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新時代の大学図書館

-3-新時代の大学図書館
 電子図書館への取り組み 非来館サービスの充実

広島修道大学図書館  飯田良行

はじめに今回の原稿依頼だが、それは突然に筆者のところに届いた。
 2008年8月に私立大学図書館協会西地区研究会で「電子図書館への取り組み―非来館サービスの充実―」というテーマで発表をしたのだが、その内容は出版物の電子化、学術情報の電子化という大きな流れのなかで、次世代の学術情報流通はどうなるのか、それを支援する図書館として利用者サービスの提供はどうあるべきか、といった視点から、広島修道大学図書館が、2004年度から取り組んできたことについての事例である。その発表原稿が、私立大学図書館協会会長校である関西大学さんの目に留まり、上司を通じて依頼があった。多くのベテラン図書館員の方がいらっしゃる中で筆者のような素人図書館員が申し上げることは何も無いのだが、業務を通じて筆者が経験したことが、他大学図書館の参考になればと思い原稿依頼をお受けすることにした。
 まず「電子図書館への取り組み―非来館サービスの充実―」を何故思い立ったかである。2006年4月に向けて図書システムの更新が予定されており、ハードの老朽化も進み、ハード・ソフトの全面的な更新に向けて図書システムの選定作業を2004年9月から取り掛かった。その中で学内他部署では、これまでのフルカスタマイズシステムからパッケージソフトの導入が実施されており、図書システムにおいても同様の指示が予算管理部局からあった。
 当初は、既存の図書システムでのバージョンアップの更新を前提に選定作業を検討しており、あまり大きな見直しは考えていなかった。そこから急ピッチでパッケージソフトでの更新見直しに切り替えた。その中で特に導入実績や市場の評判がよかったのが、現在導入しているR社の図書パッケージシステムだった。R社が魅力的だったのは図書システムにポータルサービス「My Library」機能が付加されている事だった。ネットワークを介してのサービス提供だったので慎重論もあったが、これからの利用者サービスを考えた時、多くの学生が携帯電話やパソコンを持つ時代だと考えると、このポータルサービスの導入は、今後は主流となり、これまでの利用者サービスの不備を補うものになるであろうとの確信が筆者自身にはあった。と、同時に図書館員の同意をどう取り付けるかがその後の大きな課題だった。
 次に、図書システム更新に向けての図書館内での浸透や理解についてであるが、やはり使い慣れた図書システムから変更することへの不安はかなりあった。特に、フルカスタマイズからパッケージになることへの不安が大きかったのだが、「パッケージに無い業務は優先順位の低い業務である」との判断を上司に決断してもらった。
 大きな利点もあった。これまで開発SEによるサポートが中心だったのだが、必要な時に連絡が取れず困ることが年々増えていた。しかし、パッケージシステムではサポートセンターがあり、困った時には常時対応してくれるので、サポート体制の充実という意味では、図書館員にとっては安心感があり、かなりのストレス解消となった。図書館員の理解や浸透については正直、変化を恐れる保守的な図書館員の体質を垣間見ることが多々あった。しかしそれはシステム更新後、業務に慣れることで徐々に解消していった。
 さらに利用者サービスへの意識改革についてだが、筆者らはまず情報提供という観点で図書館ホームページを全面的に見直し、リニューアルした。以前は、電話での問い合わせが多かった情報を優先的にホームページに掲載した。その結果、電話での問い合わせは激減した。
 肝心のポータルサービスについては、これまでのアナログサービスをデジタルサービスに変更するようなものだった。窓口対応のうち依頼だけならホームページからやり取り可能とした。
 次に、求められた依頼の準備が出来たらメールで利用者にお知らせする方法を導入した。図書の購入希望や貸出予約そして貸出期間の延長手続きも、窓口に来なくてもポータルサービスで可能となった。その後、資料請求やレファレンスサービスの相談についても非来館サービスとして提供している。
 ポータルサービスの導入により、何度も利用者が足を運ぶ必要が無くなり、窓口での対応が一度で済むようになった。図書館にとって利用者サービスの中身に変化はなく、依頼の仕方を変えることによって利用者サービスが向上することがわかり、結果的に図書館員の意識改革に繋がった。
 このような「電子図書館への取り組み―非来館サービスの充実―」の取り組みを行ったことにより得たものは、変化に適応することの大切さを体験出来たことだろうか。最初は新しいことへの心理的な不安や不満があり苦労もあったが、業務に慣れてしまえばそれが標準化されていく。新しいことにチャレンジすると、利用者の評価が反応として返ってくる。評価を得られれば図書館員は図書館運営に自信を持つようになる。そうするとさらに次へのチャレンジが始まる。現在の図書館業務は、常に利用者目線が求められている。管理ありきの発想では、今後の利用者サービスは成り立っていかないだろうと筆者自身は思っている。
 最後に他大学図書館へのアドバイスを申し上げるとすれば「変化を楽しめる図書館(員)」になろうということである。現代社会はさらなる情報化が進み、電子図書の導入や普及に業界を挙げて取り組んでいる状況で、まさに変化の真最中にある。この状況は直接図書館へも影響する事態である。避けては通れない変化の時代に図書館だけ変わらないことはありえない。今は世の中に「絶対」は無い時代、「一つしか正解は無い」時代ではない。いろいろな利用者サービスのあり方があってよい時代である。お金をかけないで知恵と工夫次第で取り組める利用者サービスは沢山ある。発想の転換と利用者目線を忘れず、業務を見直していって欲しい。図書館員の為の図書館など存在はしないのだから。ベテランの図書館員の方ほどこれまでの常識を破って頂きたい。目から鱗が落ちる出来事に遭遇するかもしれないのだから。
 (参考)広島修道大学図書館:http://www-lib.shudo-u.ac.jp/home/