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大学改革

-2-大学経営から見た通信教育課程
“学んで良かった”目指して

東北福祉大学通信教育事務部課長 古藤隆浩

 東北福祉大学は明治8年の曹洞宗専門学支校が前身、昭和37年に4年制大学となり、日本の福祉を第一線で担う人材を送り出してきた。通信教育部は、通信制大学院とともに平成14年に開設。①東北地方は大学進学率が低く、学位が欲しいという社会人のニーズがある、②福祉施設勤務のOBから、社会福祉士・精神保健福祉士の国家試験受験資格を取得したいという声が多く寄せられていた、ことが開設の趣旨である。
 12年目を迎えた通信教育部では、総合福祉学部社会福祉学科・福祉心理学科で約800名の新入生を迎え、在籍者は3400名、平均年齢は39歳である。在籍者の約6割が4年生以上という状態は、最短年限で卒業することは容易ではないことを示しているが、毎年300~350名の卒業者を輩出している。
 「私の人生にまだこんなに嬉しいことが残っていたんだと思った国家試験の合格、念願の卒業、61歳にして就職。裏を返せば、あの時願書を出さなかったら私の人生は…」という声に代表されるように、通信教育での学びをしっかり吸収し、自分自身の人生の物語を豊かにしている学生は数多くいる。開設の趣旨は概ね達成されている。
 戦後直後から通信教育の世界で尽力されてきた大学と比べると本学の歴史はまだ浅いが、どのようなことを意識して運営をしているかを事務職員の立場からまとめてみたい。
①スクーリングを増やす努力
 学生のスクーリング受講意欲は大変高い。そのため、いかにニーズにあったスクーリングを開講するかは、学生募集にも学生のドロップアウト対策にも非常に有効なものと考えている。開設初年度は22科目しかなかったスクーリングは、現在、毎週末に300科目にわたって、仙台以外に札幌・盛岡・東京・新潟会場などで開講している。ビデオ収録した講義を会場で流す「放送授業」、仙台会場の講義を同時に他会場へ配信する「同時双方向型のメディア授業」なども利用しスクーリングを増やしてきた。
 もちろん数を増やすだけでは意味がない。要求水準が高く、かつ基礎知識や人生経験がバラバラな学生に対し、真剣に向き合い講義されている学内外の先生方のおかげで講義満足度も非常に高い。社会人学生は、学んだことを持ち帰って実践できる職場や人間関係があり、「明日からのしごとのヒントになった」などの感想も多い。
②在宅で受講できるメディア授業
 本学はスクーリングを代替するものとして在宅で受講できるメディア授業を行っている。実際のスクーリング講義を録画し、不要な部分のカットや字幕の追加などの編集後、動画配信を行っている。担当職員には負担はかかるが、コストの問題もあり、コンテンツ制作面での外注はおこなっていない。
 こちらも、学生から「科目を増やして」という要望が寄せられるため、徐々に増やして現在38科目で実施。これ以上拡大が難しい点として、対面講義では認められている教育目的の著作権法上の例外規定が、学生が好きな時間に受講できるオンデマンド型メディア授業だと認められないという面がある。講義動画は、基本的にストリーミングであるし、たとえダウンロードできたとしても独自ソフトがなければ見られないようにしておくことは可能である。一定の要件を課したうえで、著作権上の例外規定がサーバー配信型の動画講義に認められるようになると、社会人向けのメディア授業もさらに普及すると思われる。
 なお、業者は昨年度よりネットレコーダー・ソリューション株式会社のソフトとクラウド型サーバーを利用している。スマートフォンへの対応は技術的には可能だが、現在は行っていない。
③ドロップアウト対策
 残念ながら入学者の25%ほどは志半ばにして退学する。このドロップアウト率を下げることは大きな課題である。スクーリングや各種ガイダンスは自分から参加する方のみしか救えない。そのため、1カ月に1度はメール配信、また新入生で何もやっていない方にご様子伺いの電話をするなどのサービスをここ数年行っている。
 「鉄は熱いうちに打て」の諺どおり、入学後すぐスクーリングに参加いただければドロップアウト率は大幅に下がるが、強制はできない。また、本好きな私には悲しいことだが、「印刷教材による授業」(レポート学習)が思うように進まない学生も多い。スモールステップ化などさまざまな試行錯誤の余地はあるように思う。
 ④わかりやすく誤解を招かない表現
 通信教育では、手引きや機関誌を読んで、まちがいなく学生が諸手続きを行い学習に参加してくれることが基本となる。そのために、各種の案内文で、わかりやすく誤解を招かない表現をすることには気を遣っている。
 なお、カリキュラムやルールを複雑にしないことも社会人対象の通信教育部では必要かと思う。GPAなども導入しない方が社会人教育にはよいように思える。
⑤運営組織体制
 教員は通学課程と兼任である。入学・教務・実習は通信教育事務部(実習担当助教2名、職員14名、アルバイト4名)で担当している。通学課程に比して多種多様な相談・要求があるため疲弊してしまう職員も以前にはいたが、現在は同じ業務を2人以上で担当するなどにし、ストレスの分散に努めている。
⑥学生募集の工夫
 直接の募集広告は私立大学通信教育協会の連合広告を中心に行っており、広告費は使っていない方と思う。ホームページ内の情報をわかりやすく提示する努力は募集に必要であろう。ただ、一番大切なのは、やはり学生満足度を上げて、多くの方がめざす目的達成を通信教育部で行ってもらえることで、それが後の入学者確保につながると思っている。
 なお、全国均一のサービスを実施することには費用対効果の面で限界があり、東北を中心に関東・北海道での学生募集に力を入れている。
⑦今後の課題
 昨今、教員免許状更新講習や来年度から本格的に開始する幼稚園教諭免許状・保育士取得の特例講座など、社会人が学ぶ機会が政策的に作られ、通信教育部が恩恵を得ている面がある。そこへの的確な対応も大切だが、社会人が大学で学びたいという気持ちになるような新しいカリキュラムをどうつくるのか、ニーズをどう掘り起こすか、ということに大学独自で取り組む努力は常にしなければと思う。なかなか難しいが、単なる資格・免許状取得のためだけではない、学んで良かったと思ってもらえる通信教育部に一層していきたい。それが大学経営にもプラスになろう。
 また、成績管理やメディア授業に対するシステム投資は何か新しいことを行おうとすると過大となる。共同開発でコストを下げることが実現できないのかを夢想している。
 最後になったが本稿は、公益財団法人私立大学通信教育協会の高橋陽一理事長や職員の方々、桜美林大学の鈴木克夫先生をはじめとする協会加盟校の教職員の皆様方からのご教示、そして学生からの多様な声に基づいて行ってきた取り組みである。これまで様々なヒントをいただいた方々に深い謝意を表したい。