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特集・連載

地方私大からの政策提言

「地域立大学」の発展のために

熊本学園大学学長 幸田亮一

 「地方私学」といっても、規模や歴史、学部構成など実に多様だ。本学は政令指定都市である熊本市の中心部に位置している。「地方」という言葉に少し違和感をおぼえることもあり、平成26年8月に熊本学園大学の学長に就任して以来、私は本学について「地域立大学」だと言い続けてきている。
 戦前の専門学校令に基づき昭和17年に東洋語学専門学校として発足したのが本学の出発点である。熊本の政治経済界の指導者が中心となり専門学校の設立を呼びかけ、旧藩主細川家から貸与された1万坪の山地を学生と教職員が一緒に開墾・整地し、熊本県や熊本市からの財政的支援も受けて発足した。そのような意味で「地域立」なのだ。戦後、昭和29年に全国で125番目の私立大学として認可。現在、商学部、経済学部、外国語学部、社会福祉学部第一部、社会福祉学部第二部の5学部からなり、令和2年度募集の入学定員は一部1120人に二部60人をあわせた計1180人の、中規模文系総合大学である。
 近年の本学の入学者構成をみると、約85%が熊本県出身者、約15%が九州各県の出身者である。熊本県の18歳人口は約1万6000人で、大学進学率が4割強の約7000人である。そのうち半分が県外の大学に行き、残り半分の約3500人が県内の大学に進学する。平成31年度の本学入学者は1375人でうち県内出身者が1100人だったため、熊本県内に進学した大学生の約3人に1人が本学に入学していることになる。
 この間、東洋語専から数えると卒業生は9万6000人を超えた。卒業生の多くは熊本を中心に九州各地で活躍しているが、高度成長期を中心に関東、関西、中京にも多くの卒業生が出ていき、その中には一部上場企業の社長になった卒業生も含まれる。だが近年は卒業生の地元志向が強くなり、毎年千人を超える卒業生の中で約6割が熊本県に、約2割が福岡県に就職している。多くの卒業生が熊本県の政治経済界で活躍している。社長出身大学を大学別にみると、他県では地元国立大学の卒業生や大手私立大学の卒業生が一番というところが多いが、熊本県では熊本商科大学・熊本学園大学の卒業生が一番である。さらに、地元の市長、町長、県議、市議なども多いし、国会議員も活躍中である。
 この「地域立」をしっかり確認させられたのが平成28年の熊本地震である。指定避難所ではなかったが4月16日の本震の後、多くの被災者が本学に押しかけ、学生・教職員が被災するなか、社会福祉学部の専門家集団を中心に避難所運営体制を整え、特に車椅子利用者や高齢者などの災害弱者を拒むことなく受け入れ、45日にわたり寄り添った。この経験は大災害時に自主的な避難所運営を行なったということで「熊本学園モデル」として全国に知られ、地域社会での本学への信頼感をいっそう高めることとなった。
 ここで地域と高等教育機関の関係について考えてみる。確かに高等教育機関として地元出身者を受け入れ地元に返すということだけでいいのかという問いもあろう。グローバル化とICT化がさらに進展する新時代を生き抜く知識と体験を大学時代に身につけなければならない。だが、すべての人が流動化するわけではなく、地域において、先祖伝来長年にわたって地元を支えてきた伝統を引き継ぐ人々が中核にいて、その周辺に多様な人々が内外から往来する地域が活力を維持していくのではないか。その際、高等教育機関の果たす役割が初等中等教育機関と異なることはいうまでもない。本学の教員の多くは熊本出身ではなく、それこそグローバル化している。このような教員に接する中で学生たちは、世界認識の狭さに気づき視野を広げ、留学や海外研修などの経験を積んで成長している。
 このような大学の学長として、国への要望を整理すると以下の3点になる。
 まず、大都市の大規模私立大学の入学定員の抑制政策は賛成であり、今後も続けてほしい。高等教育を市場原理に委ねると大都市への集中がさらに進み、それ以外の地域の私立大学は学生確保に困難をきたすことになる。大都市から離島に到るまで多様な日本列島の経済や社会、文化活動を支えているのはそれぞれの地域である。国連のSDGsに対応する国内の発展のためにも、地域の農林水産業と新しい情報通信技術や省力技術の組み合わせによるイノベーションが待たれている。それを先導したり支援したりする人材の育成が必要で、地域に密着した大学の果たす役割は大きい。
 次に、特定の大学だけでなく、地域の大学が地域を作るという理念のもと、地域の国公私立大を全体的に支援する方策を充実してほしい。当然のことながら、支援に頼るということではない。切磋琢磨による共存共栄こそが大切で、地域の大学間および大学と自治体・経済界との連携こそ地域を支え発展させていくとの強い思いで、大学コンソーシアム熊本を土台にプラットフォームを作り、平成30年度の私立大学等改革総合支援事業に選定された。このような支援をさらに強化して欲しい。
 最後に、日本全国の私立大学に言えることだが、私学助成の増大だ。ユニバーサル化時代を迎え私立大学は多すぎるとの論調に多々接するが本当にそれでいいのだろうか。平成17年に出された中教審の答申、いわゆる「将来像答申」では「『将来像の提示と政策誘導』の時代へと移行する」とされ、以来、私立大学等経常費補助金においても特別補助の改編、改革総合支援事業などの政策誘導型補助金の登場など、政策誘導が強められている。しかし、私学は地域や社会を良くしたいという人々の強い思いと熱意から誕生したはずである。画一的な指標を用いて誘導するのではなく、私学特有の理念やその地域での高等教育機関としての役割を積極的に評価し、それに相応しい支援を切にお願いしたい。
 熊本学園大学では今年から「熊本で学ぶ、九州を創る。」というキャチコピーを掲げた。まさにこの言葉に凝縮されるように、熊本で学び、九州各地の地域で活躍できる人物をこれからも育てていく決意である。

こうだ・りょういち

昭和29年生、65歳。熊本県出身。長崎大学経済学部卒。京都大学大学院経済学研究科博士後期課程中途退学、佐賀大学経済学部専任講師、大阪経済大学経営学部教授を経て、平成8年4月熊本学園大学商学部教授として着任。商学部長・大学院経営学研究科長を歴任。平成26年8月熊本学園大学学長就任。専門は経営史。