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地方私大からの政策提言

「公(官)」中心から脱した地方創生

学校法人北海道科学大学理事長  苫米地 司

今年、北海道は150周年を迎えた。その長くはない地域の歴史の中で、学校法人北海道科学大学は、道内の自動車保有台数が僅か136台の1924年に、道内で最初の「自動車運転技能教授所」を開設したことから始まった。
その後、産業界や地域の要請に応えて、1953年に国内初の自動車工学専門の高等教育機関として北海道自動車短期大学、1967年に北海道工業大学、1974年に北海道薬科大学を開学し、一貫した地域密着型の実学教育を実践してきた。
しかし、少子化の影響が眼前に迫っていた2010年代に入ると、複数の学科で慢性的な志願者の減少、定員割れが続き、教員組織、定員など部分的な改革では対応しきれない状況に陥った。
当時は、十数年後に迫る法人創立100周年をこのままでは迎えられないのではないかという危機感が極まり、法人の生き残りと更なる充実を目指し、若手教職員の英知を結集させた将来計画検討委員会を立ち上げ、1年半余りの時間を費やして本法人全体のあるべき姿を模索した。
この委員会では、各設置校が北海道に存在する意義、存在するための将来像を議論し、創立100周年ブランドビジョンとして、「基盤能力と専門性を併せ持つ人材を育成し、地域と共に発展・成長する北海道No.1の実学系総合大学を実現する」ことを社会への約束とした。
当時、並行して保健医療系及び人文社会系の教育組織の設置が進んでおり、一連の教育改革の帰結としてキャンパスを統合し、北海道薬科大学との統合を視野に入れて「北海道科学大学」に名称を変更した。大学統合を果たした今年4月には、4学部1短期大学部、学生数約5000名の総合大学となった。
これらのプロセスを通して、私達は地方私大の置かれている現状を改めて考える機会を得た。政府は、少子高齢化とともに、経済も疲弊している地方の活性化を目指した地方創生政策を進めている。地方公共団体、産業界、大学のコンソーシアムによる「地方大学・地域産業創生事業」もその一つである。しかし、各地での取り組みは地方の国立大学に主眼が置かれ、人的にも財務的にも脆弱な地方私大にはハードルが高い。
地方私大の多くは、立地する地域出身の学生が大半で「地学地就」を実践し、地方の活性化に一定の役割を果たしている。にもかかわらず、文部科学省が進める私立大学研究ブランディング事業、私立大学改革総合支援事業は全国一律の評価項目であるため、全てに注力することが難しい地方私大は採択されるのが至難の業である。昨今の大学ランク付けにおいても同様である。評価項目に万遍なく注力することが出来ない地方私大は総じて低い評価となり、その評価が一人歩きして更なる苦境に立たされがちである。
そもそも、大学教育の原点は、国内外の競争に勝つことではなく、より高いレベルで個々の能力を伸ばす教育を行うことにある。今一度、この原点に立ち戻り、地方私大の存在意義を考えるべきである。
地方私大では、地域との共存を目指してキャンパスを地域に開放している大学も多く、一種の公共施設としての役割も果たしている。地方私大が地域活性化に必要というのであれば、財政的な支援だけではなく、地域社会全体が地元私大を応援する仕組み作りが必要である。大学キャンパスを公共施設と同等に取り扱い、地域全体で地方私大の存在を意識すべきであろう。
大学キャンパスは地域社会に開放され、逆に公共施設や街中にサテライトキャンパスが存在するというような地域と連携したプラットフォームの構築も必要だ。政府は地方創生政策を掲げているが、なかなか成果が上がっていない現状を鑑みるに、中央主導の地方活性化政策は限界とみえる。政府は公(官)中心思考から脱却し、地方私大の社会的な役割の重要性を認識した地方創生施策を展開すべきと考える。
一方、地方私大には、国や地元自治体の財政支援に依存することなく、自らの力で変革することが求められる。
民間企業では業績の良し悪しを日々肌で感じ、その状況に応じた改革を進めるが、大学は毎年同じような学年暦で教育研究が行われるため、ともすれば、危機感の共有が希薄で自己変革力が極めて低い組織となるリスクをはらんでいる。地方私大は、「強い組織」、「賢い組織」ではなく「変革できる組織」が生き延び、発展するということを自覚し、組織全体のIR活動を加速させ、自立できる組織を目指すべきである。
地方私大が「地域と共存共栄」するためには、地域全体をキャンパスと捉え、地域の問題解決を教育に取り込む「地学地就」の考え方は基本と考える。グローバル化が求められる現代社会に逆行するようにも見えるが、地域を究めることが出来れば、その先には世界もはっきりと見えてくるはずである。
中教審の答申をなぞるだけではなく、それぞれの地方私大が展開している教育研究領域の中に、地域特性を活かした教育研究領域を構築することが求められているのである。時として地方都市で遭遇する、転出した私大のキャンパス跡地に草木が覆い茂る様は、まるで「夏草や兵どもが夢の跡」である。大学は存続してこそ地域貢献が出来るのである。
地方私大は経営資源の「選択と集中」をせざるを得ない。北海道科学大学は、「積雪寒冷地域」を前面に押し出した四つの研究所に経営資源を集約し、学部学科横断型の教育研究を展開している。これら一連の改革は、全国的な大学改革の動きへの対応というだけでなく、社会インフラの在り方が変わっていく「第四次産業革命」の時代に、IoT、AIという新技術を取り入れた新しい教育研究環境の構築と、大学の統合効果を活用した地域貢献をするという新たなチャレンジの始まりと捉えている。
この原稿を書き上げた頃、北海道の国立3大学連携の報道に接した。このことで、北海道の高等教育の充実が図られることになれば喜ばしいことである。3大学の学生数は約5600人、国からの運営交付金が約61億円である。これに対し、本学は学生数約5000人、国からの補助金約8億円である。その「彼我の差」に改めて愕然とした。我々は残念ながら明確な答えを頂いていない。ぜひ、イコール・フッティングの視点で議論が深まることを願うばかりである。

とまべち・つかさ
昭和51年3月 北海道工業大学工学部建築工学科卒業
昭和61年2月 工学博士(東北大学)
昭和51年4月 北海道工業大学助手、昭和61年4月 北海道工業大学講師、平成元年4月 北海道工業大学助教授、平成7年10月 北海道工業大学教授、平成22年4月北海道工業大学副学長、平成23年4月 北海道工業大学学長、平成26年4月 北海道科学大学学長再任(平成30年3月迄)、平成26年4月 北海道科学大学短期大学部学長就任(平成30年3月迄)、平成29年9月 学校法人北海道科学大学理事長就任(現在に至る)