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大学改革

-1-今日からはじめる自律的なSD実践個人編

大学行政管理学会大学事務組織研究会リーダー
学校法人芝浦工業大学  寺尾 謙

自律的なSD実践とは
 大学職員がSD(Staff Development)という言葉を聞かない日がないくらい浸透するようになった。SDに関連する書籍も出回るようになり、試行錯誤しながらSDを実践する大学職員も増えてきたと強く感じる。筆者が所属する「大学行政管理学会」においても、20代から30代の大学職員の参加が増えた。30代である筆者も、大学行政管理学会での活動を通じて、自律的なSDを実践し、そこで得た知見や人脈を業務に還元している。
 当然のことながら、SDは、社会人大学院への進学、教育関連学会や各種研修会への参加だけではない。個人が抱える日々の業務を通じて、業務そのものに価値を付加し昇華させながら成長を成し遂げ、大学事務組織力の向上にも寄与したSDも存在する。そこで、本稿では2回にわたって、今日から自律的なSD実践を始めるためのノウハウをまとめた。第1回は、大学職員を「個人」という視点で捉え「とある大学職員の自律的なSD実践」を事例として紹介し、第2回は、大学事務組織を「組織」という視点で捉え、組織が自立するために必要とされる「自律的なSD実践」の方法を紹介する。ちなみに、本稿における「自律的なSD実践」は、勤務先からの指示ではなく、自ら主体的に自己啓発、自己研鑚に努めるSD活動全般を指す意味であることを申し添える。
入職1年目からはじめた自律的なSD実践
 筆者自身が自律的なSDを実践し始めたのは、「学校法人芝浦工業大学(以下、本学)」に入職後3年目からである。ちなみに、前職も他大学の職員(4年間)であったため、恥ずかしながら、大学職員7年目から、大学院進学や大学行政管理学会での活動を通じて、キャリア形成を図った。しかしながら、筆者のような大学院進学は時間的な拘束が多く、事例として紹介しても実践に至らないケースが多い。そこで、今回は、本学に勤務する職員で筆者をメンター(良き相談相手)として慕ってくれる後輩で自律的なSDを実践するO君(本学2003年入職)の事例を紹介したい。
 O君は、都内にある総合大学の農学部を卒業し、本学に新卒で入職した事務職員である。筆者は、O君の何事にも積極的な姿勢で取り組む勤務態度を入職当時から高く評価していたこともあり、事あるごとに助言をしていた。そんな中、入職1年目の年末にO君から「上司に課外活動の企画を提案したいので企画書の書き方を教えて欲しい」と頼まれ、二人で勉強会を行うことになった。新年早々、都内のファミリーレストランで朝から夕方まで勉強をした。その日は、企画書の意義や前提条件の整理方法、仮説の立て方、構成に加えて、プレゼンテーションの手法について資料を用いて伝え、互いに勉強したことを記憶している。そして、これ以降、この勉強会は、「勉学部」という名前が付き、O君と筆者の二人で定期的に行っている。各回で各人がそれぞれテーマを決め、朝から夕方まで勉学に集中する。勉学終了後は、近くの居酒屋で夜遅くまで懇親するという流れが定番である。
 この勉強会をきっかけにO君からのあらゆる相談に対して、筆者はメンターとして答えたことで、O君は自律的なSDを意識し実践したことで、多くのスキルを体得した。プレゼンテーションについては、自らのセオリーを体系化し、本学大学院博士(後期)課程の学生に対して「パブリックスピーキング」を題材とした講演を行うまでの成長を遂げた。更に、この勉強会での取り組みにより新入生向け冊子の企画ならびに制作など、実現に至っているものが数多いこともO君の自律的なSDの実践により得られた実績である。つまり、O君は、メンターである筆者を利用しながら実績を積み成長を遂げたのである。
自らの努力で手に入れた「三年越しの海外留学」
 しかし、最もO君の自律的なSD実践として評価すべき点は、11か月間の海外留学である。筆者は、O君に対してメンターとして、常に他者との「差別化」によるキャリア形成の必要性を説いていたこともあり、筆者の大学院進学、それに続いたO君同期の職員が大学院進学を果たしたことで、自らの大学職員としてのキャリア形成に対して自問自答し、出した答えが海外留学であった。ここでO君は、学生時代に苦手としていた英語を再び学び直すことを始める。多くの場合は、得意なスキルを用いて、自らの可能性を伸ばすところであろうが、大学の国際化を見通し、「英語」に取り組んだ事は、自律的なSD実践として評価に値する。
 そして、O君は、英語学習と同時並行で、本学の人事部門・国際部門ならびに理事会に向けた自身の留学提案を開始する。本学は、古くから職員の自発的なチャレンジに対して許容する風土があったものの、1年近くに渡る海外留学は、当初かなりのハードルであった。O君は一つ一つの課題に真摯な態度で臨み、幾度にも渡る理事会でのプレゼンテーションを経て11か月間の本学提携校への海外留学(2008年4月から2009年2月)を実現させた。ちなみにO君は、TOEICのスコアは280点から840点にまで向上させている。その後、O君の留学期間中の実績が評価され、職員の本学提携校への留学は制度化され、期間は6か月間(10月から翌年3月)に短縮はされたものの、後輩職員が続いている。そして、O君は帰国後、新設学部の課外活動支援・キャリア支援の業務を経て、現在では産学連携の業務に従事している。O君は、現在でも海外の優れた教育を、日本の高等教育に取り込むための勉学に独学で励んでいる。
すべては意志と行動から
 O君はプライベートの時間も惜しまず勉学に励み、周囲の理解を得ながら、本学における職員の海外語学留学制度を確立し、留学を果たした。このことだけでもO君の自律的なSDの実践は賞賛に値する。なによりも、O君はOFF―JTに代表される大学院にも進学していないし、高等教育関連の学会にも所属していない。しかし、O君は日常の業務を俯瞰して捉えたことで、本学に必要なものは何かを自ら考え、結論を出し、自身に足りないものを補おうと勉学に励んだ意志と行動こそが、O君の自律的なSD実践のはじまりである。
 今日から出来ること
 しかしながら、O君のようなSD実践は容易ではない。そのような中で、時間的・物理的な制約により困難な方に、筆者は次の三つを推奨している。
 一つ目は、所属大学における規程集の熟読である。実は規程集を軽視する大学職員が少なからず存在する。学校法人(大学)を理解する上で規程の理解は確実に役立つので筆者は勧めている。
 二つ目は、履歴書(業務経歴書)を作成することである。転職を勧めるものではなく、自らの業務経験を自己点検・評価し、自らの大学職員としてのキャリア形成上の成果を確認するのみならず、そこから見えてくる課題を具体化するために作成するものである。
 三つ目は、所属大学を問わずに行う大学職員同士の情報共有である。仲間を作り語り合うことが自律的なSD実践の第一歩になるため勧めている。
 次回は、組織の視点から「規程集」「履歴書」「情報共有」を起点に取り組む「自律的なSD実践」について詳細を紹介する。(つづく)