財政措置や情報提供などの役割が考えられるためである。今、大学や高等教育政策の存在理由を問われている。