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特集・連載

地方私大からの政策提言

地方私大ができる地方創生

八戸工業大学学長 長谷川 明

地方私大の厳しい環境に対し、種々政策が提案され実施されていることは、非常にうれしい事であるが、高等教育を含め多くの産業や活動が中央に集中している現状は、集中と分散のバランスを必要とする日本の将来にとって好ましい環境とはいいがたい。その弊害を打開するために、地方私大ができる地方創生について述べさせていただきたい。

まずは、自己紹介から述べる。本学、八戸工業大学は工学部5学科と感性デザイン学部1学科の2学部6学科、収容定員1600名の小規模校である。開設は1972年。今年は46年目で、まだ若い大学であるが、すでに卒業・修了生は平成29年3月で1万8399名に及ぶ。このため、たとえば本県の工業高校教員の多くが本学出身者となっており、次世代の工業技術者の育成に貢献してきている。教育の質向上に対しても取り組んでおり、工学部には日本技術者教育認定機構JABEE認定コースが設置されているほか、博士後期課程までの大学院が開設されている。建学の精神は「正己以格物(己を正し以て物に格る)」、教育理念「良き技術は、良き人格から生まれる」で、技術だけではなく人間力の成長に取り組んでいる。地方大学でありながら、カザフスタンの国立大学ENUなど海外四大学と協定締結を結ぶグローカルな活動を進める地域大学である。

本学の使命は、地域に有用な人材育成を行って、地域の課題解決のための研究活動を推進し、そして、地域に貢献することにある。その地域、青森県は、本州北端に位置し、三方を海に囲まれ、また、大きな2つの半島を有することから海岸線が長く、同じ県内でも、それぞれの地域が特色のある自然環境・社会環境を有する。社会環境のなかでも、少子化、人口減少、そして高齢化は、県内共通の課題と言える。国勢調査によれば、青森県では、1985年から人口減少に転じ、2010年からの5年間では4.7%の大幅な人口減となっている。年齢別で見ると、18歳と22歳の流出が際立っている。このため、青森県では少子化に若年者の流出が重なって、高齢化が極度に加速している。この青森県に対し、全国の人口も2010年から減少に転じているものの、東京をはじめとする人口集中地域の人口増加は、増加率は低減しているが、続いている。

この人口減少と、一方向的な人口移動が地方の課題の中心である。人材こそが社会の発展の源と考えれば、地方の人材流出は地方社会の存亡に関わるゆゆしき課題と言える。18歳と22歳の流出要因は、雇用、進学、あるいは生活について、地方に魅力が少ないことがあげられる。進学先としての魅力づくりについては、本学も既存の工学部・感性デザイン学部の中で、海洋技術者など人材育成の分野を広げる努力をしている。また、文部科学省の進める大学教育再生加速プログラムに選定され、教育改革を進め成果の高い教育を実践する努力を続けているが、魅力づくりは継続しなければならない。

雇用について考えると、産業が振興し新たな雇用を地方に発生させるためには、企業が地方に分散して立地することへの対策を講じる必要がある。企業にとって重要なことに優秀な人材確保があげられる。安価な労働力としての人材ではなく、企業にとって中核となる人材の雇用が生まれることが地域を元気にする。元気な産業が存在すれば、雇用機会にも恵まれ、進路先に地域企業を選択する若者も増加すると思われる。地方私大の役割は大きい。

小生の専門分野は、構造工学・橋梁工学である。この分野では、いま「インフラ老朽化」が大きく差し迫った課題となっている。壊れてしまってから修理する事後保全型の維持管理から、点検を予め定期的に行って予防保全型の維持管理を行うことで、将来的にも安全安心を提供できる対策が行われている。この維持管理システムでは、病気の予防と同じように、質の高い技術者の存在が欠かせない。質が高くなければ、欠陥の要因把握を間違って不適切な対応を選択したり、そもそも欠陥を見逃したりしかねない。インフラの老朽化は、その利用状況や自然環境に左右される。このため、設置されている地域の環境に詳しくなければ質の高い対応を期待することはできない。地域の実情に詳しく、日頃からインフラを見てきて、地域に対する愛着と情熱を有する地域技術者が対応することが強く望まれる。このことに対し、地方私大の役割として、産官学連携による「青い森の橋ネットワーク」(事務局本学)を創設し、地域橋梁技術者の研修・研究・調査・情報交換の場として活用されてきている。本学で培われてきたインフラ老朽化に関わる研究成果の積み重ねを基盤として、活動が展開されている。このネットワークの指導的立場に本学の教員集団や本学卒業生が大きく貢献している。

地方私大だからこそできる地方創生である。

震災で被害を受けた地域の復興を推進するために復興道路の建設が進められている。この復興道路の横断施設として、コンクリートの箱(ボックスカルバート)が使われている。この工事では、青森県内に本社を有する企業と本学が共同開発した技術が使用されている。寒冷地であるがゆえに、施工期間を短縮しつつ品質を向上させるための技術を共同で開発し、その技術が早期復興に向けて使用されている。

地方私大は、地方の社会環境や自然環境に精通している。それだけに、地方が必要とする人材や地方が必要としている課題を知っている。また、地方が有する魅力、潜在している魅力についても知っている。中央が大きくグローバルに対応する中で、地方私大の人材は、きめ細かにローカルに対応する力を有している。情報や知恵は、それぞれの地方で蓄えられ、それらを乗り越える改善や改革の歴史が積み重ねられている。地方の課題を解決するためには、地方に学ぶことも必要である。だから、地方私大だからこそできる地方創生がある。

中央と地方のバランスある発展が、国の発展につながると考えている。地方の人口減少は、地方出身の国会議員数すら減少させてしまった。インフラやネットの整備によって地方と中央の距離が近くなったにもかかわらず、人口に象徴されるように地方の存在が薄く感じられる。日本の豊かさを発展させるためには、中央と地方の共生社会を大切にしたい。地方の意見も反映できる仕組みづくりが高等教育を考える上でも考慮してほしいと願う。多くの活動が中央と地方の協働による活動であってほしい。

はせがわ・あきら

青森県弘前市出身、工学博士。
1976年 東北大学大学院修士課程修了、同年 八戸工業大学助手。
2016年 八戸工業大学学長。