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特集・連載

地方私大からの政策提言

地方での学生寮整備推進を

長岡大学学長  村山光博

長岡大学は、新潟県長岡市において「幅広い職業人としての人づくりと実学実践教育の推進」と「地域社会に貢献し得る人材の育成」の二つを建学の精神とし、平成13年4月に開学した。本学を設置する学校法人中越学園の起源は、明治38年に創設された「斎藤女学館」にさかのぼる。
創設者の斎藤由松は女子教育をベースにしながらも、「実際生活を適切ならしめる、所謂、役に立つ人の養成」をめざし、人格形成と実学指向を極めて重視した教育を行った。本学は、この斎藤先生の教育観である「幅広い職業人としての人づくりと実学実践教育の推進」を歴史的に継承し、21世紀の大学教育に活かすことに努めてきた。さらに本学は、前身である長岡短期大学の建学の精神であった「地域社会に貢献し得る人材の育成」を継承し、地域に開かれた大学としての一層の充実、発展に努めてきた。
開学直後の平成16年10月に発生した新潟県中越地震では、建物の一部に被害を受けながらも比較的早く授業を再開することができた一方で、しばらく余震が続いたその年の学生募集活動への影響は避けられず、翌年の入学者は定員の半数にも満たない散々な結果となった。
それ以降も安定的に入学者を確保できない定員割れが続く中で、「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」や「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」等を中心とした教育改革への積極的な取り組みと学科再編および入学定員の見直し等の成果もあって、ここへきてようやく収容定員を満たす状況が実現できた。
しかし、2018年問題とも言われる18歳人口の大幅な減少、新しい高等教育機関としての専門職大学の創設、高大接続改革に沿った入試改革等、大学を取り巻く環境の目まぐるしい変化の中で、本学のような地方中小規模大学にとって先行きがつかめない状況が続いている。
平成29年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」では、人づくり革命の一環として高等教育の無償化が挙げられている。この基本的考え方として掲げられている「どんなに貧しい家庭に育っても、意欲さえあれば専修学校、大学に進学できる社会へと改革する」との趣旨には大いに賛同するものの、その具体的内容の一部には違和感を持っている。
実質的な無償化となる授業料の減免措置については進学先の大学等に交付することになることや、支援対象者の進学後の学習状況について一定の要件を課すことには、全く異論はない。一方で、支援措置の対象となる機関は、「学問追究と実践的教育のバランスが取れている大学等」とし、具体的には、①実務経験のある教員による科目の配置及び②外部人材の理事への任命が一定割合を超えていること、③成績評価基準を定めるなど厳格な成績管理を実施・公表していること、④法令に則り財務・経営情報を開示していることを、支援措置の対象となる大学等が満たすべき要件として挙げている。
そもそも「学問追究と実践的教育のバランスが取れている大学等」とこれら具体的要件との相関関係を知りたいところだが、学生の意向と関係なく、これらの要件を満たさない大学等への進学に対しては支援しないという方針が、学生の進路選択に大きい影響を与えることは間違いない。
地方における低所得世帯で高い学力を持つ子供たちの進路選択では、学費の面から自宅にできるだけ近い国公立大学を第1希望として挙げる例が少なくない。しかし、受験の結果としてこれら国公立大学への進学が叶わなかった時には、奨学金貸与やアルバイト収入から学費だけでも何とか工面することを見込んで、自宅から通学することができる私立大学への進学も第2、第3志望として候補に挙がる場合がある。
3大都市圏では、自宅から通うことができる候補となる大学をある程度確保できるものの、地方ではそうはいかない。公共交通機関の整備状況だけでなく、豪雪地帯では冬季間の通学方法も重要な要素になるため、限られた少数の中から選択せざるを得ない。しかし、進学先の候補として挙げた大学が、国からの学費減免措置を受けられない大学であるということになれば、減免対象として認められた大学へ進学するために自宅を離れて間借りせざるを得ない状況にもなり得る。低所得世帯にとってこの生活費コストの負担は大きいものになる。このような面からも、少なくとも認証評価に適合している大学等については学生が進学先として選択できるような制度の検討をお願いしたい。
また、これに関連した別の視点から学生寮の整備に関する支援を提案したい。前述のように、自宅を離れて生活することにより発生するコストは、低所得世帯にとって大学等へ進学するかどうかという根本的な選択にも大きく影響を与えることが考えられる。
かく言う私自身も地方の低所得世帯出身者であるが、学生時代は国立高等専門学校の5年間と国立大学の編入後2年間の計7年間をすべて寮で生活した。授業料の半額減免や奨学金貸与も受けながらではあったが、この間、負担の小さい寮生活をさせてもらったおかげでアルバイト等に長い時間を費やすこともなく、学業や課外活動にも打ち込むことができたと考えている。
本学の受験生やその保護者等から学生寮についての問い合わせも時々あるが、本学では現在のところ学生寮の整備はなく、単独で学生寮を整備・維持していくことは今後も現実的には難しいと考える。そこで例えば、寮を持たない大学等が複数存在する地域において、共同で利用できるような学生寮の整備について検討をお願いしたい。低所得世帯の子供たちが大学等への進学後も充実した学生生活を送る基盤となるだけでなく、分野の異なる学生同士が一緒に生活する中で、将来のイノベーション創出につながる人脈づくりの場としても有効ではないかと考える。
地方の経済状況は多少上向いているとは言え、首都圏との所得格差は依然として大きい。地方の子供たちが、国立大学と同様に私立大学への進学を無理なく選択できるように、国立大学と私立大学への財政支援の格差是正についても今後議論が深まることを期待する。

むらやま・みつひろ
新潟県新潟市出身。
1992年3月 長岡技術科学大学大学院工学研究科修士課程機械システム工学専攻修了、2004年3月 長岡技術科学大学大学院工学研究科博士後期課程情報・制御工学専攻修了(博士(工学))
2005年4月 長岡大学産業経営学部専任講師、2006年4月 長岡大学産業経営学部助教授、2007年4月 長岡大学経済経営学部准教授、2013年4月 長岡大学経済経営学部教授(現在に至る)、2015年4月 長岡大学経済経営学部長、2016年4月 長岡大学学長(現在に至る)