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アルカディア学報

No.412

税制改革に見直しを求む
学校法人の問題点― 上 ―

客員研究員 齋藤 力夫(永和監査法人会長)

 2010年度予算が本年3月24日衆議院で成立した。一般会計総額は、過去最大で92兆円超、歳入の元になる税収は38兆円、民主党公約の歳出の実現にもほど遠く、結果的に新規国債44兆円超の発行と戦後最大となった。政府は本年度の実績を44兆円以内に止めると公表している。
 平成21年度末の我が国の長期債務残高は816兆円であるから、平成22年度末の債務残高は債務償還を見ても850兆円、地方債も加えると1000兆円、GDP(国内総生産)の約180%と世界最大である。デフォルト(債務不履行国)と見られても不思議ではない。そのことだけでいえば、ギリシャ、スペイン、アルゼンチンなどと比べても遜色ない。ただ、日本は個人の流動資産は世界で最も多く1400兆円、ドル保有額は中国に次いで第2位であるのが救いである。しかし、このままマニフェストどおりの財政支出が続けば日本はいずれ沈没する。本年5月に発表された「2010年世界競争力年鑑」(スイスIMD年鑑)では、2002年、8年前の17位から27位に転落した。
 平成2年、3年以降のバブル景気の時は税収60兆円前後と推移していたのであるが、巨額で無駄な公共事業投資等に偏り、法人税率、所得税率の引き下げを怠った。アメリカのレーガン税制改革のように大胆な税負担の軽減を無視したことにも原因がある。さらに教育支出の投資をみると、GDPに占める額は先進国で最低の3.5%で、教育力を中心とする人材投資に対する政策が不十分といえる。中国や韓国などの東アジア諸国では、国際競争力を高めるためにGDPの増大とともに、消費税率の引き上げ、所得税率、法人税率の軽減策を講じている。
 現民主党政権においては、国債増発で財政の悪化に歯止めがかからず、国民生活の不安が増大している。本年6月の新政権の政策運営と税制改革の動向が注目される。
 税制改革と消費税増税の課題
 以上のわが国の財政危機に際し、与党、野党、経済界で近年にわかに消費税率引き上げが論議されている。その根拠は、国際的な流れとしてヨーロッパ、アジア諸国に比して日本の消費税率5%は低率であり、引き上げるべきとの意見が高まり、当面10%を目標としている。また、政治的には税収の確保と目的税化とすべきとの意見もある。反面、間接税は逆進税の性格を有しているので低所得者に多大な負担を及ぼす指摘も多い。
 現行消費税は、平成元年に導入以来3%から5%にアップし、そのうち1%は地方税として推移し、順調に定着してきた。ただし、国際比較でみると5%は最も低率で、日本と同率な国は、台湾、シンガポールだけである。EU理事会の統合司令では付加価値税の最低税率は15%以上とされており、そのうち最も高率な国は北欧諸国(フィンランド22%、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、アイスランド24~25%)で、次いでフランス19.6%、ドイツ19%、オランダ19%、イタリアとオーストリア20%、中国17%、韓国10%、イギリスでは0%から最高税率17.5%を20%に引き上げ、さらに業種別段階税率を採用している。ギリシャは経営危機で21%に引き上げた。アメリカでは州、郡、市ごとに小売税を課している(例:ニューヨーク市8.375%)。カナダでは小売税と連邦税との組み合わせで課税される(例:オンタリオ州8%)。
 このように、他国は日本よりかなり高率であることから、わが国でも消費税の引き上げが論議されているが、スウェーデンやフランスのように教育費、医療費などの無料化に近い政策により国民生活が長期的に安定していれば、高負担でも安心した生活設計が組める。政権が変わる度に国民生活に多大な影響を及ぼす政策は避けるべきである。
 わが国のように、政権が単なる票集めのための人気取りの政策でくるくる変化するようでは、安易な消費税引き上げは危険である。平成21年度予算で国税4%で約10兆円、地方税は1%で約2兆5000億円であるから、5%アップすれば10兆円超の増収とはならない。不況下の時代では、生活防衛のため消費が冷え込むから、私案では国税10兆円は困難で軽減税率を含めた複数税率制を採用しなければならず、約8兆円程度の税収増がやっとと考える。
 学校法人では、施設設備費、諸経費のアップが経営を圧迫し、これを納付金に転嫁できないので、高負担に耐える経営体質の強化に対処しなければならない。かつて医師会が消費税分を診療報酬に加えるよう要望し一部実現したことがある。
 寄附金税制の拡充
 学校法人に対する寄附金に関する優遇税制は、やや改善されたが十分とは言えない。学校法人に対しては、教育研究に必要な財源確保の措置として寄附金募集に関し特別な措置が設けられている。
 一、特定公益増進法人としての寄附金
 学校法人、社会福祉法人等は、所轄庁(文部科学省・都道府県)に特定公益増進法人としての許可を得れば、容易な手続きで証明書の交付を得られる。認定期間は5年で、幼稚園法人、専門課程の専修学校法人も含まれる。
 ①個人から募金を求める場合は、所轄庁の特定公益増進法人(以下、「特増」という)たる証明を受け、寄附をした個人は学校法人の領収書と特増証明書を所得税確定申告書に添付すれば課税所得の40%の範囲内で寄附金から5000円(22年から2000円)を差し引いた金額を寄附金控除として差し引ける。ただし、入学の条件としたものは法人の寄附を含めて控除できない。
 ②法人から募金を求める場合は、前記と同様な証拠を添付し、法人税申告書に記載すれば、「資本金等の1000分の2.5+課税所得の100分の5」×2分の1を控除できる。このほか、一般寄附金として「資本金等の1000分の2.5+課税所得の100分の2.5」×2分の1を一般寄附金としてプラスできる。資本金の1000分の2.5は極めて僅少で、実質的には課税所得の100分の3.75が損金算入限度であり、先進国に比して極端に低く、利用度は少ない。次号で述べる国際比較を参照にされたい。
 二、日本私立学校振興・共済事業団に対する受配者指定寄附金
 日本私立学校振興・共済事業団(以下、「事業団」という)に寄附する場合、平成16年度から前記事業団に従前の対象事業、期間等の申請認可を要せず、常時申しでて、受け入れ可能となった。この改正により事業団の預金口座に振り込めば、指定寄附として税務上所定の控除を受けられる。その目的が教育研究に必要な費用かは事業団で審査し、相当であれば事業団から当該学校法人に配布される。この措置により会社等法人で寄附金の全額損金に算入できる範囲が拡大された。個人はこの特例を利用しなくても特定公益増進法人の証明だけですむ。
 三、そのほか財務大臣の指定寄附もあるが、私学に利用できるケースが少ない。
 四、みなし譲渡所得の非課税措置
 個人が土地や株式など学校法人に贈与又は寄附すると、当初の取得価格と時価との差額は、所得税法の譲渡所得とみなされ課税される。そのような場合、その個人の贈与又は寄附(寄附金相当額とみなす)が教育研究のためであれば、贈与又は寄附者は国税庁長官に「みなし譲渡所得の非課税申請」を所轄税務署を通して届け出ることにより非課税措置を受けられる。申請の承認は、おおむね2年程度を要する。本来の目的に利用されたかを確認するためである。
 ただし、平成15年の改正で、大学、高等専門学校に対しての財産の寄附に限り、所定の要件を満たしていれば、申請提出後1カ月以内に承認の決定がなかったときは、承認があったものとみなされることとされた。
(つづく)