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アルカディア学報

No.402

厳しさ増す「公私協力方式大学」
問われる存在意義 ―上―

研究員 船戸高樹(桜美林大学大学院・大学アドミニストレーション研究科教授)

 大学を取り巻く環境が厳しさを増している。この4月から神戸ファッション造形大、聖トマス大、三重中京大、新城大谷大、LEC東京リーガルマインド大の5大学が学生募集を停止し、在学生の卒業を待って閉鎖することになった。このほか、複数キャンパスの一つを閉鎖し、本キャンパスに統合するケースも出ている。いずれも、入学者が減少し、将来的に改善の見通しが立たないことから閉鎖に踏み切ったものである。これまでにも「学生募集停止・閉鎖」という例がなかったわけではない。しかし、一度に5大学という事態は大学閉鎖が特殊なケースではなくなったことを意味している。まさに10年度は「大学淘汰元年」と位置づけられよう。
 〈地方再生の切り札〉
 厳しい状況に追い込まれている大学の中でも、地方自治体が設置経費やキャンパス用地を提供し、学校法人が運営するという、いわゆる「公私協力方式大学」の多くが苦境に立たされている。今年度、学生募集を停止した5大学のうち三重中京大と新城大谷大の2校が該当する。
 この方式の大学が設置されるようになったきっかけは、80年代初頭に遡る。当時、わが国は都市部に人口が集中し、一方で地方の過疎化が進むという「二極化」が進行していた。この状況を打開するため国土庁は、第三次全国総合開発計画(三全総)の定住圏構想を受け、大学誘致を起爆剤として地方再生を図る方針を打ち出した。80年に「大学関係者のための学園計画地ライブラリー」を発足させる。これは、大学誘致を希望する地方自治体をあらかじめ登録させ、地方進出を希望する大学側との仲立ちをする目的で設けられた機関である。国土庁が自治体向けに配布したパンフレットには、地方に大学が進出することによって、研究機能を活用した「生産誘発効果」、教員や職員を採用することによる「雇用創出効果」、学生が生活することによる「需要創出効果」が生まれるほか「地域の文化向上」「地元子弟の進学機会の拡大」などが期待されると、バラ色の未来像が描かれていた。
 この政策は、過疎に悩む地方自治体に大きな反響を呼んだ。用地や建物の建設に対する多額の負担金は発生するが、大学誘致を地域活性化の「切り札」として位置づけ、ライブラリーに登録した自治体は、北海道から沖縄まで、東京都を除く全ての道府県の461市町村に上った。一方、地方への進出をうかがう大学側にとっても、この政策は願ってもないことであった。大学の新設に当たっては、巨額の創設費を自前で用意しなければならない。ところが、この方式を使えば「地方公共団体の債務負担行為は自己資金とみなされる」わけで、少ない資金で大学を開設することができるからである。
 〈大学と産業界が連携〉
 国土庁とは別に通産省も83年、先端技術産業を中核とした産・学・住が一体となった街づくりを促進し、地域経済の振興と向上を目指す「高度技術工業集積地域開発促進法」(いわゆるテクノポリス法)を制定した。この法律は、当時急速に発展しつつあったマイクロエレクトロニクスなどの知識集約型産業と大学が連携してリサーチパークを形成し、産業と学術および居住空間が一体となった新たな街づくりを目指す構想であった。この計画にも自治体はすばやく反応した。当初の計画では、全国に2~3か所を指定する予定であったが、26の府県が誘致に名乗りを上げ、いずれも指定を受けた。国の定めた指針に沿った開発計画を作成するため、各自治体は理工系を中心とした大学の誘致と設置に取り組むこととなる。この結果、テクノポリス地域には31大学(私立21校、公立10校)、6短大(私立4校、国立1校、公立1校)が新設されたほか、キャンパスの移転や学部の移転をしたものが7校に上った。このうち私立大学・短大の新設と移転については公私協力方式によって設置されている。
 〈文部省の政策〉
 一方、文部省は86年から92年までの18歳人口急増期を前に、84年「昭和61年度(86年)以降の高等教育の計画的整備について」(新高等教育計画)を発表する。計画は86年から92年までの7年間の急増期とそれ以降の急減期を見据え、規模の拡大を全て新増設等による恒常的な定員増で対応しないことが前提となっている。具体的には、①既存の大学に期間を限った臨時的な定員増を認めること、②高等教育機関の地域配置の適正化の観点から全国を13の地域に分け、地域ごとの恒常的定員増の目途を示すこと、③工場(業)等制限区域ならびに政令指定都市区域における新増設は、特別の必要があるものを除き原則として認めないが、臨時的定員増については認めること――とした。また、大学の地方分散については「国、地方公共団体、学校法人の協力方式」による大学、短大の設置構想が初めて打ち出された。
 このように、大学の地方誘致で国土の均衡ある発展を図りたい国土庁、大学を含めた産業集積型の街づくりを目指す通産省、地域活性化の切り札として大学を誘致したい地方自治体、財政面から18歳人口の急増期を国立大学の拡充でなく私立大学に委ねたい文部省、そして何よりもわずかな自己資金で大学を新設したい学校法人...省庁の壁を超え、官と民の思惑が一致する。急増初年度の86年から「公私協力方式」の大学が激増することとなる。85年以前20年間に新設された私立大学は122校、このうち地方自治体の支援を受けた大学はわずか6校だけ。ところが86年から95年までの10年間は、新設大学83校中公私協力方式は37校(45%)、96年から05年までの10年間は、新設大学132校中51校(39%)、06年から09年までの4年間は、新設大学37校中11校(30%)となっている。
 〈大学設置が目的化〉
 ところが、18歳人口の急激な減少は、都市部の大規模大学に志願者が集中し、地方の小規模大学に学生が集まらないという「規模の格差」と「地域間の格差」を生み出した。公私協力方式大学は、基本的に地方・小規模大学に当たる。このため、学生数を確保できない大学が増加している。09年度の入学定員充足状況を調べてみると公私協力方式大学103校中、定員割れをしているのは半数以上の56%。この数字はその他の大学の38%を大きく上回っており、深刻さが浮き彫りになっている。
 このような状況を生み出した要因は地方自治体、学校法人の双方にあると思われる。自治体は「悲願」や「地域の活性化」という漠然とした言葉で地元住民や議会に説明し、大学を誘致すること自体が目的化したこと。一方、法人側も設置する学部や教育内容について地元と十分な議論を尽くさず、大学の論理で進めたことなどが挙げられるだろう。
 大学立地という「器づくり」だけが先行してきた公私協力方式大学の存在意義が今、問われているのではないだろうか。