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特集・連載

地方私大からの政策提言

地域の未来創る地方私大

福山大学学長 松田文子

 福山大学は5学部14学科、大学院4研究科11専攻を擁する総合大学である。建学の精神は「地域社会に広く開かれた大学として、学問のみに偏重するのではなく、真理を愛し、道理を実践する知行合一の教育によって、人間性を尊重し、調和的な人格陶冶を目指す全人教育」であり、この精神に基づき、現在はさらに「地域の中核となる幅広い職業人の育成」をミッションとし、地域の未来を創る「未来創造人」の育成を目指している。
 本年は2018年。2018年といえば、再び18歳人口の急減期に入る「2018年問題」が数年前から取りざたされているように、大学経営が一段と厳しくなり、大学倒産の時代に入るということである。昨年末に中央教育審議会大学分科会将来構想部会より出された「今後の高等教育の将来像の提示に向けた論点整理」や今年になって内閣官房人生100年時代構想推進室の出した「大学改革 参考資料」を見ても、「上手な大学撤退のさせ方」的な論の進め方が際立っているように読める。定員割れの地方私立大学が特に問題とされている。端的に言えば「定員割れ」=「教育の質の低下」であり、「大学間の連携・統合の推進」「撤退」へと向かわせるべき、という論である。この論は、地方自治体、企業等との密接な連携を図りながら、教育・研究に心血を注ぎ、地域に多くの有意な人材を輩出し、地域創生に貢献していると自負している地方私立大学が多々存在している事実を直視していない。卒業生のその地域における存在感、貢献度こそが、その大学の存在意義であろう。政府、文部科学省、関係諸機関には、単に学生募集力を指標とするのではなく、こうした教育の内容と質、卒業生の動向(真のラーニング・アウトカム)や大学が立地する地域への貢献を評価し、財政支援を含む様々な支援を発動して頂きたいものである。
 とはいえ、少子超高齢化、人口減少、とりわけ生産年齢人口の減少は、地方から急速に進んでいくわけで、このことに対してどのように地方私立大学が対応していくか、ということはきわめて重要である。大きくは二つの点で、貢献することが出来るし、貢献しなければならないと考えている。一つは、前述の通り、地方の私立大学は、地域の人材育成の要であるという点であり、人口が減少するなら、いかに生産性の高い人材・高くなりうる人材を育てるか、まさに教育の質の問題である。もちろん、地方国公立大学も、同じような役割も担っているであろうが、地方私立大学は数も多く、それだけ学生数も多く、地域との関わりの歴史も長いものが多い。したがって、本学では「2018年問題」は、経営問題であると同時に、それ以上に地域創生の鍵を握る教育問題として捉えている。放っておけば地方が衰退していく中での、若者の教育である。このグローバル化時代に、日本という国柄を保つ力の源も、この地方の若者達であろう。学部学科の新設や統廃合に関しても、高校生に人気があるかないか、学生が集まるか集まらないか、だけで決めることは出来ない。地元企業等が必要とする人材の供給は、滅多なことでは止めることはできないのである。
 もう一つは、地方私立大学は地域の知の拠点としての役割を持っており、今後ますますこの機能は強くなると思われることである。様々な産学官連携がこれまでも行われてきているが、地方の活性化を目指して、その動きは加速している。例えば本学の立地している福山市は平成26年度に総務省の広域連携モデル構築事業に採択され、岡山県の西部の市町も含む6市2町による「びんご圏域活性化戦略会議」を立ち上げたが、この地域で唯一の総合大学である本学は、他の大学と共に、学長を含む多くの大学教員がこの会議やその下部の部会等で活動しており、さらに裾野では、学生も課題発見、課題解決に様々な形で参加している。
 このように、地方私立大学では、今後これまで以上に、地方での公的役割が大きくなると考えられる。Society5.0と呼ばれるこれからの社会においては、大学には多様な人材の育成が強く求められており、多様な理念を有する私立大学の充実なくしては地域ひいては我が国の発展は難しいだろう。しかし我が国では伝統的に、私立大学は「私的なもの」とのとらえ方が、政府にも民間にも強いように思える*。私立大学への公的支援の少なさはその典型である(私立大学生に対する公財政支出は、国立大学生の13分の1**)。しかし、これまで述べてきたように、地方の私立大学は,地方にとって貴重な公共性を有していることを忘れてはならない。
 国により地方大学・地域産業創生事業が推進され始めたことは喜ばしいが、地方にとって大学が貴重な公的役割を持つ存在であり、地域振興の要であるのなら、安易に「大学間の連携・統合の推進」「撤退」を論ずることは、地方自治体にとっても問題である。本学においても、地域と研究・教育における幅広い連携を推進しているが、現状では、緩い連携にすぎない。地方創生を考えるなら、むしろ自治体組織に高等教育に係る部局を設置し、各(種)大学の特色を生かした大学間連携のポータルとして、インターシップ・地元就職率向上の支援、地域出身学生への奨学制度・学費支援、リカレント教育推進、産学官民連携研究の推進など、地域振興に資す政策の立案・推進に努めるとする施策の方が効果的だろう。さらに、地方自治体の教育委員会を核として、初等・中等・高等教育機関の連携を支援し、地域教育の推進・充実に力を注ぐのも得策かもしれない。
 このような地方自治体、地域社会とのより深い連携が推進され、財政的にも国から支援されるなら、地方私立大学における地域振興の要としての機能はより一層強化され、このことは我が国全体の強化につながることになろう。
 *IDE現代の高等教育 No.555「高等教育と費用負担」(2013年11月)**私大団体連報告(2017年12月)

まつだ・ふみこ

 広島県広島市出身。広島大学大学院教育学研究科教育心理学専攻博士課程後期修了。文学博士。広島大学教育学研究科教授を経て、福山大学人間文化学部心理学科教授。平成22年6月より現職。