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特集・連載

地方私大からの政策提言

「地域私大から国際貢献の人材育成」

(学)静岡英和女学院理事長  花森憲一

 静岡英和学院大学は、富士山の眺望の素晴らしさで知られる日本平のある有度山山麓にあり、この一帯には国立静岡大学と静岡県立大学もある。
 私は、理事長に就任して以来、静岡県に長く奉職した経験から、国公立の大学との違いを日々実感している。
 最近の静岡県の私大を取り巻く環境は、首都圏をはじめ他府県私大の県内学生募集活動の活発化、さらには県内私大間競争と厳しいものがある。
 そのような中で、地方私大が存在価値を高めるには、内にあっては学長を中心に建学の精神を守り、社会が要請する「人間力」を高めていくことである。また、外にあっては「地域」との結びつきと「地域」が求めている人材を輩出することである。この点から、私学にとって、「地方の私大」から「地域の私大」への意識改革が不可欠である。
 「地域の私大」としては、「地域産業」との関わりを大切にし、「地域の企業」から支持される大学の姿が理想である。
 静岡県は、産業のデパートと言われ、輸送機械を中心とする製造品出荷高は全国第3位である。また、近年はアジアを中心に企業の海外進出が盛んである。この点から、私大による「地産地消の人材養成」と「地元企業が求める国際人の育成」に対する考えをまとめた。
 先ず、「企業」から見ると、留学生を含め、国際貢献や地域企業の海外進出を支える人材の養成が急務である。また、「学生」は、人生の目標や目的のため、グローバルな社会で活躍する能力の重要性に気付いている。
 「大学」には、彼らが海外で活躍するために、論理的・批判的な視点を持った総合的な思考とそれを表現する語学力等の教育が求められる。
 具体的な提言の一つとしては、在学中の学生を対象とした新たな「産・官・学」が連携した仕組みづくりである。従来の「産・官・学」の連携は研究機関や技術を中心に新たな製品開発が狙いであった。これから必要とされるものは、在学中に「人間力」と「地域づくり」を学んだうえに「実学の企業研修」を加えた地元中小企業の海外進出を支える人材育成のシステムづくりである。
 現在、就職の促進と企業と学生のミスマッチを解消するために、企業へのインターンシップによる就職活動がある。また、最近は、民間主導で地元自治体を経由せずに、直接に商工会議所や商工会に交付される「中抜き補助金」制度がある。これらの制度の中に新たなシステムを組み入れることにより実効性を高めることができる。
 大学の授業に、国際人への教養とともに「実学としての企業研修」を組み入れることがポイントである。企業からは、「海外進出の狙いを通して、即戦力の企業人とは何か」を学び、大学では「国際教養はもとより、英語力、さらには宗教」を学ぶ。特に、「宗教」については、明治時代の西洋化に対してキリスト教教育の果たした役目などを再認識し、その国の思想、慣習さらに国民性を学ぶ。このことにより、「地域企業の要請」と「私学の建学の精神」がしっかり結びつく。
 また、このシステムに留学生も参加することで、現地企業での採用や雇用斡旋等に結びつくと思われる。いずれの学生も両国の懸け橋として国際社会の重要な一員となる。
 これらの提言が実を結ぶような支援を願うものである。
 二つ目の提言は、国際人として、発展途上国の国づくりを支える人材の養成である。
 既に、国民参加型の国際協力として、JICAがODA事業として実施する青年海外協力隊に参加する学生の育成と帰国後の活動を支えるシステムづくりを考えたい。
 「私大」から見ると、このような国際人の養成は、私大が持つ建学の精神(本学:「愛と奉仕の精神」)の具現化であり、また中高一貫から高大連携を目指すテーマである。「学生」から見ると、人生の目標や目的を考える機会となり、「社会貢献の道」を開くことになる。
 このシステムには、優れた資質を持つ若者の才能を伸ばす制度として、在学中に派遣された場合、単位の取得(単位認定)や経験を生かした指導者の道(大学院生)を一括して検討する必要がある。また、「地域私学」の国際貢献の趣旨から、高校から教育の一環として「高大一貫」の柱とした場合、高校生を対象とした大学への飛び入学も考えられる。
 以上の提言に当たり、我が大学では社会人への門戸の開放や英検2級をもつ入学生へのスカラシップ制度の導入などを積極的に進めている。
 三つ目の提言は、私大の財政基盤に関する提言である。
 法人の理事長の仕事は、財政基盤の安定性や健全性の確保を図り、柔軟な財政運営につとめ学習環境を積極的に整備することである。
 財政基盤の安定性や健全性の確保は、当然、大学の個々の責任である。問題は、法人の資金借入の際における連帯保証人である。現行制度では、理事長は、資本家と経営者の役割と責任を持ち、法人の借り入れ(過去を含む)について、担保物件の提供とともに理事長個人の連帯保証を要求される。学校運営や経営を立て直す任務は重責であり、経験豊かな適任者を確保するためにはこの連帯保証人を廃止する必要がある。このことは、行政が既に取り組んでいる中小企業や建設業の信用保証協会のような制度の検討と民法の連帯保証人廃止の動きが参考になると思われる。
 さらに、財政健全化を進めるためには、借り入れを可能な限り減らすことが重要であり、そのための「繰り上げ償還」に対する支援(公的貸付機関の繰り上げ償還の容認等)が得られれば、学校運営における将来の財政負担の軽減策となる。
 これら、「連帯保証人の廃止」や「繰り上げ償還」への支援は、資本家的な学校経営から脱却するきっかけの政策となり、早急な対応が望まれる。
 私は、最近、学生に「静岡県にみる」と題して「地域」、「県の機能と役割」、「地方」について3回の講義を受け持った。この講義の機会を通して、私は、地方にある私学は地域との一体感が不可欠であることを再認識するとともに、地域に根差した高等教育機関は「地域の歴史」からのメッセージを教訓に、先人たちが育んできた「地域愛」を知り、さらに高めていく役割の重要性を自覚したところである。

はなもり・けんいち

 1969年同志社大学卒
  同年静岡県庁入庁
 2007年同副知事就任
 2011年(学)静岡英和女学院理事就任
 2012年同理事長就任