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特集・連載

地方私大からの政策提言

「学生を支援する自治体への優遇策を」

(学)九州文化学園理事長
  長崎国際大学学長  安部直樹

一、長崎国際大学の創立
 長崎国際大学は、平成12年、地域の四年制大学設置の強い要請に応えて公私協力方式により佐世保市に開設し、人間社会学部に国際観光学科と社会福祉学科を設置した。以来、健康管理学部、薬学部、人間社会学研究科、健康管理学研究科を開設、本年4月に薬学研究科を開設し3学部4学科、3研究科5専攻、1900名の学生を有する規模に成長した。私は系列短大学長を務めた後、平成10年に法人理事長に就任、平成24年に第3代学長を併任して現在に至っている。大学開設当時に比べると情勢は大きく変化しており、学長としての舵取りは、高等教育行政、少子高齢化、地域経済の低迷、グローバル化の進展など多様で複雑な社会情勢が絡み、大変困難な状況にある。

二、高等教育政策全体の問題点
 我が国の大学にとって最大の課題は少子化である。また、入学段階の学修習慣や学力未達の状況も看過できない。
 それでは、大学はどのような教育を行う必要があるのか。企業が言う「即戦力」のみを育てるためではないだろう。真にグローバルな人材の育成には、自国文化・芸術を含む幅の広い教養、深い教養が不可欠である。教養を身につけることこそが大学で学ぶ最大の意義ではないだろうか。学びの本質は、師弟同行であり、一人一人の教員と学生とが、学びの度合い、到達状況を察しながら、学びの構造自体を伝達し、創造的な思考や行動を育んでいくことにあるし、そうした教育を支援する政策が欲しいところである。本学では建学理念を具現化した茶道文化を教育に取り入れ、外国人留学生や就職先からも高い評価を得ている。
 一方、大学卒業に対する金銭的・時間的コストと、就職後の労働環境・処遇が見合わなければ、大学進学の意義は希薄化する。ステップアップや再挑戦のため大学と社会の間で人材循環を容易にする労働環境を形成しながら、大卒者に対する労働環境・処遇の改善が望まれる。
 更に、外国人留学生の卒業後の国内就職・生活環境の改善も必要であろう。ビザの関係等で卒業後は帰国せざるを得ないなど、出口側の政策が後手に回ってはいないか。外国人留学生の将来に対する期待に応えるため、省庁横断的かつ経済産業界を巻き込んだ取組が必要となる。

三、私立大学教育全体の問題点
 私立大学最大の問題点は、国公立大学との国庫支援の格差である。設置形態こそ私立であり、経営努力が必要なことは確かであるが、学生にとってみれば大学で学んでいることは同じである。私立大学に対する五割補助の早期実現を期待したい。
 それでも私立の授業料を国公立並にすることは困難であり、奨学金制度の充実も重要である。卒業時に数百万円の負債を背負った学生が正規就業できない状況が増加している。貸与型から給付型奨学金への転換が必要ではないか。国の将来を担う次世代育成という国家的観点での奨学制度を期待したい。ただ、昨今の法改正については気になるところもある。800校の私立大学は建学の精神、規模、設置場所、伝統等それぞれが違う。当然ながら学長の責任や役割も違う中で行政からの要請が細部にわたるきらいがなくもない。私立大学が自由な建学の理念で設置・運営されている以上、大学自身の自助努力は不可欠である。自由裁量権は認め、あくまで大学経営の責任は大学自身にあることの中、行政指導は最小限にとどめるべきであろう。

四、地方私立大学の問題点
 長崎県においては少子化と若年人口の県外流出が最大の懸念事項である。都市部以上の少子化、大学進学時や卒業時の都市圏への県外流出は、生産人口の減少による更なる少子化の進展を招く。また、地方内格差も存在する。県庁所在地と他の地域における産業・環境等の違いは、やはり域外流出を助長している。
 立地の問題は、教員の確保にも影響する。地方赴任に対する教員自身及び家族の心理的障害が人材確保の困難に繋がることは、地方私大にとって同じ悩みであり、また、都市部に比較した非常勤教員人材の不足は、多様な教育実現の妨げになっている。
 学生に視点を移せば、アルバイト先の不足、就職活動時における旅費等の金銭的負担や授業欠席等による学習機会損失の負担も軽いものではない。更に、地元就職においては、大卒処遇に見合う求人条件の少なさ、企業数自体の少なさもあるが、簡単に解決できるものではない。

五、「具体的な」高等教育政策等
 大学の資源は一に教育を担う教員である。地方私学に勤務する教員は、学生募集活動や教育に対するエフォートが相対的に高い。図書や研究設備等も都市部に比べて脆弱な場合も少なくなく、研究環境が十分に整備できていない場合もある。地方私学に在籍する教員対象の科研費があっても良い。一方で教員は、流動性のある働き方をする職業でもある。私立大学の建学理念や校風を引き継ぐのは、長期に在職する事務職員の担う部分が大きい。大学経営が複雑化・多様化する中、私学職員の専門的知識の向上やスキルアップが重要となる。私学事務職員の各種取組や研修に対する支援策が地方私学を活かしてくる。学生は、生活者として地域の経済効果を高め、若者として地域活性化の人的資源にもなる。学生を支援する自治体への優遇策なども国として考えられないか。日本の国づくり、一極集中をなくすために、地方の私立大学への支援は不可欠と考える。

六、地方の私立大学の存在意義
 果たして地方に私立大学はいらないのか。ひいては、日本において地方は不要なのか。
 長崎県の若年層の減少は年々厳しさを増しており、県内で平成3年に27,000人を超えていた18歳人口は、現在15,000人を下回り、10年後には12,000人にまで減少することが明らかになっている。
 今更であるが、管子の言葉を引くならば、「1年の計は穀を樹えるにしくなく、10年の計は木を樹えるにしくなく、終身の計は人を樹えるにしくなし」である。
 人を育てることこそが、地域を存続させ、国を次世代につなげることであろう。私立大学は、地域の中核人材を育てる役割を担い、これからも担っていく自負を持たなければならない。そのためにも、地方にもっと光を当てた大学政策が行われていくことを、期待するのである。

あべ なおき

 長崎県佐世保市出身
 昭和20年5月生
 昭和53年2月九州文化学園短期大学学長、昭和53年4月九州文化学園高等学校校長、昭和58年4月九州文化学園短期大学教授、昭和60年4月長崎短期大学学長・教授、平成10年6月学校法人九州文化学園理事長、平成12年4月長崎国際大学人間社会学部国際観光学科教授、平成24年4月長崎国際大学学長